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#53 セルフイメージに騙されない - ポジティブ心理学 -

ここでは「モチベーション」について一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、内側からモチベーションが湧いてくるときというのは、自律性、有能感、関係性という3つの心理的ニーズが満たされているときだ、ということについて、一緒にみてきました。

心理学の研究では、「モチベーション」とは「行動にエネルギーを与え、方向づけ、維持させる内的なプロセス」であるとも言われています。つまり「行動に影響を与えるもの」が、モチベーションの研究対象になるわけですが、前回の記事でみた「3つの心理的ニーズ」もモチベーションの研究対象です。今回の記事でも「行動に影響を与える内的なプロセス」について、一緒にみていきたいと思います。今回は、自分が自分のことをどう思っているかによって、自分の行動が変わってくるということについて、一緒に学んでいきましょう。


自分のことを「どんな人」だと思っているか?

まず、皆さんにお尋ねしたいんですが、皆さんは、自分のことを「どんな人」だと思っていますか?性格的なことでも何でも構いません。少し時間をとって、頭の中でリストアップしてみてください。

(時間経過)

自分はどんな人だろう?と考えてみると、例えば、自分のことを誠実な人だと思う人もいれば、真面目な人、好奇心旺盛な人、朝型人間、完璧主義、内向的な人などなど、色んな言葉が出てくるんじゃないかなと思います。このように、僕らは誰しもが「自分ってこんな人」というセルフイメージをもっています。(専門用語では「自己概念 (Self-concept)」といいます)

このようなセルフイメージは、自分自身の過去の経験や、誰かにそう言われたことで自分の中に形成されていきます。過去の経験の一つ一つを細かく覚えているというよりも、それらを総称して、「私って、いつもこんな人」という形で出来上がるのがセルフイメージです。

誰しもが「自分ってこんな人」というセルフイメージをもっている

人は自分のセルフイメージに合うように行動しちゃう

このセルフイメージについて、「自分は誠実な人だ」など、健全なセルフイメージをもっていたら何も問題ないんですが、「自分は怠惰だ」「自分は馬鹿だ」など、ネガティブなセルフイメージをもっている場合、少し注意が必要です。なぜなら、僕らはそれがいくら自分にとって嫌な側面であったとしても、セルフイメージに合うように行動しようとする傾向があるからです。

皆さんも言われてみれば、ご経験あるんじゃないかと思いますが、例えば、自分自身のことを「私はシャイだ」と思っていると、周りからも「君はシャイだね」と思われるような行動をとろうとしちゃう傾向が僕たち人間にはあるんです。言葉数が少なくなったり、ちょっと輪の中から一歩引いてみたり、相手に「自分がシャイな人間であること」を気づいてもらえるような行動を意識、無意識に関わらず、とってしまうことがあるんです。

これは脳の1つの特徴で、僕たちの脳は省エネを好みます。そのため、つじつまが合わないことを理解しようとすると、脳はエネルギーを使わないといけないため、そういうのを嫌うんです。だから、周りの人も「自分はシャイな人だ」と思ってもらえるように動きたくなっちゃう。また、初対面の人とうまくコミュニケーションがとれたり、人から「君は社交的だね」などと言われたときは、自分のセルフイメージとつじつまが合わないので、それらの経験を無かったことにしようとしちゃう傾向があるんです。

例えば、「自分はモテない」というセルフイメージをもっていたら、バレンタインデーである人から想いが込められたチョコをもらったとしても、「いやいや、これは偶然だから」とか「義理チョコだから」と自分に説明して、せっかく想いのあるチョコをもらったのに、その経験を無かったことにしようとしちゃうんです。脳は自分のセルフイメージとつじつまが合わない情報については、通そうとしないんです。

脳はセルフイメージに合わない情報を排除しようとする

ネガティブなセルフイメージをもっていると、ポジティブな情報はシャットアウトされ、そのセルフイメージに合う行動ばかりをとってしまい、「自分はそういう人だ」というセルフイメージがさらに強化されていきます。そうじゃないときも現実にはあるのに、そのスパイラルに陥っちゃうと勿体ないですよね。

健全なセルフイメージを育てるために

このような状況に陥らないために、もしくは、そのような状況から抜け出すために、巷では「セルフ・アファメーション」といって、「なりたい自分」のセルフイメージを何度も何度も自分に言い聞かせようというやり方がよく自己啓発関連で推奨されています。確かに、「言霊」という言葉があるように、呪文のように唱えて、セルフイメージを塗り替えようという試みは良いですよね。一方、現実的に「自分はシャイだ」と思っている人が、「自分は社交的だ」と何度も何度も自分に言い聞かせたとしても、自分自身に嘘をいっているようで、なかなかうまくいかないという声もよく耳にします。

そこで、セルフ・アファメーションがうまくいかないという方に、ぜひお勧めしたいのが、自分のセルフイメージに合わなかった「例外」を見つけていくことです。前述した通り、セルフイメージは、一つ一つの事細かい具体例から出来ているのではなく、大雑把に「私はいつもこんな人」という形で作られています。また、そのセルフイメージとつじつまが合わない経験は無かったことにしようと脳がするため、そうじゃなかったときのことを見落としている場合がよくあるんです。ですから、丁寧に「そうじゃなかったときのこと」を思い出していき、自分の抱えるセルフイメージの反例を見つけて、強固なセルフイメージを揺るがしていきたいんです。

他の人からフィードバックをもらったり、過去に「いや偶然だよ」と言って、ないがしろにした経験を思い出し、「もしかしたら、そう思い込んじゃったのかも」と、自分のネガティブなセルフイメージを180度変えることを目的にするのではなく、カチコチに固まったセルフイメージを柔らかくすることを目的にしてみてください。【自分はシャイだ → 自分は社交的だ】ではなく、【自分はシャイだ → 自分はシャイなときもあるし、そうじゃないときもあるよね】みたいな感じです。本来、人間というのは、性分と環境の掛け算で存在している生き物ですから、ネガティブなセルフイメージに騙されるのではなく、丁寧に現実に起きたことをみて、自分が作り出したセルフイメージに振り回されないようにしていきたいですね。

さて、今回は自分がもつセルフイメージが自分の行動に影響を及ぼすため、自分にとって不都合なセルフイメージをもっている場合は、そうでなかったときの例外を丁寧に見つけて、自分の抱えるセルフイメージを柔らかくしていこうという内容でした。次回の記事では、「自分の能力についてどう思っているかが自分の行動に影響を与える」という自己効力感について、一緒に学んでいきたいと思います。(つづく)

【参考文献】
Reeve, J. (2009). The self and its strivings. In R. Johnmarshall (Ed.), Understanding motivation and emotion (pp. 263-293). John Wiley & Sons, Inc.

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