しまさと

物語やエッセイなど、頭の中に眠っていた文章を少しずつ置いていきます。近頃は育児や日常の短い日記中心に、「とにかく書く」習慣作りをしています。

しまさと

物語やエッセイなど、頭の中に眠っていた文章を少しずつ置いていきます。近頃は育児や日常の短い日記中心に、「とにかく書く」習慣作りをしています。

最近の記事

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まえがき、のような。

毎日、言い訳ばかりしている。 小さな頃から、本を読むのと同じくらい、文章を書くのが好きだった。 頭の中には、自分で考えたお話の欠片がたくさんあって、それを形にしたくていつもワクワクと夢想していた。 けれど、はじめからおわりまでお話を書けたことは、あまりない。 時間がたっぷりあったはずの学生時代はいつの間にか過ぎ去って、気がつけば大人になった。 仕事や家事で忙しいから。 毎日疲れてしまっているから。 まとまった時間が取れないから。 やりたいことがたくさんあるから。 でき

    • リクエストを詰めて

      「おべんとうにおくらのにくまきいれてほしいなー」 ある夜、年長さんがそう言った。 我が子の通う幼稚園は、毎日お弁当を持参している。ズボラな私は毎日ほぼ同じ、「チキンナゲットかミートボール、卵焼き、ブロッコリーとベーコンの炒めたやつ、冷凍のスパゲッティ」という組み合わせでどうにかこうにかやり過ごしているのだけれど、この間、珍しく例外の日があった。オクラの肉巻きを1切れ、端っこに入れてみたのだ。 夏休み前、幼稚園でオクラを収穫し、園で調理してお味噌汁にしてもらった時、うちの

      • 願いごと

        暗くなりかけた夕方、歩いている子どもが「あれなに?」と指さすので空を見上げた。 チカチカと明滅するあかりが、雲を引きながら下降していく。 「飛行機じゃないかな」 言いかけた瞬間、その横に、全く別の種類の光が、スゥーッと尾を引いて流れるのを見た。 「えっ」 「流れ星!?」 ナントカ流星群の時ですらまともに見られたためしがないのに、こんなにも偶然に、一筋の流れ星をみられるものだろうか。驚いて目を凝らすけれど、もう光は見えない。 ああ、でも。 隣で空を見上げて、「ながれ

        • あの味を、この手に

          煮込みうどんが好きだ。 実家では、土日の昼ごはんによく出てくるメニューの一つだった。 アルミ製の広口の鍋に、冷凍うどんと斜めに切った長ネギと刻んだ油揚げを入れて煮込み、最後に溶き卵で綴じる。味付けは、作っているところを見る限り、ほんだしと醤油だけの、シンプルなものだ。 熱を出して学校を休んだ日には、母が「何食べたい?」と聞いてくれる。私は大抵、煮込みうどんをリクエストした。 体調不良の時にうどんを食べる、というのは、消化にも良いし、いかにも定番な感じがするけれど、私は決し

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        まえがき、のような。

          「怖くないよ」

          年長さんの子どもに、目薬が処方された。軽いアレルギー症状が見られたからだ。 早速その夜から目薬をさそうとすると、これがまあ、うまくいかない。 ゴロンと寝転ぶまではいいものの、目をこれでもかと固く瞑る。「痛くないよ」「怖くないよ」と声をかけ続けるも、手で顔を覆って抵抗し、終いには暴れて逃げ回る始末。 病院ではお利口に座って視力検査などをこなし、先生の説明も一緒に聞いた年長さんだが、家では目薬ひとつで「こわいの」「いやなの」と最終的に泣き出してしまい、親も途方に暮れてしまった。

          「怖くないよ」

          【3行日記】朝が来るまで

          6歳さんは文句が多い。例えば今日は、夢のこと。 「ゆめ見てるとあっという間にあさになっちゃうんだけど。もっと寝てたいのに。眠たいからさあ……」 そうねえ。お気持ちは、なんとなくわかりますよ。

          【3行日記】朝が来るまで

          ピカピカ、まんまる

          「ねえ、おつきみっていつ?」 15日あたりにそう聞かれた私は、不勉強と怠惰ゆえに「いつだろう……今日?」と適当な返事をした。今年の中秋の名月は17日です、と、その日の晩のニュースで見た。 自分の幼少期にはお月見らしいお月見をした記憶がなかったので、お月見と言われても何をしたらいいのかわからない。画的には、縁側から月を眺めながらお団子を食べるとそれっぽいけれど、我が家は残念ながらマンションだし、縁側はない。 そもそも月はどちら側に見えるのだろう。引っ越してきて数ヶ月、いま

          ピカピカ、まんまる

          インスタントラーメン、元気入り

          最近、我が家の6歳さんは刻みネギが好きだ。以前はチャーハンに混ざってるだけで避けていたのに、気づけば納豆や麺類を食べる時、たくさん入れて食べるようになった。 幼稚園で食べ物の栄養素の話を聞いたのか、食べ物を前にすると毎日のように「なんの栄養があるのか」と質問される。今日はラーメンにネギを振りかけながら、「ネギってなんのえいようがあるの?」と聞いてきた。「うーん、食物繊維とか、免疫力アップとか……?」と適当に答えると、「あっ!元気とか!」と返された。お父さんがよく、「ネギを食べ

          インスタントラーメン、元気入り

          ひとり、凛と

          満開のひまわり畑。 日差しに疲れたかのように項垂れる花たちの中で、一本だけ、ピンと背筋の伸びたひまわりが、こちらを見ていた。 #夏の1コマ

          ひとり、凛と

          季節の声

          虫が苦手だ。 もっとはっきり言うと、ほとんど生理的に無理だ。 外で見かける分には、まだいい。 チョウチョが飛んでるなあ、とか、トンボがいるなあ、とかは、まだ、大丈夫。 ハチはちょっと怖いし、蜘蛛の巣はできたら自分の家や所有物とは無縁のところにあってほしいけど、まだ、外なら我慢する。 ミミズが干からびていたら避けて、蝉がひっくり返っていたら慎重に距離を取れば良いのだ。 問題は、家の中だ。 これはもう、サイズの大小に関わらず、どんな虫も基本的には無理だ。 見つけた瞬間ゾワゾ

          【3行日記】幸せの詰め合わせ

          金曜日の夕方、スーパーを歩く人たちは、みんなどことなく疲れている。 そんな中、こちらに歩いてくる、1人の男性。仕事帰りらしいワイシャツ姿で、しかつめらしい顔をしている。 手には、ミスタードーナツの箱。多分、あの感じは、オールドファッションなら10個くらい入りそうな、箱。 ああ、幸せをお持ち帰りされるんですね。 表情の難しさとは相反した、あたたかな幸せの詰め合わせに、こちらが思わず笑顔になった。

          【3行日記】幸せの詰め合わせ

          おじいちゃんと戦争

          祖父は勇ましい人だった。 もっとはっきり言うと、短気で喧嘩っ早い側面があった。 営んでいた小さなお店の片隅にはいつも竹刀がぶら下がっていて、「強盗が来たらおじいちゃんがこいつで追い払ってやる!」と息巻いていたので、家族はいつも肝を冷やしていたものだ。 祖父は大正9年生まれで、若い頃から健康そのものであったので、太平洋戦争の時分には他の多くの若者と同じように徴兵された。 当時のことを話す時、祖父はいつも「おじいちゃんが兵隊さんだった時はな」と言う枕詞をつけて話す。 そういう時

          おじいちゃんと戦争

          赤ちゃん語マイスター

          「どうして赤ちゃんの言葉がわかるの?」 我が家の年長さんが唐突に、本当に前後の脈絡もなく尋ねるので、私は結構面食らった。夕飯の後、夏休みのちょっとした課題である「お手伝い」のために、洗濯物を畳みながらの一言だった。 「赤ちゃんの言葉がわかる」と思ったことが自分では一度もなかったので、聞き間違いかと思って念のため、「なんて?」と聞き返したが、年長さんは同じ言葉を繰り返した。 「なんでお母さんは赤ちゃんの言葉がわかるの?」と。 赤ちゃんの言葉、とはなんだろう。 まだ10ヶ月

          赤ちゃん語マイスター

          おとなへの一歩

          最後に乳歯が抜けたのは一体何歳の時だっただろう。 調べると、奥歯にあたる臼歯の生え替わりが11歳前後とあるので、おそらく私も小学校の高学年の時に抜けたのが最後だろう。 つまり今から数えて四半世紀ほど昔のことだ。記憶も曖昧になるはずだけれど、一方で、乳歯が口の中でグラついている感覚だとか、舌や指で動かしているうちに根の方がミシッと音を立てた瞬間のことだとか、煎餅やら氷やら硬いものを口にして「早く抜けないかなあ」と心待ちにしていたことは、割と鮮明に思い出せる。 それに、最後に

          おとなへの一歩

          うまくなりたい

          買い物が下手くそだ。 買い忘れのないようにと思ってメモを取るのにそのメモを忘れて出かけるし、スマホなら忘れないからと思ってスマホに入力しても商品を追いかけるのに夢中で確認を忘れる。そうして、買いたかったものを買い忘れ、買わなくて良いものまでカゴに入れてしまう。 ニトリに行った直後に「やっぱりあれも欲しかったな」とすぐにニトリに行きたくなるし、カインズから帰った直後に「こっちのサイズのケースも買っとくんだった」と後悔する。ネットで買ってしまおうか、とショッピングサイトを覗いても

          うまくなりたい

          遠ざかる、一服

          子どもたちが寝て、自分がまだ活動できる余力を残している日。そんな日は週に何日もあるわけではない。だからたまに、5歳児がすんなりお布団に入り、0歳児もスヤスヤと寝息を立てている夜、心は浮かれてはしゃぎだす。 今なら、散らかった部屋を片付けられるし、ドラマを配信で観ることもできるかも。でもとりあえず、今日も一日なんとか乗り切ったご褒美に、ひと息入れようか。紅茶かな、コーヒーかな、冷蔵庫にスイーツもあったぞ、とウキウキしながら準備をして、いざ、とスイーツの袋を開けた途端、聞こえるか

          遠ざかる、一服