ネットサーフィン (1分小説)
ドラマに出てたあの人、誰だったっけ。【検索】。田中愛実か。田中愛実って、若い俳優と付き合ってたはず。ググる。
江口拓だ。確か一回捕まってたよね。【検索】。そうそう、大麻で。
大麻って、一見、紫蘇の葉っぽいよな。紫蘇の美味しいレシピ、あるかな。【ググる】。
アジの紫蘇巻きか。彩り悪いな。【検索】。
しばらくして、階下でママの声がした。
「晩ごはんよ」
待って。今、アタシ史上、一番でかい波に乗ってるから。
同じ学科の佐奈ちゃんが、エロサイトに出てる。教員試験受けるって言ってなかったっけ。ヤバいよ、佐奈ちゃん。【ググる】。
「あんた、毎日、何時間ネットサーフィンやってんの!?」
だって、自力では止められないから。
ママが、勢いよく私の部屋のドアを開け、サメを一匹投入して閉めた。
ネットで見たことがある。映画『ジョーズ』の世界だ。
サメはバックリと口を開けて、私の全身を飲み込んだ。
途中、食道がネバネバして生臭かった。
胃の中に到達した私は、真っ暗な体内から 、スマホの光を頼りに「サメ」「丸飲み」「脱出」で【検索】。
Wi-fiは、こんなところにも飛んでいるようだ。
「何か、固い物で抵抗する」
グーグルの、雑すぎる検索結果に唖然。
固い物はスマホしかないし、こんなに小さな物では、当然サメには勝てない。
「懲りた?」
細い光が差し、ママの声が響いた。サメの口を押し開けて、私に話しかけているようだ。
「うん。もう、スマホはしない」
縄が胃の中に垂らされた。
私はスマホを捨て、両手で縄をしっかりとつかんだ。
サメはアゴを傘で固定され、大きな口の中から、ママの顔がのぞき込んだ。
「お帰りなさい。ごはんよ。アジの紫蘇巻き」
紫蘇。
「スマホの内容、どこかで見てた?」
ママは声を潜めた。
「いいえ。私たちの思考は、とっくにハッキングされていて、いいように情報操作されているのよ」
……一体、誰に?