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連続不審火 (1分小説)
最近、不審火が多発している。
おとといは、一丁目の平屋が半焼。きのうは、三丁目のマンションが全焼。
そして今、となりの原田家が、黒煙を上げて燃えている。
原田家の息子(18歳)は、ベランダから、我が家の庭にダイブして救出された。
「いつものように、ツイッターで、アイドルのMiyukiをディスってたんだ。そしたら、ネット上で炎上騒ぎになってしまって。対応してたら、今度は、自分の家まで火事になっちゃった」
私は、持っていたスマホで事実確認。
確かに、Miyukiに対して、中傷を繰り返している投稿があった。
「ネット上の炎上が、実際の火事を招いたというわけ?変わった怪奇現象ね」
「連続不審火も、ネットでの中傷やリツイートと、何らか関係があるのかもしれないよ。それはそうと、ボクのアカウント、まだ凍結されてなかったんだ。ラッキー」
原田が喜んだ瞬間、彼の両足が、なぜか突然凍り始めた。
リアル凍結である。
救出を試みたが、あっという間に胴元まで凍ってしまった。
「今すぐ、ボクの投稿をリツイートしてくれ。火事を起こして、この氷を溶かすんだ!」
しかし、命掛けの彼の懇願を私は断った。
リツイートも、中傷と同じくらい重い罪だから。
【その夜】
Miyukiが、警察とともに我が家にやってきた。
彼女は、完全に凍結してしまった原田の姿を見て「全く面識がない」と言った。
「接点は、ネットによる中傷以外なし。これは、Miyukiさんの熱狂的なファンによる、原田への報復かもしれませんね」
「ああ、そうだな。
ネットを使って、実際の火事や殺人を起こせる時代になってきたんだな。我々、刑事の頭もアップデートしないと、ついていけないよ」
警察が現場検証をしている間、私は、Miyukiにそっと近づいてみた。
「本当は、あなたが、連続不審火に便乗して、今回の事件を起こしたのでは?」
アイドルらしい柔和な顔が、真顔に変わった。
「私は関与していませんよ。今回の事件のおかげで、他の放火は上手く隠せてるけど」