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小説あれこれ

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#読書

谷崎潤一郎『細雪』

谷崎潤一郎『細雪』

谷崎潤一郎はながらく「無思想の作家」と称されていました。これについては、いや『春琴抄』のように美に殉じる姿勢や、『痴人の愛』や『瘋癲老人日記』のようなマゾヒズム、フェティシズムだって「思想」と呼べるのではないか、と言い返すことができるでしょう。しかし、久々にこの『細雪』を読み返して思ったことは、無思想であるがゆえの傑作ではないか、ということでした。

大阪船場の旧家、蒔岡家の四人姉妹を主公として物

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大濱普美子『猫の木のある庭』

大濱普美子『猫の木のある庭』

文学賞にはそれほど関心があるわけではなくて、好きな作家が受賞したと聞けば、ああ良かったな、と思う程度なのですが、新人、ベテラン問わず虚構性を追求した作品に与えられることの多い泉鏡花文学賞は数少ない例外です。

大濱普美子、という名前はこの文庫が出るまで知らなかったのですが、「泉鏡花文学賞受賞作家の第一短編集」であり、さらに解説が「金井美恵子」であるという2点を頼りに手に取りました。結果はもっと彼女

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