ゆこたか雑記帖

本と音楽と将棋を愛好しています。 本の感想を主としていますが、そのうち音楽や将棋などについても書くかもしれません。

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わたしの100冊

石川淳「狂風記」 吉田健一「金沢」 北杜夫「楡家の人びと」 夏目漱石「吾輩は猫である」 谷崎潤一郎「春琴抄」 倉橋由美子「よもつひらさか往還」 山尾悠子「ラピスラズリ」 中井英夫「虚無への供物」   澁澤龍彦「思考の紋章学」 種村季弘「詐欺師の楽園」 金井美恵子「噂の娘」 森茉莉「甘い蜜の部屋」 石井桃子「幻の朱い実」 武田百合子「富士日記」 大江健三郎「懐かしい年への手紙」 大岡昇平「レイテ戦記」 石光真清「石光真清の手記」 呉茂一「ギリシア神話」 松岡正剛「フラジャイル」

    • チャールズ・M・シュルツ / 谷川俊太郎『ピーナッツと谷川俊太郎の世界』

      先日92歳で地球に別れを告げ、二十億光年の彼方に旅立たれた谷川俊太郎さんは詩人以外にもさまざまな方面で活躍していました。 逝去が報じられて多くの人が故人への思いを語り、綴っていました。ある人は「もこもこもこ」や「かないくん」といった絵本作家として、またある人は「鉄腕アトム」のテーマの作詞家として、また他の人は教科書に掲載されていた「朝のリレー」などの作者として、音楽を愛する人は「死んだ男の残したものは」や「系図」などの武満徹とのコラボレーションを残した詩人として…etc。そ

      • 荒井良二『こどもる』

        声を出すのは「声る」、スイカを食べるのは「スイカる」、よだれを垂らすのは「よだる」…。過去を振り返らず、未来を思わず、ひたすらに現在を生きる子どもたちの活動を〈名詞+る〉の形で動詞化した荒井さんの言語感覚が冴えわたる。 ことばだけではなく、絵もまたすごい。 子どもが実際に書きなぐったような線で子どもたちの姿が躍動する。思いついたのを適当に並べたようでいて、通して読むとちゃんと子どもの一日の流れが浮かぶようになっている構成も見事。 ピカソは晩年になって「この歳になってやっと

        • 荒井良二『こどもたちは まっている』

          ここ数カ月、荒井良二さんの絵本に夢中になって、憑かれたように読み漁っていました。 もちろん、荒井さんの作品ばかりではなく、角田光代訳の『源氏物語』やMAROさんこと篠崎 史紀さんの『音楽が人智を超える瞬間』、松岡正剛さんの遺著となった、田中優子さんとの対談『昭和問答』、斎藤環さんの刺激的な論考『イルカと否定神学』といった本も読んでいたのですが、実感としては荒井さんの絵本の合間に目を通していた感じなんですね。 『はっぴーなっつ』、『うちゅうたまご』、『あさがきたのでまどをあけ

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        • 小説あれこれ
          35本
        • 絵本あれこれ
          13本
        • こころあれこれ
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          荒井良二『はっぴーなっつ』

          暑さ寒さも彼岸までとはよく言ったもので、延々と続くかと思われたこの夏の暑さもようやく和らいで 「風のおとにぞおどろかねぬる」ようになりました。 本書はこうした時期に紐解くのにぴったりな、季節の移り変わりをテーマにした絵本です。 著者の荒井良二さんは国内外で高い評価を得ている絵本作家。 2002年にスウェーデン政府が自国を代表する児童文学作家アストリッド・リンドグレーンを記念して設けられ、”絵本界のノーベル賞”ともいわれる「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞 」を日本人で

          荒井良二『はっぴーなっつ』

          レティシア・バルビエ『[ヴィジュアル版]タロットと占術カードの世界 起源から21世紀まで』

          オールカラーの豊富な図版に彩られた、観る快楽と読む愉しみを同時に味わえる贅沢な一冊。 著者のレティシア・バルビエはフランス出身。ソルボンヌ大学で芸術史学士号を取得し、現在はアメリカで在野の研究者、キュレーターとして活動しています。 本書はタロットにも深い理解と愛着のある著者が、その知識でタロットとルノルマンカードなどの占いに用いられるカードについて紹介と解説をしたものです。 美術的な観点からさまざまなタロットを紹介する本は本書だけではありませんし、つい最近も本書の監訳者で

          レティシア・バルビエ『[ヴィジュアル版]タロットと占術カードの世界 起源から21世紀まで』

          栗原康『超人ナイチンゲール』

          〈一九世紀のイギリスに「超人」があらわれた。はりつけ、上等。このひとを見よ。えらいこっちゃ。わたしが世界を救うんだ。自分の将来をかなぐり捨てて、看護のいまを生きていく。ケアの炎をまき散らす。その火の粉を浴びて、あなたもわたしも続々と「超人」に生まれ変わっていく。 みんなナイチンゲールだよ。いくぜ。〉(「はじめに」より) アナーキズムの研究家として知られる栗原康によるナイチンゲールの評伝。 國分功一郎による『中動態の世界』や東畑開人の名著『居るのはつらいよ』等、幅広い視点から

          栗原康『超人ナイチンゲール』

          松岡正剛『外は、良寛』

          松岡正剛さんが亡くなりました。享年80。残念です。 松岡正剛…しばらく「セイゴオさん」と語らせてください。 セイゴオさんの代表的な仕事といえば、雑誌『遊』や千夜千冊。大著『情報の歴史』などがあげられるでしょうが、訃報に接して私が思い浮かべたのは、月づくしの『ルナティックス』や弱さをテーマにした『フラジャイル』、そして本書『外は、良寛』でした。“知の巨人”などという、あまり意味のない呼ばれ方をされたこともあるセイゴオさんでしたが、これらの本からは、そうしたイメージしてからは程

          松岡正剛『外は、良寛』

          ヨシタケシンスケ『おしごとそうだんセンター』

          年に2〜3冊のハイペースで新作を発表し続けているヨシタケシンスケさんの今年(2024年)最初の1冊。 今回のテーマはタイトル通り、仕事について考えること。宇宙船が壊れてしまい、地球に落ちてきてしまった宇宙人が、とりあえず仕事を見つけて生活するために「おしごとそうだんセンター」を訪れ、そこで様々な珍しい仕事を紹介してもらうという枠組みをとっています。 相談員のお姉さんと宇宙人の会話を通して、仕事とはなにか、向いている仕事とはどういうものなのかなどが語られ、ひいては社会や「大

          ヨシタケシンスケ『おしごとそうだんセンター』

          千葉聡『ダーウィンの呪い』

          進化という考え方は現在ではすっかり一般常識となっているように思われます。しかし生物学として議論と検証を重ねて確立した進化についての概念は必ずしも社会的な通念としての「進化」と一致するわけではありません。進化学が人類の生活の向上に大いに資するところもある反面、社会的な通念としての「進化」は、人類にとって負の側面ももたらしています。本書はそうした負の側面を「呪い」として、その所以を解き明かし、人類のあるべき未来について考察する、スケールの大きな一冊です。 本書では次に述べる3つ

          千葉聡『ダーウィンの呪い』

          エーリッヒ・ケストナー『点子ちゃんとアントン』

          『スーパーマリオブラザーズ』や『ゼルダの伝説』、『ピクミン』など数々の名作の生みの親である、ゲームプロデューサー・宮本茂さんはかつて「子供をバカにしてはいけない。子供をバカにしているものを見ると腹が立つ。子供はものを知らないだけで知性はある。」と語りました。ケストナーの作品を読む度にこの言葉を思い出します。『飛ぶ教室』しかり、『エーミールと探偵たち』しかり。そしてもちろん本作も例外ではありません。ケストナーはどんなときも子供の知性を信頼し、対等な立場の友人として読者に語りかけ

          エーリッヒ・ケストナー『点子ちゃんとアントン』

          「君は天然色」の歌詞について思ったこと

          「君は天然色」を歌詞を読みながら聴き直していて、改めて松本隆さんの詞の運びの巧みさに舌を巻いている。この歌詞の誕生にまつわる妹さんとのエピソードは既に多くの人に知られているので、ここでは触れない。今回書きたいのはサビの「想い出はモノクローム…」に至るまでの歌詞の流れのこと。 このサビは3回歌われるのだけど、まず最初の登場部分では直前に「机の端のポラロイド写真に話しかけてたら」と歌われている。ポラロイド写真は普通の写真より色落ちしやすい。ここでのポラロイド写真もおそらく撮影さ

          「君は天然色」の歌詞について思ったこと

          瀬川昌久『ジャズで踊って 舶来音楽芸能史 完全版』

          便乗商法、というとあまり良いイメージがありませんが、こうした便乗商法なら大歓迎。NHK朝の連続テレビ小説『ブギウギ』の放送にあやかって、戦前の日本のポップスの歩みを活写した名著が、新原稿を加えて「完全版」として文庫化されたのですから。 著者の瀬川昌久は1924年生まれ。富士銀行に勤務しながら、戦前のジャズの紹介を積極的に行った人物です。また、1950年代に渡米した際には、カーネギーホールでチャーリー・パーカーやビリー・ホリディの実演に接したこともあるという、まさに“ジャズの

          瀬川昌久『ジャズで踊って 舶来音楽芸能史 完全版』

          日影丈吉『ミステリー食事学』

          そのペンネームに相応しく、というべきか、日本のミステリ史を彩る華やかな作家たちの影に隠れて、『かむなぎうた』や『内部の真実』(傑作!)等、独自の味わいのある作品を多く世に残した日影丈吉。彼には作家としての顔の他に、料理研究家としての一面もありました。なにしろ戦前戦後を通して、若い料理人にフランス語やフランス料理の講義をしていたというのですから生半可なものではありません。本書はそんな日影丈吉の特色がいかんなく発揮された一冊となっています。 毒殺や「凶器としての食品」から話は始

          日影丈吉『ミステリー食事学』

          2024年上半期の18冊

          今回はテーマ別に分けてみました。 【こころを見つめる】 ・中沢新一『精神の考古学』 ・池谷裕二『夢を叶えるために脳はある』 ・斎藤環『「自傷的自己愛」の精神分析』 【物語にひたる】 ・松浦寿輝『名誉と恍惚』 ・ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』 ・山尾悠子『初夏ものがたり』 【音楽を読む】 ・宗像明将『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』 ・KAWADEムック『高橋幸宏 音楽粋人の全貌』 ・佐々木敦『「教授」と呼ばれた男: 坂本龍一とその時代』 【学んで

          2024年上半期の18冊

          松浦寿輝『名誉と恍惚』

          久しぶりに重量感のある読み応えの小説に出会いました。 主人公やその周辺の行動・心情にとどまらず、登場人物を取り巻く時代にも正面から挑んだ大作で、 読みながら、今はほとんど使う人がいなくなった「全体小説」という言葉が幾度も思い浮かびました。 舞台となるのは第二次世界大戦の足音が迫っている魔都、上海。 東京警視庁から共同租界を管理する工部局の警察部に派遣されている、主人公の芹沢が ある時日本陸軍諜報機関の嘉山少佐に、上海の青幇(チンパン)の頭目・蕭炎彬(ショーイーピン)に 会わ

          松浦寿輝『名誉と恍惚』