37 DCD(発達性協調運動症)の把握とアセスメント
前回の記事で「DCD(発達性協調運動症)とは?」を書き、DCDの基礎について説明しました。
今回は「DCD(発達性協調運動症)の把握とアセスメント」について書きます。
DCDの早期発見・早期介入の大切
近年の研究で、DCDの原因は下記の説が有力です。
DCDは5歳~11歳の子どもの5~6%に見られます。
その症状は青年期になっても約50~70%と高い割合で残存します。
幼少期は
・始歩の遅れ
・発語の遅れ
・身辺自立の遅れ
など早期から本人以外の人が客観的に捉えることができる症状がみられることが多いです。
学童期以降になると
・学習障害の併存
・不登校
・引きこもり
など二次的な心理・社会的問題に発展することがあります。
また、DCDは発達障害の中でも積極的に診断されにくい障害の1つです。
なぜなら、困り感が他者に理解されにくく、周囲の障害に対してまだまだ理解されにくいことが多いからです。
よって、教師をはじめとする大人が叱責や過剰な反復練習を強制するなどして不適切な対応につながるケースも見られます。
その結果、DCDの子どもは苦手意識や劣等感を感じやすく、メンタルヘルスを悪化させ、結果的に不登校に発展する恐れも考えられます。
スクリーニングによる早期発見・早期介入で苦手な運動をある程度克服するコツを習得することにより、二次障害を予防できる可能性があります。
DCDを園や学校で気づく大切さ
園や学校で、子どもの運動の苦手さに気づくことは以下の2つの点において非常に大切です。
1つ目は、家庭で気づけない運動の苦手さなどの子どもの困り感を、先生が気づくことです。
運動の苦手さは、学習に比べて保護者や家庭ではあまり問題にすることがないからです。園や学校で顕在化するのがほとんどです。よって、先ほど述べたように早期発見、早期介入が大切になってきます。
2つ目は、運動の苦手さが、運動以外の問題に発展してしまわないように予防するためです。
運動が苦手なため、友だちと遊ぶことを避けることが考えられます。
また、鉛筆などの文房具を扱うことが苦手なために勉強嫌いになる可能性もあります。
DCDに気づくポイント
DCDは5~6歳頃から気づくことができます。この年齢より小さいと、月齢の影響もあり、判断が難しくなります。
下記の5つの視点は、3000名近くの子どもの様子に基づいて作られたCLASPという観察シートの一部です。
運動の不器用のある 子どもたちに共通するもので、1つでも子どもの様子が「常に」「いつも」にあてはまると、 DCD である可能性が高いとされます。
①他の子と比べて走り方がぎこちない、あるいは不自然である
例えば、膝が伸び切っている、手と足がばらばらに動いている、両方の腕が同じように振れない様子があてはまります。
②遊具やブロック遊びなど、身体を使う遊びで、うまく身体を動かしたり、スムーズに遊びをすすめたりできない
例えば、ジャングルジムやなわ跳び、三輪車などが同じ年齢の子どもと比べて極端にスムーズにできなかったり、遊び方がわからなかったりする様子がみられます。
③長い時間座るときに、疲れやすく、姿勢が崩れたり、椅子からずり落ちたりする
例えば、座るときに身体がぐにゃぐにゃとすることや、毎回座るたびに姿勢がかわること、同じ姿勢を長い時間、保てないことなどがあてはまります。 【手や指を使う運動】
④絵などを描くときに、何を描くかは思いついているのに、描く動作(手の動きなど) がスムーズでなく時間がかかる
例えば、絵を描くときに、描き始めてから完成するまでに著しく時間がかかることです。注意としては、何を描くか分からなかったり、考えていて時間がかかったりする場合は、これにはあてはまりません。
⑤お絵かきや塗り絵の時に、何を描いたか大人に伝わらない
例えば、描いたものが“ぐちゃぐちゃ”で内容が伝わらない、顔を描いた時に目・ 鼻・口がわからないことです。注意としては、独創的な絵の場合は、これにはあてはまりません。
学校でDCDに気づくポイント
小学校では、学習や生活の内容が広がるために、DCD のない子どもであっても、苦手とする運動があります。
そのため、ここでは DCD の子どもに共通してみられやすい様子を挙げます。大切なことは、これらのポイントが、時々や特定の時期のみではありません。
「いつも」「常に」みられることが重要なポイントです。
【身体全体を使った運動やバランス】
①授業中に座る時と朝礼などで立つ時に、ともに姿勢が崩れやすい
座る時に身体がぐにゃぐにゃとしたり、腕や頭が机に寄りかかることです。
また、立つ時は、常に揺れていたり、座り込む、誰かに寄りかかることがあてはまります。
②ダンスや体操の時に、身体の動きが音楽・掛け声とずれている、ダンスや体操の「動き」を覚えることに時間がかかる
掛け声から常に 1 テンポ以上遅れて身体を動かすことです。また、他の覚える学習(例:漢字や知識学習)と比べて、身体の動きを覚えることに時間がかかることです。
③道具を使う体育「全般」で困り感が大きい
なわ跳びや鉄棒、跳び箱、平均台など、全てにおいて身体の動かし方がわからないことです。どれか1 つの道具のみに苦手さがある場合は、これにはあてはまりません。
【手や指を使う運動】
④文字がマス目や行からはみ出ることが多く、文字の崩れが著しい
書くべき文字が分かっていても、マス目や行に収まらないことです。また、 文字の形が崩れており、他の人が文字を読むことが難しいことです。
⑤プリントや折り紙が綺麗に折れない
授業で使うプリントやお手紙を折る時に、端と端が揃わないことや、毎回折り方が変わることです。
簡単な折り紙の作品ができないこともあてはまります。
⑥道具を使う教科および生活「全般」で困り感が大きい
例えば、算数の定規やコンパス、音楽のリコーダーや家庭科の調理器具を使った学習があてはまります。
また掃除の際に、雑巾を絞れないこともあります。どれか1 つ の道具のみに苦手さがある場合は、これにはあてはまりません。
DCDの子どものさらなる理解
DCDの子どもの障害の特性を理解し、2次障害を予防するためにも、以下の視点でさらなる理解を図る必要があります。
本人の気もちや態度に寄り添う
DCDの子どもは文字を一生懸命に書こうとしても、文字が乱れたり、何度も書き直すことが多いです。
書くこと以外の手や指を使う運動
定規で線を引く算数や、鍵盤ハーモニカを使う音楽など、書くこと以外の手や指を使う運動にも苦手さがあるか調べるとよいです。
家庭での様子
書く宿題だけは嫌がるか調べましょう。また、ひもを結んだり、スマホやタブレットを使う時に誤作動(違ったボタンを押す、入力を誤る)がないかも聞いてみるとよいです。
心の面
書くことを嫌がるだけでなく、勉強全般に渡って嫌な気持ちがでていないか気にしてみるとよいです。諦め、投げやりな発言が出ている場合は本人の困り感が強く、早めの対応をしたほうがよいサインです。
まとめ
以上の3点が「DCD(発達性協調運動症)の把握とアセスメント」で大切なことだと考えます。
教師がこの発達障害を知らずに指導をし、できないレッテルを貼ってしまうことで不登校や引きこもりなどの悲劇を生む未来が見えるようです。
教育者として、全ての子どもの健やかな成長と笑顔のために、学び続ける教師であり続けたいと、DCDについて学ぶ中で考えさせられました。
今回の記事は以上になります。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
参考文献
令和 4 年度障害者総合福祉推進事業 「協調運動の障害の早期の発見と適切な支援の普及のための調査」 DCD支援マニュアル