すみたに
デビュー前に「小説家になろう」で連載していた小説です。基本的にBLですが、女の子との恋愛、近親恋愛(いずれも行為描写なし)も含みます。商業誌未発表。十数年前に書いたものなので拙いところも多々ありますが、そのまま掲載します。時代的にそぐわないもの(SNSツールなど)のみ修正しています。
それは、うだるような暑さの七月下旬のこと。 市の検診で「引っかかった」私は、大腸の内視鏡検査を受けた。初めての内視鏡、検査に行き着くまでが辛くて、でも始まってしまえば痛みも感じず、落ちついていた。 「入り口に大きなポリープがある! うーん、これは開腹しないととれないかも……」 「えっ、開腹って手術ですか?」 持病でお世話になっている総合病院だが、消化器内科にかかるのは初めてだった。でも、気さくな先生で、そもそも病院自体がもう、私にとっては第二の家のようなものだから。 「
4 「一人で帰るって言うから心配でさ。今日、なんか元気なかったし……そしたら、屋上の方に行ったって聞いて……」 自分がここにいる事の次第を説明しながら、急に高木は俺に対して目をつり上げた。 「夏原ぁ!」 坂崎を背に庇うようにして、俺に数歩歩み寄る。おいおい、俺は呼び捨てかよ……。 「あんた、春菜に何かしたの?」 「してねえよ……」 高木の迫力に、俺は押され気味だった。 「じゃあ、なんでこんな人気のないとこに春菜を連れ込んでんのよっ!」 「人聞きの悪いこと言うなよ。トモの
3 仕方なく預かってしまった坂崎のスマホの電源をオフにする。 人質をとってるみたいで嫌な気分だったが、坂崎自身がそのことを望んでいるような気もした。だから預かったのだ。 彼女は納得したわけじゃない。やり切れなさと怒りを抱え、でも、こういう形で「言わない」と約束してくれたのだ。スマホがなくたって、バラそうと思えばなんとでもできる。でも俺は、坂崎を信じようと思った。 理不尽だよなあ……某テーマパークキャラのケースに包まれたスマホをスクバの中につっこんで、俺はベッドに寝転が
2 そんなわけで俺は、薫とは親友づきあいをしながら、トモとは距離を置き続けた。 あちらが俺に興味を示すことはなく、俺とトモの距離はクラスメート未満のまま、系列の高校へと進学した。高校生になってもトモは相変わらず、来る者拒まずで女の子にもてまくっていた。一方で薫も、坂崎や他の女の子に好きだと告られていたけれど、結局、薫は誰ともつき合わなかった。 そして俺はと言えば、あんなにトモに薫をとられたような気がして腹が立ったのに、薫を好きだという女の子が現れても、別に何も感じなかっ
(本編で春菜がカオルとトモの関係を知った辺り。その時夏原たちは……) 1 「待てよ、坂崎、待てったら!」 「ついて来ないで!」 小走りで前を行く坂崎春菜の腕を捕まえようとして、俺――夏原仁志は彼女を追いかけている。 「止めたら、大声出してやるから!」 そんな彼女の脅しに道行く人が振り返り、俺はもう少しで、女の子を追い掛け回す危ないヤツとして通報されそうになっただろう。 坂崎は、どちらかというとおとなしい方だと思っていた。少なくとも、こんな風に感情むき出しで声を荒げるタ
終章 ハッピーバースデー <side カオル> 忘れられない夏が終わった。 いっぱい傷ついて、いっぱい悩んで、それと同じくらいの幸せも味わった。そして、誰かを好きになるっていうことの意味が、ほんの少しだけわかったような気がする。自分も相手も周りも巻き込んで、それでも思いを止めることができない。傷つくとわかっていてもやめられない。これからもきっといろんなことがあるんだろう。僕たちはまだ、わからないことばかりを抱えている。まだ、道の途中にいる。 シアトルから帰って、
第十三章 夏の終わり <side カオル> 次の日の朝早く、桜子は本当に出て行った。来た時と同じように軽装で、ほんの少し増えただけの着替えの入った小さなバッグを持って。 彼女が使っていた部屋は整然と整頓されていて、きちんと折りたたまれたブランケットがベッドの隅にぽつんと置いてあった。彼女が居た痕跡はそれだけだったけれど、彼女は僕たちの心に様々なものを残していった。トモの出生についての疑念と、きっとこれからも昇華することのないトモへの思い。トモに抱きとめられた僕を見た、
第十二章 結末 <side カオル> 注:男の子同士の性描写があります。 「出て来いよ」 僕を抱きとめたままトモは言った。彼の腕に抱かれたまま振り向くと、そこに桜子が立っていた。 「ーー」 僕は一瞬、息を呑んだ。その僕の肩をトモがもう一度強く抱き寄せる。 「わかっただろ?」 トモは挑戦的な、威嚇するような口調だった。 「俺はカオルのもので、カオルは俺のものなんだよ。あんたの出る幕はないから」 真実を知らないトモは、桜子が僕のことを好きなんだと思っている。だから野良
第十一章 十日間 3 <side トモ> 身体に重みを感じて目が覚めた。 半分うつ伏せみたいになって寝ているカオルの左腕が、横向けの俺の背中の上に乗っかっている。もともと肩を抱いてたのが、眠っているうちに滑り落ちてここで止まったという感じ。その腕から泳ぐみたいに這い出ると、カオルは小さく身じろいで頼りなくなった腕を自分の胸に引き寄せた。 こんな仕草なんか子どもみたいに可愛いのに、俺に触れる時のカオルは、ものすごく男だった。優しいかと思えば荒々しくて、歯止めが効かな
第十一章 十日間 2 <side カオル> 「俺から、あんたに言っときたいことが四つある」 トモは桜子に言った。桜子は、まだトモを正視することができない。急にふりかかった現実に慣れないのは仕方ないことだと思うけれど、目を合わさないようにトモから視線を外す桜子の怯えたような表情は、よけいにトモのイライラを募らせるようだった。 「まず第一に、カオルに手を出すな」 「ちょ、トモ……」 僕は慌ててトモに目配せをした。だが、トモは構わずに言った。 「こいつには好きなやつがいるから
第十一章 十日間 1 <side カオル> 注:BL的触れ合い描写があります。 僕は、その短いLINEを凝視した。 「たすけて」の後には、○○町三丁目 コーポエイト201 と記してある。 何かが桜子の身に起こって、ここに迎えに来て欲しいということなのか?……僕はスマホを握り締めた。 「どうした?」 トモが声をかけた。僕がスマホを持ったまま立ちつくしているので、変に思ったのだろう。 「カオル?」 呼びかけても返事をしないので、トモは僕の手からスマホを取り上げた。あっ
第十章 二人の夜 3 <side カオル> (注 BL要素高いです。男の子同士の行為描写があります) あの日ーー僕とトモの初めての日ーーの翌日は、一学期の終業式だったが、僕たちはその日も結局学校へ行かなかった。いきなりただれているが、初めてふたりで迎えた朝はまだ夢の続きで、僕は現実に立ち戻りがたく、トモはといえば……首筋や腕に散ったキスマークが目立って、これじゃ人前に出られないと言った。 「カオルのせいだから」 サボる気満々のくせに、トモは人のせいにする。確かに僕のせ
第十章 二人の夜 2 <side カオル> (注 BL要素多いです) 「いつから?」 トモの口調は硬かった。戸惑っているのはわかるけれど、少なくとも拒否や嫌悪は感じられない。 「ちゃんと自覚したのは、一年くらい前から。でも、部屋のことでケンカしたあの頃から、きっと、もう好きだったんだと思う」 いったん言ってしまえば、言葉はよどむ事なく流れ出る。長い間のつかえから解放されて、僕は心が軽くさえ感じていた。 「……気持ち悪い?」 「そんなこと!」 トモは、ここでやっと大き
今日は雑記の更新です。いつも「トライアングル」をお読みいただいている方、ここを見ておられましたらありがとうございます。あとで更新しますね。 昨日は、補聴器の調整に行ってきました。 トレーニングしてつけ初めて約一年、正式に自分のものを着用して約半年、順調だと思っていたものの、ここ数ヶ月ほど聞こえが悪くなって……。テレビの音量を三〜四段階上げ、かつiPhoneでの操作も、レベルをデフォルトからやはり三段階くらい上げなければ、ドラマもアニメも台詞が聞き取りにくい。 人との会
第十章 二人の夜 1 <side カオル> よく眠れなかった。 うとうとしては、浅い眠りから覚める。身体も気持ちも疲れているのに、隣に人が眠る緊張感からなのか、どうにも落ち着かない。一方、桜子は僕の隣で規則正しい寝息をたてていた。取り合えず、桜子が僕の側で安心して眠っているので、これでよかったんだ、と思う。 もう眠ることをあきらめて、僕はベッドから抜け出してソファに移動した。もう明け方なんだろうけど、ラブホテルというのは窓が閉ざされていて、明るいんだか暗いんだか、
第九章 センチメンタルジャーニーと、一人の夜 3 <side トモ> 午前七時。 起きたら、カオルはもういなかった。そんなに寝過ごしたつもりはないから、ずいぶんと早く出て行ったようだ。たぶん、俺が起きる前にと急いで。 「遅くなるからメシは待つな」という、一方的なLINEを残して、まるで逃げるようにカオルは居なくなっていた。 逃げるように? 何から? 俺から? 本当に最近のあいつときたら……昨夜のことにしてもそうだ。急にああいうことをしたと思ったら、勝手にテンパって飛