🇨🇭「楽園のカンヴァス」（原田マハ 著）にスイスワインが登場しない理由を推理した🤔

アート小説を代表する名著「楽園のカンヴァス」（原田マハ 著）

ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンと日本人研究者の早川織絵がスイス バーゼルの大邸宅に招かれる。

ミッションは、巨匠ルソーが楽園を描いた『夢をみた』の真贋判定でリミットは7日間。

アンリ・ルソー

ルソーとピカソ、ふたりの天才がカンヴァスに籠めたた想いを紐解く美術ミステリーだ。

400ページ以上の長編大作でありながら心躍る壮大で綿密なストーリーに引き込まれ一気に読破した。

そして、ラストの大どんでん返し！

原田マハワールド全開の名著だ。

これぞ 原田マハ ワールド！

読み終わった後でも極上のワインを飲んだ後のような長い余韻に酔いしれた。

読了後の感想は、この物語の舞台となったスイス バーゼルでスイス・フランス・ドイツのリースリング（白ワイン）メインのフライト・デギュスタシオン（試飲・飲み比べ）をしたい。

でも、スイスが舞台なのに、なぜスイスワインが登場しないのか？

この疑問をスイスワイン愛飲家ソムリエの見地から推理・考察してみた。

前提条件は、次の3点

著者の原田マハさんは、フランスにお住まいになられていた時に“メドック・グラーヴ&ソーテルヌ・バルサック・ポンタン・コマンドリー”を叙任さたワインにお詳しいスペシャリスト。

物語の舞台がフランス・ドイツと国境を接するスイスのバーゼル。

ルソーの名作はピカソの名作が描かれていたカンヴァスに描かれた。

これらのことを踏まえ推理をしていく。

作品中に登場する代表的なワインは2種類

フランス アルザスとドイツ ラインガウのリースリングと思われる。

🥂フランス アルザスのリースリング
物語の前半、ティム・ブラウンが、スイス バーゼルのライン川沿いレストランでフォレレ・ブラウ（ニジマスをスープ用の野菜・ワイン・酢などと一緒に煮込んだドイツ料理：下記動画参照）と共に冷えたリースリングを楽しんだ。

これはバーゼルから北西約140Kmに位置するフランスのストラスブール・コルマールのアルザス・リースリングだと思われる。

この特徴は、エレガントなキンモクセイや黄色い花の香りに加え、熟した洋梨やオレンジをスライスしたシロップ漬。アタックは滑らかで心地良い果実の甘みと透明感に満たされ豊富で長い余韻。

エアリングを重ねてワインが開いてくると酸の豊富なパイナップルのような「南国を思わせる甘い香り」が鼻腔と口内に広がる。

心惹かれたアロマをいつまでも忘れずことができず、いつもそばにいて欲しいと思うワイン。

これは、ティム・ブラウンがほのかな想いを寄せる早川織絵のイメージそのものだ。

🥂ドイツ ラインガウのリースリング

物語の後半、エリク・コンツが悪意ある陰謀と共にセレクトしたリースリング。

これはバーゼルから北東360kmに位置するドイツのラインガウ産のラインガウ・リースリングだ。

この特徴は、ドイツが誇る世界最高峰に君臨するワインで香りはグレープフルーツや黄色いリンゴを砕いた香りに加えてミネラルや石灰のニュアンス。

はっきりとしたアタックで冷たいリンゴをかじった時のような豊富な酸味が口内を引き締めキリっとシャープで力強く鮮烈な酸味と辛口が際立つ。

余談だが、2023年開催の世界最優秀ソムリエコンクール第３位入賞を果たした中国代表 リーゼ・チョイさんが決勝戦のブラインドテイスティング審査において「この白ワインはドイツ ラインガウ リースリング2019年もの」 とコメントするなど世界的に有名なワインだ。

これは、ビリオネアの専属弁護士で切れ味鋭いエリク・コンツのイメージそのものだ。

これらのことから、導かれる帰結として。

ルソーが描いた「楽園のカンヴァス」にピカソが描いた「絵画」が隠されていたように、原田マハさんが記した「ワイン」の中に「この物語のキーとなる登場人物」が隠されていたのだ。

ルソーが描いたこの絵画の下にピカソの名作が隠れている！

それらを踏まえて、スイスが舞台なのに、なぜスイスワインが登場しないのか？

その理由は、2点

🍇1点目

スイスでは純粋なリースリングはほとんど生産されておらず、ミュラー・トゥルガウのことを、リースリング・シルヴァナーと呼ばれている。

このブドウ品種は、19世紀にヘルマン・ミュラー博士によってリースリングとマドレーヌロワイヤルを育種して開発された世界的に有名な交配品種。

スイスワインのわずか3％しか生産されていないレアな品種だ。

さらにバーゼルは、４つの公用語をもつスイスにおいてドイツ語圏。

ミュラー・トゥルガウは、長い間、ドイツ語圏スイスの象徴的な白ワインだった。

つまり著者の原田マハさんは、スイスのミュラー・トゥルガウ、フランスのアルザス・リースリング、ドイツのラインガウ・リースリングという３つのテロワールを暗示する。

そのことで物語の舞台である国境の街 バーゼルをハイライトしたのではないか。

🍇2点目

それを踏まえ、このミュラー・トゥルガウは、手摘みで収穫したブドウを発酵前に長い時間をかけて丁寧に醸しているため、刈られた草・ピーチ・柑橘類・ナツメグなどの心地よく香り豊かで口に含むと綺麗な酸とミネラルを感じる繊細でキレのある味わいとなる。

この特徴に該当する登場人物はいない。

これらのことから、スイスワインをあえて登場させなかったのではなかろうか。

まさにアート・小説・ワインのスペシャリストである原田マハさんのなせる技である。

そいうえば原田マハさん流のワインの楽しみは、「アートも小説もワインも、なくても生きていけるけど、あると人生がより豊かになる。」（下記参照）

原田マハさんが登場！文学ワイン会「本の音 夜話（ほんのね やわ）」

私は、「楽園のカンヴァス」を読んで、その内容に心躍らせ、アート（絵画）への興味を持っていた若い頃を思い出した。

今回の推理・考察をしたことで「アートも小説もワインも、なくても生きていけるけど、あると人生がより豊かになる。」ことを実感した。

今度、スイスのワイナリーめぐりをした後に、20年前同様にミュゼーパスを購入してパリのピカソ美術館をはじめルーブル・オルセーを再訪したくなった。

パリ・ピカソ美術館のパブロ・ピカソ自画像前にて

そんなことを考えていたら昨夜、この物語の舞台となったスイス バーゼルでスイス・フランス・ドイツのリースリング（白ワイン）メインのフライト・デギュスタシオン（試飲・飲み比べ）をした『夢をみた』

スイスワイン🇨🇭それはワインラバーに残されたファイナルフロンティア。

お読みいただき、ありがとうございました。

アビアント（à bientôt）

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この記事の執筆者
🇨🇭ソムリエ シャスラ
スイス プロフェッショナル ソムリエ協会（ASSP）所属ソムリエ/国際唎酒師（英語）/世界唎酒師コンクールクォーターファイナリスト