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マトリョーシカ (1分小説)
10歳になるナターシャは、今は亡き、ひいおばあちゃんが作ったというマトリョーシカが大好きだった。
家の者が、代々使って遊んだため、年季が入って真っ黒に光っていたが、既製品にはない温もりがあった。
「綺麗にしてあげる」
エタノールを染み込ませたコットンで、マトリョーシカを拭いていると、赤色や黄色のロシアの民族衣装をまとった女性が浮かび上がってきた。
「金髪ロングで、こんなにパッチリとした青いお目々をしていたのね」
ナターシャは、中に収まっているマトリョーシカたちも気になり、順々に開けて、拭き取ることにした。
「内側になればなるほど、アジア人っぽい顔になっていくわ」
一番内側にある小さなマトリョーシカは、黒髪おかっぱ頭、切れ長の瞳、着物姿で、どこからどう見ても100%アジア人だった。
「ちょっと、おばあちゃんに似てるね」
母親に聞いてみた。
「おばあちゃんではなくて、あなたのひいおばあちゃんよ」
母親は、小さなマトリョーシカを両手で包み込んだ。
「きっと、自分自身を重ねて作ったのよ。だんだんと祖国から遠退いてゆく未来を、人形を使って表したんだわ」
それは、北方領土の樺太島、とある家庭での話。