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『砂の器』脚本を木次線沿線ロケ地実景と味わう


ロケ地実景×脚本

 映画『砂の器』(1974年)の脚本(シナリオ)は、ご存知の通り、橋本忍と山田洋次の手によるものです。
 そもそも脚本とは映画を作るための「設計図」ですから、当然映画と脚本の内容はおおまかには一致しています。しかし、脚本に書かれた台詞やト書きを読むと、細かい部分では必ずしも完成した映画と同じではないことに気づきます。
 映画そのものとは違い、スタッフや出演者、関係者以外の一般の人たちが目にする機会はほとんどないですが、脚本を読むことで脚本家自身がそれぞれの場面をどんなイメージで思い描いていたかが伝わってきますし、また一文一文の表現の仕方にも独特の味わいがあります。
 そこで遊び半分なのですが、映画のロケが行われた島根県の木次線沿線の現在の風景に脚本の文章を重ねた画像を作成し、いくつかXに投稿してみました。それらの画像を、物語の流れに沿って、ここにまとめておきたいと思います。映画のシーンを思い浮かべながら、木次線を旅する気分になって楽しんでいただければ幸いです。
 なお『砂の器』の脚本は映画製作の過程で何度も書き直しをされており、複数のバージョンが存在しますが、ここでは映画公開の翌年に発行された『年鑑代表シナリオ集 一九七四年版』に収録されたものを引用しています。

今西、木次線に乗り換える

宍道駅

56 宍道湖畔――宍道駅
今西、フォームのベンチに小さなボストンバックを置き、ポツンと腰をおろしている。
タイトル。
<時間に余裕があれば、松江や宍道湖も見物したい>
<しかし、先を急ぐ、#木次線 経由広島行、準急千鳥号を待つ>
× × ×
今西、準急千鳥号に乗り込んでいる。
57 宍道駅
山陰本線から別れ、発車していく千鳥号。

映画『砂の器』脚本(橋本忍・山田洋次)※原文ママ

今西、桐原老人を訪ねる

亀嵩・「桐原老人邸」として撮影された家

73 亀嵩の町(翌朝)
今西、若い駐在の警官の案内で歩いて行く。
朝から暑くもう降るように蝉が鳴いている。
タイトル。
<亀嵩の旅館に一泊>
<翌朝、桐原氏を訪ねる>
<被害者三木謙一の駐在当時、最も親しき人、算盤業を営む>

同上

今西、「亀嵩駅」に立ち寄る

「亀嵩駅」として撮影された八川駅

80 木次線・亀嵩駅
駅員の二人しかいない建物が、かすかな蝉時雨にひっそり静まりかえっている。ジープから降りた今西、駅舎の横の柵に近づいて、ポツンと立つ。
その頬にはどうしようもない深い悲哀の翳が宿る。
今西、虚しくじっと瞶めるフォームの駅名札。

同上

三木、本浦父子に出会う

亀嵩・湯野神社

170 村外れ・その神社の前
三木、自転車でやってくる。
と、鳥居の中からバラバラ蒼い顔をした二、三人の子供が飛び出してくる。三木「どうした!」
子供一「(振返って指差し)拝殿だ!」
子供二「拝殿にいる、拝殿に!」
三木、自転車を立てかけやにわに走り出す。
171 神社の石段
駆け上る三木

同上

秀夫、川原で砂の器を作る

秀夫が砂の器を作った久野川

180 斐伊川の川原
草むらに小さな砂の器が一つ。
秀夫――流れの手前の砂場で、黙々と一人で小さな器を作っている。

同上

千代吉、運ばれていく

下久野・「亀嵩駐在所」のセットがあった場所

183 駐在所の前
秀夫、ポツンと立っている。
遠くから荷馬車がゴトゴトやって来る。じっと突っ立っている秀夫。
荷馬車は次第に近づいて来て、駐在所の前にさしかかる。
三木、車夫に声をかけて停めさせる。
秀夫、千代吉を見る。
千代吉、秀夫を見る。
今はもうお互いに言葉もなく、ただジッと食い入るように瞶め合う親と子。
駐在所の中で、思わず眼頭を抑えて顔をそむける三木の妻。
三木、そっと千代吉の肩を叩き、車夫に声をかける。
荷馬車、ゴトゴト動き出す。
駐在所の前でじっと立っている秀夫。
荷馬車は次第に遠去かり、道をまがって見えなくなってしまう。

同上

父子の別れ

父子の別れのシーンが撮影された出雲八代駅ホーム

188 亀嵩駅 
蝉時雨の中でひっそり静まり返っている。
189 同・駅のホーム
駅名札の下に、千代吉、悄然とうずくまっている。
傍に三木、役場の衛生係、光風園の係員。
二、三人の乗客は遠く離れて立っている。
時計を出し、汽車の発車時間を確かめる駅長。
と、三木、変な顔をして、柵の向うを見る。
駅の向うの道へ、弾丸のように現れる秀夫の姿。
190 秀夫
駅の前の坂をかけ上る。
駅舎の横の柵をとび越える。
191 同・ホーム

弾かれたようにヨロヨロ身体を泳がして立上る千代吉。
秀夫、線路を横切る。ホームへとび上る。弾丸のように千代吉の胸に飛びつく。千代吉、無我夢中で抱きしめる。秀夫、泣く。引裂くような声で泣く。
千代吉、絶叫の呻き声で抱きしめる。
その親と子の有様。
入構してくる汽車の汽笛の音。

同上

『砂の器』と木次線との関わりを地域の視点から書いています。ぜひご一読下さい!


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