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小説あれこれ

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#カフカ

篠田一士「二十世紀の十大小説」

篠田一士は丸谷才一とも親交のあった評論家で、小説はもちろん、詩歌から批評に至る文学全般に広くて深い知識をもっていました。本書は1988年に刊行された長編評論で、質・量とも読み応えある一冊です。

世界文学のなかから10冊を選ぶという試みはモームの「世界の十大小説」が有名ですが、篠田のこの評論の主眼は、彼自らが生きた「二十世紀」の小説の独自性とはなにか、それまでの小説とはなにが異なるのかをつまびらか

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G.K.チェスタトン『ブラウン神父の童心』

G.K.チェスタトン『ブラウン神父の童心』

いわずとしれたシャーロック・ホームズ、「灰色の脳細胞」を駆使するエルギュール・ポアロ、強靭な論理で難事件を解決する、エラリー・クイーン、「密室講義」で名高いギデオン・フェル博士などなど、推理小説の黄金時代を彩った数々の名探偵のなかにあって、ひときわユニークな輝きを放っているのが、一見冴えない風貌をもったブラウン神父です。『ブラウン神父の童心』はシリーズ最初の短編集で1911年に刊行されました。

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フランツ・カフカ『カフカ・セレクション Ⅰ  時空/認知』

フランツ・カフカ『カフカ・セレクション Ⅰ 時空/認知』

カフカを読むということ。それは出口のない迷宮に身を躍らせることに他ならないでしょう。なにせ完結した作品が極めて少ない。3大長編の『失踪者』、『審判』、『城』はいずれも未完なのですから真に「読了」するということがあり得ません。もし完結した作品のみを読みたいと思ったのなら短編しかないのです。

さしあたり完結した短編のみを楽しみたいのなら、岩波文庫から出ている池内紀訳の2作が便利です。しかし、カフカほ

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