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二次審査 (1分小説)
私が、レオタード姿で審査員の前に立つと、ヒソヒソと声が聞こえてきた。
「あの娘よ」
「知ってる。有名よね」
『コーラスライン』『ライオンキング』『フラッシュダンス』『シカゴ』『オペラ座の怪人』。
数々のオーディションを受けてきたから、私の名は、そこそこ、舞台関係者の間では知られているのだ。
今回のオーディションは、特別で。
ミュージカル『キャッツ』は、幼い頃、女優という夢を目指すきっかけとなった作品でもあり、その分、思い入れも深い。
「田辺亜矢、21歳。ブロードウェイまで行って、発声やダンスのレッスンを受けてきました。二次審査も頑張ります。よろしくお願いします」
熱意を込めて、アカペラで『キャッツ』の代表曲『メモリー』を歌い、コンテンポラリーダンスを披露。
我ながら完璧だった。
室内に、ざわめきが起こる。
審査員の一人が口を開いた。
「キミは、一次審査で落ちてるよね?」