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「爽やかささえ感じる大好きな人との別れ方~『さよならのドライブ』~」【YA㊸】
『さよならのドライブ』 ロディ ドイル 著 こがしわ かおり 絵 こだま ともこ 翻訳 (フレーベル館)
2016.2.3読了
メアリーは12歳の女の子です。
親友が引っ越ししたうえに、大好きなおばあちゃんが病気で入院してしまい、気持ちが落ち込んでいたある日のこと。
家の近くの、トチの木の並んだ道である女性と遭遇します。
自分の母親・スカーレットより、少し若い感じがするけれど着ている服はなんだか昔風な感じの女性です。
そして驚いたことに、女性からおばあちゃんに伝言をたのまれるのでした。
「だいじょうぶよ」と…。
実はその女性は、おばあちゃんの母親、いわゆる自分のひいおばあちゃん。
そう…彼女は幽霊だったのです。
ずい分前に亡くなったはずなのに、こうして未だにこの世にいるということは、何かしらこの世に未練というか、きっと心残りがあるゆえだと思われました。もしかしたら病気で死が間近に待ち受けているのが嫌で弱気になっているエマーに対し、
「自分といっしょなら死ぬことも心配いらないよ」
と言いたかったのかもしれません。
メアリーのおばあちゃん・エマーはずいぶん幼い時にこの母親・タンジーをインフルエンザで亡くしていました…。
あまりにあっけなく死んでしまった母親が、残してきた子どものことが心配のあまり天国へと旅立つことができません。
そして早くに母親を亡くした子どもは、母の記憶があいまいです。
エマーの幼い日々の話をずっと聞かされていたメアリーもメアリーの母スカーレットも、エマーとタンジーの物語を我がことのように感じています。
そしてある日母と一緒に、入院しているエマーを最後のドライブに連れ出しました。
その行き先は、タンジーと幼いエマーが暮らしていた田舎の農場です。
いい思い出も悪い思い出も、いっぱい詰まった懐かしいふるさとへ向かいます。
女性4人(生きている女性3人とすでに死んだ女性1人)の、たのしく忘れられない最後の大冒険でした。
「一番の上等の動物は、いつだって女の子だよ」
終盤にエマーの言うセリフが、何気ないのだけどとっても印象的です。
この児童書は、舞台がアイルランドで珍しい感じがします。
でもなんの違和感もなく読めました。
母親を幼い時になくしたとしたら、憧憬と懐かしさとさみしさが心に残ったままで、思いがずっと募ったままです。
ましてや、まだ幼い我が子を残したまま逝ってしまう母親にはさぞかし心残りだろうことは言わずもがなです。
長く闘病していたということならまだしも、突然罹患した感染症のため、本人も家族も心の準備ができないままのお別れでした。その喪失感たるやいかばかりかと、もし自分が同様の立場になったらと想像しただけでも辛いです。
現在同様の立場に置かれている人々が少なからずいらっしゃるでしょう。
いざという時、どのようなお別れができるのかなど考えることも簡単ではないと思います。
しかしながら物語に戻りそのことを考えた時、母子のわずかな思い出を巡ることによって、彼らの喪失感を埋めるみんなでのドライブという一大イベントは、どこか楽しく愉快さすら感じます。
おばあちゃんが楽しい記憶を連れて天国へ旅立つお手伝いができたということで、残された家族も別れの辛さが幾分軽減できたかもしれませんね。