漫画みたいな毎日。「子どもたちは、〈今の自分の能力〉を知っている。」
北海道には、梅雨は存在しないと言われていた。
しかし近年では、本州ほど蒸し暑くはないが、ムワッと湿度を感じる雨の日が続く、蝦夷梅雨と言われる期間のある年が増えたようだ。
爽やかな夏の北海道も変化してきているのかもしれない。
曇りや雨の合間の水曜日。
子どもたちが待ちに待った〈いちご狩り〉に出掛けた。
今年は5月の終わりから6月にかけて雨が多く、気温も低い日が続き、苺の生育は例年よりもゆっくりとのこと。苺の様子や前日の来客数によって、休園になることもあるらしい。果樹園に問い合わせ、「朝は9時から」と開園時間を確認した。
前日から、「いちごが無くなったら大変!」と、そわそわする我が家のいちご姫。
では9時を目指して行こうということになり、8時半過ぎに家を出発し、到着したのは9時を少し過ぎた頃だった。
開園してまだ15分程なのに、いちご畑には既にいちごを摘み取る人の姿が何人も見える。
この果樹園は関東から移住し就農した方が運営しており、林檎狩りやさくらんぼ狩り、さつま芋掘りもしている。我が家も今までいずれかのタイミングでお世話になっている。
「いちごの生育が遅いので、今日は摘み取りだけで、持ち帰りできないんです。」とのこと。残念だが、摘み取りできるだけでもありがたい。しかも、時間は無制限だ。
子どもたちは、各々、自分で「美味しそう」と思ういちごを選び頬張る。
品種もけんたろう・エラン・宝交早生・ゆきらら・さとほろの5種類。食べ比べも楽しい。
いちごってしあわせな食べ物だ。
果樹園のいちご豆知識。
美肌!老化防止!
それを聞いただけでも、女性に、いちご好きが多い事に納得した。
末娘も知らないうちにアンチエイジングしているのか。まだ4歳だというのに、余念がない。見習いたい。
子どもたちのいちごを食べる姿は、なんともしあわせそうだ。
一通りお腹いっぱいになったら、果樹園の敷地の林檎畑を見学に行き、草の中を走り回ったり、虫を探し。お腹が空いたコールに応じて、持参したお弁当をピクニックシートとキャンプ椅子を広げランチタイムだ。果樹園では、入園料を払えば、いちご狩りをしなくても敷地内でピクニックもOKである。
お腹が落ち着いたところで、果樹園から川岸に出られる道を辿って、川へ遊びに行く。川の流れはそこそこ早く、川幅も広いので、川岸で足を浸けたり、石投げをしたり、石拾いをしたりする。
石に藻が生えているので、川の中は滑る。
子どもたちは、自分の感覚でそれを確かめながら、飛び石を渡る。
長男は慣れた様子で川の真ん中まで行くと、持ってきた釣り竿に石の下で見つけたトビケラの幼虫を餌にして、釣りを始める。
二男は慎重に自分で苔の具合を確かめながら、川の真ん中まで行く。
末娘は、「怖いから手を繋いで~!」と夫と手を繋いで飛び石を渡る。しかし、慣れてくると自ら手を放し、自分の渡れそうなコースを模索して、ひとりで石を渡り始める。
川遊びは、いつだって危険と隣り合わせだ。
夫も私も、子どもたちの姿から目を離さず、転んだり、滑ってもすぐに対応できるように心の準備をしておく。
大人が、あ、ちょっと危ないかなぁ・・・と思っても、「危ないよ」と、声を掛けたくなる場面があっても、ぐっと堪える。
親が試されるよなぁ・・・とハラハラする。
でも、そこを堪えると、見えてくる景色がある。
子どもたちが川で遊ぶ姿を見ながら思う。
子どもたちは「自分の今の能力」を自分で知っている。
それを信頼すること。それが、大人に出来ることだと思う。
二男や末娘がちょっとバランスを崩すとハラハラするが、決して顔には出さない。心の中では「うおぉぉ~今の怖っ!!!!!」と叫んでいる。
バランスを立て直した子どもたちは、私の方をちらりと見る。
「ほら!大丈夫だったでしょ!」
そう言わんばかりの顔で。
だから私は、笑顔でうなずく。うんうん、あなた達は大丈夫なんだよね。と。
夫が、「大人はハラハラするけど、こういう体験って子どもにとっても、大人にとっても必要だよね。自分で自分の今の力を知って、更に、どこまで自分が出来るか体感するのってさ。」
その通りだと思う。
川は、怖いから、危ないから、とすべてを制止してしまったら、永遠に経験することはできない。危険なことは勿論あるから、大人が見守る中で、最大限経験できたらいいなと思う。
さて、そろそろデザートにいちごを食べにいこうか、と思っていると、「わぁ~!」と二男が滑って膝を濡らした。
その直後、すっかり自信をつけて、飛び石を渡っていた末娘が、つるんと滑って水没。下半身が、びしょびしょになって「お尻が痛い~!」と泣いた。
予想の範囲である。
上手で転んだから、お尻が痛いだけで済んだんだね!
転び方が上手だったよ!
と、末娘の濡れた洋服を脱がせて、持っていたタオルで拭く。着替えは車の中だ。私の巻いていた大判のストールを末娘の身体に巻き付けると、「ドレスみたい!歩けないから抱っこして~!」と相変わらずのお姫様である。
夫が末娘を抱え、車に戻り、濡れた人は着替えをし、再びいちごを頬張る。
果樹園を後にしたのは、15時をまわっていた。
今日も佳き一日だね、と夫と顔を見合わせる。
初夏の香りが車の中に溢れている中、子どもたちはあっという間に眠りに落ちた。