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ソーサツ・ホーシ・ツイッター・アーカイブ・プラス

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操刷法師が戦闘用twitterアカウント(@sosatsuhoshi)で議論した事柄に補足を加えて記録するもの。魔術について、欲望について、表現の自由について、文芸について。
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#映画感想文

twitterアーカイブ+:映画『すずめの戸締まり』感想:神は神らしく

『すずめの戸締まり』を観た。扉を閉めることは確かに今と地続きの未来を追認することではあったが、同時にすずめにとっては母への憧憬を男によって塗り替える話であるから、これが前作の陽菜の祈り――今と地続きでありながらも良くなる未来への祈り――と通じていると言えなくもない。

 その草太は、よくもまあ新海誠、男は美少女によらなければ救われないということをこれほど潔く開き直ったものよな。欲望を脱臭し、自己犠

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twitterアーカイブ+:映画『Joker』感想

『ジョーカー』を観た。私はバットマンの予備知識が全くないのだが、音楽の使い方は良かった。しかし……分からんな。この映画のどこに、そこまで騒ぐほどの「衝撃」がある。正義は人を見捨て、見捨てられた人は正義を見捨てる。当たり前のことであり、繰り返し言われていることだ。

 悪が珍しいか? 人の道を踏み外すことが珍しいか? 酒鬼薔薇聖斗! 『黒子のバスケ』脅迫事件! 時代はずっとその可能性を示してきたのに

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twitterアーカイブ+:映画『シン・ゴジラ』感想

映画一回目 シン・ゴジラを観てきた。どこまでネタバレが許されるのか分からないが、展開を知っているかどうかが感想に大きく影響する映画ではないと思う。私の感想の中心はストーリーにはない。野村萬斎! 私が映画鑑賞中に感じた事の大部分は彼の存在によって説明できる!

 私はその性癖柄「街に巨大生物が襲来して無秩序な破壊を振り撒く」というシーンを数多く見てきたが、私の見てきた巨大生物の大半は若く健康的なヒト

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twitterアーカイブ+:映画『ひるね姫』感想

「ひるね姫」を観てきた。各シーン毎の作画は良いしココネも可愛いが、シーンの繋ぎ方・話の進め方がとにかく雑。夢と現実がリンクしている事を自覚する辺りから展開に飛躍が多くなり、分からなくはないが理解に数秒のラグが生じるため、もう少し丁寧な説明や描写が欲しくなる。

 現実のシーンから夢のシーンに入るところがいつも唐突なのは意図しての事だと思うが、それが連続するとメリハリがなく感じる。ストーリーは良く(

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twitterアーカイブ+:映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』感想:異性という陥穽

映画一回目「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」を観てきた。形式はサブリミナルめいて執拗に無意識に干渉しようとする見事な新房シャフトであり、内容はゼロ年代に頻出した結論で非常に分かりやすい。原作のドラマを私は観ていないが、原作よりも分かりやすくなっているのではないかと思う。

 原作ではなかったらしい、駅で捕まる以降のパートが、まさにゼロ年代に(恐らく、主に泣きゲーとセカイ系において)模

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twitterアーカイブ+:映画『劇場版ポケットモンスター ココ』感想

前夜 サトシが父親についてこれまで言及しなかったことには理由がある。サトシが旅の身の上であるというのが、その理由だ。ポケモンとは心的過程であるというテーゼに立って考えるならば、父親即ち「父の名」とはサトシが踏み込んでゆく世界の秩序そのものなのであり、キャラとして存在する必要が全くない。

 その意味で、サトシ(レッドも)の父親の役割を何らかのキャラクターに負わせるなら、それはポケモンの分類学を提唱

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twitterアーカイブ+:映画『ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』感想

「ミュウツーの逆襲EVOLUTION」を観てきた。ミュウツーの逆襲だった。意外なほどにミュウツーの逆襲。ミュウツーの逆襲を知る人でこれから観る人は安心してよい。「脚本 首藤剛志」と書くだけのことはある。

 だが、EVOLUTIONがミュウツーの逆襲に何か新しい価値を付け加えたかと言えば、そこはまだ私もはっきりとは分からない。市村正親氏の今の演技を聴くことができた、というのは新しい価値の一つではあ

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twitterアーカイブ+:映画『名探偵ピカチュウ』感想

「名探偵ピカチュウ」を観てきた。ストーリーはアニメ映画版並に単純だが、ポケモンの造形をはじめビジュアルが良いのであまり気にならない。プラズマ団の理想そのもののような都市の裏路地で違法バトルが開催されているような庶民生活の泥臭さは、確かにアニメの延長では描けなかっただろう。

 ポケモンはもはや採集されるべき昆虫ではなく、ポケモン世界はもはや理想的な夢と冒険の世界ではない。我々は、「ポケモンと人間の

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twitterアーカイブ+:映画『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』感想

前夜「みんなの物語」というタイトルは、ルギア爆誕のテーマであった「共生」に通じる。しかし、それは先にミュウツーの逆襲で「自己存在」を語っておいたからこそ、次のステップとして提示できたテーマだ。「キミにきめた!」は自己存在の物語ではない。自己存在なき共生(ハイデガーか?)を描けるのか?

 ルギアは自らを評して、「私は私が幻であることを願う。それがこの星にとって、幸せであるなら」と言った。ここにこそ

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twitterアーカイブ+:映画『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』感想

映画一回目 劇場版ポケモン(舞台挨拶回)を観た。以下、ネタバレを排除しながら所見を述べる。

 この映画を、いつものクソ劇場版と言ってしまうのは容易い。過去作の要素をリサイクルした雑なお涙頂戴だと非難することも。しかし、これを一つのストーリーというよりイメージビデオとして捉え、ポケモンの世界観についての製作者側からの立場表明と解すれば、本作の持つ歴史的意義は極めて重い。

 本作には無駄なシーンが

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twitterアーカイブ+:映画『秒速5センチメートル』感想:恋と永遠

操刷「私は新海誠作品を過去に一つも見ていないため、かの悪名高き秒速5センチメートル(これで知己が何人も死んだよ)でも今度観てみようと思うが、これも実は「主人公と近い年齢の時に出会わなければ真の効果を発揮しない作品」の一つなのではなかろうかと疑っている。」

映画(DVD) 秒速5センチメートルを初めて観た操刷法師の感想1――「分かる。よく分かる。何もかもよく分かる。が、これほどよく分かる事への感嘆

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twitterアーカイブ+:映画『君の名は。』感想:時間と記憶と整合性

映画一回目「君の名は。」を観てきた。オタク映画である。ただし日常系が台頭する前の、筋書きに主眼を置くがボーイ・ミーツ・ガールも欲しいという、所謂第三世代のオタク・ストーリー。それがデフォルメ表現を抑えカメラワークと音楽で一般人向けに偽装された、オタク・ムービー・ワクチンとでも呼ぶべきもの。

 それでも、最小限の箇所に象徴化の技法(モチーフや音やシーンに特定の意味を持たせて反復する技法)を明示的に

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twitterアーカイブ+:映画『天気の子』感想:選択と追認とセカイ系

映画一回目『天気の子』を観た。操刷法師、満面の笑み! 「大きな物語」が崩壊して「小さな物語の乱立」の時代に入る、戦後数十年をかけた一連の過程が、遂に完了したのだと思う。近頃では決して珍しくはなかったものの、どこか及び腰だったテーマの、これこそ開花、結実と言えるだろう。

 セカイ系とは、崩壊していく「大きな物語」を、崩壊によってできた罅割れの中に手を差し込んで繋ぎ止めようとする幻想だったと私は思う

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twitterアーカイブ+:映画『ペンギン・ハイウェイ』感想:性衝動と特異点

映画一回目「ペンギン・ハイウェイ」を観てきた。私は今回は原作を読んでいないため森見が凄いのか監督が凄いのか判断できないのだが、心ある者は今すぐ観たまえ。諸君はアオヤマ君を通して、男という生き物の底の底を浚うことになるだろう。ただ、女性がどういう感想を持つかは私には丸っきり分からない。

 これが一部の観客に「女性蔑視のおっぱい映画」と酷評される理由は分からぬでもない。だが、そう評する者が本当にその

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