Food Tech(フードテック)で注目されている日本のスタートアップ
不可能を可能にするというと、とても響きのいいというか、単純に格好いい表現だ。
そして、いつの時代も不可能を可能にしようとする人たちが登場する。
そういう人たちを総称するのが、起業家だと思っている。
そして、起業家が仲間を集めて、試行錯誤しながら組織を大きくしていくのが、スタートアップだ。
今回は、フードテックという分野で注目されているスタートアップにスポットを当ててみようと思う。
今さら聞けないFood Tech(フードテック)ってなぁに?
Food Tech(フードテック)とは、Food(フード)とTechnology(テクノロジー)を組み合わせた造語だ。
最先端のテクノロジーを活用し、新しい食品や調理方法、食に関する環境を変えることを意味している。
IT技術の発展により、従来では考えられなかった取り組みや技術が、食材の生産や調理現場に加わることで、新たな付加価値を生み出しているのである。
例えば、牛や豚といった肉を一切使用しない植物由来の大豆のお肉は、欧米を中心に新たな選択肢として受け入れられつつある。
こういった、食 × テクノロジーの分野であるFood Techは、徐々に私たちの身近なものとなっている。
その市場規模は、2025年までに世界で約700兆円規模になるという試算もああるほどだ。
植物由来の成分で作られた代替肉や肉の細胞を増殖させて作る培養肉など、食品そのものだけがフードテックではない。
ITテクノロジーを駆使した農業や酪農、消費者の食に関するデータ収集や解析など、さまざまな場面で食とテクノロジーは融合している。
世界中でこの動きは活発になってきており、Food Tech(フードテック)関連のスタートアップ企業は次々と成長しているというわけだ。
Food Tech(フードテック)が注目される理由
勘のいい人であれば、上述したあたりから、Food Techの可能性がいかに大きいかは理解できると思うが、より具体的に注目されている理由を挙げていこう。
日本は少子高齢化が進んでいるので、いまいちピンとこないという人も多いかもしれないが、世界人口増加に伴って、食糧の需要に対し供給が追いつかなくなる危険性がある。
地球の総人口は、2020年には77億5,000万人以上となり、10年後の2030年には85億5,100万人に達するといわれている。
これだけ急増している中で、すべての人々が豊かな食生活を送るためには、膨大な食糧が必要となることは理解できるだろう。
また、温暖化に伴う気候変動により、農業や酪農において収穫量が著しく変化しており、中でも大きな影響が生産量が減少することだ。
具体的には、台風や干ばつの影響で作物の生産性が低下したり、平均気温の上昇によって野菜の生育不良が起こることなどが実際に世界中で起っている
このような十分な食糧を生産できない状況に対し、テクノロジーの力が生産量増加や生産性向上に寄与すると期待されているというわけだ。
先進国ではフードロス(食品廃棄)の増加が大きな問題となっている。
大量生産された食糧は小売店など流通過程で売れ残り廃棄される量が多く、消費者も余らせた食品を廃棄することに躊躇しない傾向があるためだ。
また、先進国の人口の3人に1人は栄養過剰で太り気味だといわれている。
こういった食に対する意識の改革が行われて始めているというわけだ。
一方で、国連は、飢餓に苦しむ人は8億人以上、実に人口の9人に1人にも上ると発表している。
その多くは発展途上国の貧しい人たちであり、今日の食べ物にも困っている状況だといわれている。
その上、今後人口増加も発展途上国が中心になるといわれており、飢餓問題はさらに深刻化していくと予想されている。
飢餓問題を抱える原因は、人々が食糧を入手できる十分なお金を持っていないだけではない。
栄養のある食糧が入手できない、温暖な地域にも関わらず保冷や保存ができる設備や食糧にアクセスしづらいといった原因もある。
このような課題を解決するためにも、フードテックでは栄養バランスの取れた食糧や、長く保存ができる食糧の開発が求められている。
飢餓とフードロスという正反対の事象は、発展途上国と先進国の間で食のバランスが保たれていないことを表している。
世界的な食糧均衡を保つためにも、フードテックの活用が期待されているというわけだ。
安全な食事へのニーズも高まっている。
その背景としては、下記の3点の懸念材料が挙げられる。
企業の努力にもかかわらず、異物混入などの問題が発生しうる
細菌などによる食中毒や幼児、高齢者における誤飲で、毎年多くの人が犠牲となっている
外国産農産物の残留農薬や産地偽装など、表示されている情報が正しいとも限らない
こういった課題解決をすべく、製造工程のオートメーション化を進めたり、食品の成分分析や傷み具合を診断するツールを導入するといったことが行われている。
消費者が安心して手に入れられる環境を整えるなど、様々な場面でフードテックの活用が求められているというわけだ。
他にも、食品の生産過程での人材不足が深刻化しているという問題もある。
特に、第一次産業と呼ばれる、農業、酪農、漁業などの分野では生産者の高齢化が進んでおり、食材加工工場や流通、外食産業では、慢性的な人員不足で経営が厳しくなっている事業も多い。
フードテック領域では、生産加工の現場にロボットやIoTを導入し省人化を進めることで、少ない人数でも効率よく生産や事業運営ができる技術が開発されつつある。
また、AIなどを活用した最適な人材配置や食材調達を行うことができれば、労働者の負担軽減や食品廃棄ロス削減にも役立つことが期待されている。
日本の注目されているFood Tech(フードテック)スタートアップ
日本のFood Tech(フードテック)スタートアップの特徴は大きく下記の4パターンが存在すると分析されている。
コア事業を成長軌道に載せた:着実成長型
環境変化を見据えた:領域形態進化型
今までにない目線から:新カテゴリ創出型
世界のフードシステムを変革する:技術構想力型
そして、この4つに分類した中で注目されている14社の日本のFood Tech(フードテック)スタートアップを紹介していこう。
このカテゴリの中でも注目されているのが、BASE BREADという商品を展開している、BASE FOOD(ベースフード)だ。
主食のアップデートを目指し、1日に必要な栄養素の3分の1を取れるパンやパスタ、クッキーを提供している。
2022年2月時点で月間定期購入者数は10万人を突破し、これは2年前の同月比で10倍という躍進ぶりをみせている。
シリーズの累計販売数に至っては4,000万袋を超え、最近だとコンビニエンスストアでも販売されているので、パッケージを見ればピンとくる人も多いだろう。
次に、管理栄養士や調理師免許保持者と一般家庭をマッチングすることで、出張料理支援と料理指導サービスを提供している、
SHAREDINE(シェアダイン)も注目のスタートアップだ。
出張シェフ事業が急成長しており、2022年5月時点で登録したシェフは2,000人を超え、大規模なシェフプラットフォームとなっている。
出張シェフという働き方はレストランに比べてフレキシブルで、登録するシェフのうち実に66%が女性だというのも特徴の1つだ。
ユーザ数も順調に増加し、その属性や利用実績などのデータを基に3,000通りを超える最適なシェフやプランの組み合わせ提案に加え、レコメンデーションも行っている。
このカテゴリで最後に紹介するのが、TABETE(タベテ)というサービスを展開している、CoCooking(コークッキング)だ。
フードロスをなくすというミッションを掲げ、レストランやベーカリーなどで余った食材をアプリ上でレスキューする形で購入できるサービスが話題を集めている。
2018年から本事業を展開しているが、この3年間でユーザーは50万人を突破、掲載した食品のうちレスキューされるマッチング率は50%を達成している。
参加店舗数も2,100店舗を超え、これまで26万食、132万トンの食品ロス削減に貢献してきた。
このカテゴリで、まず紹介したいのが、もともと冷凍技術ソリューションのコンサルティング事業を展開していたが、2021年10月より、自社の急速冷凍機のアートロックフリーザーを開発した企業だ。
2022年6月時点で累計受注台数が200台を突破した、DAY BREAK(デイブレイク)の今後の展開に注目したい。
そして、レストランテック領域では、TORETA(トレタ)が、これまで展開していた飲食店の予約事業に加え、業務全体の再定義に取り組んでいる。
レストランの業務プロセスの全体最適化に挑む企業として目が離せない。
他にも、菓子のサブスクリプションサービスのsnaq.me(スナックミー)、食品アレルギーという観点から食のパーソナライゼーションに挑んでいる、CAN EAT(キャンイート)も注目のスタートアップだ。
大学発のスタートアップもあり、独自のAI技術による動的データ解析で、必要な栄養素を特定するサービスを世界で初めて開発したのが、信州大学発のWellnas(ウェルナス)だ。
Food Tech(フードテック)といっても、その領域は幅広く、ここ1〜2年で新たなカテゴリが創出されているという実態がある。
1つ目の新カテゴリーは、アップサイクルだ。
まだ食べられるのに捨てられているもの、食べ方を知らずに食べてこなかったものを、食べられる新食品に生まれ変わらせたり、化粧品など別のジャンルの商品にしたりといった試行錯誤が行われている。
こういった価値を高めながら循環させることをアップサイクルという。
そんなアップサイクルとして、日本発で規格外を含めた野菜の粉末化に取り組んでいるスタートアップが、greenase(グリーンエース)だ。
他にも、独自の発酵技術で循環型社会の実現に挑むスタートアップのFERMENSTATION(ファーメンステーション)は、冷凍食品のニチレイフーズと共同で商品開発を行っている。
そして、2つ目の新カテゴリは、たんぱく質の生産領域だ。
海外で盛り上がる代替たんぱく市場だが、国内でも肉を精緻に模した植物性代替肉が小売店舗や外食チェーン店のメニューにも並ぶようになってきている。
そんな中、熟成させて味や栄養成分を向上させることに挑むスタートアップの代表格が、ミートエポックだ。
明治大学との共同研究によって開発した、エイジングシートで包んで保存することにより、肉や魚を家庭でも熟成させることができるという画期的な技術を持っている。
最後に、3つ目の新カテゴリは、生態系構築の領域だ。
ここで紹介したいのは、SynecO(シネコ)である。
効率的な食料生産には広大な農場で単一品種を栽培することが一般的だ。
元来、生態系は多様な品種の植物や昆虫、動物たちによって構築されることでバランスが取れるものだ。
こうした自然の姿に習い、小規模農場で多様な植物を混生密生させて、生態系を構築しながら育てる協生農法を開発しているというわけだ。
新型ウイルスのパンデミック、戦争や紛争などの国際問題によって食料安全保障の課題が深刻化している中、食料生産技術の領域で躍進しているのが技術構想力型のスタートアップだ。
この分野でまず注目したいのが、植物工場事業のPLANTX(プランテックス)だ。
AIを活用して精緻に環境を制御することで、植物の生産性や栄養価の向上、衛生状態の制御、そして効率的なエネルギー消費などをコントロール可能にしている。
もう1社注目したいのが、Whosecacao(フーズカカオ)だ。
スペシャルティーカカオと菓子の加工に取り組んでおり、いわゆるBean to Barのカカオ加工事業を展開している。
まとめ
このように、テクノロジーを駆使して、面白いことをしているスタートアップは日本国内だけでもたくさんある。
ましてや、〇〇Techの中でも、Food Tech(フードテック)に絞った中でも、これだけの注目スタートアップがあるわけで、これだけでもワクワクしないだろうか。
ちなみに、〇〇Techが他にどんなものがあるか知りたい方は、以前まとめたこちらを参考にして欲しい。
これだけ可能性しかないところが、私がスタートアップにしかいない最大の理由だと思う。
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