#44 親友のように自分に接する - ポジティブ心理学 -
ここでは、ポジティブ心理学の観点から、落ち込んだときの立ち直り方について、一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では、その一つの方法として、「楽観性」を育てることについて、一緒にみてきました。
ネガティブな出来事が起きて、落ち込んだとき、そのとき、どのような説明を頭の中でしているかを確認し、事実に基づきながら、楽観性の説明スタイルに置き換えていくという内容でしたね。今回は「セルフ・コンパッション」という概念を学ぶことで、自分の立ち直り方の引き出しを増やしていきましょう。
落ち込んだとき、どんな声をかけるか?
僕たちは生きている限り、さまざまな出来事に遭遇するわけなんですが、失敗したり、嫌な出来事が起きたりすることは誰にだってあると思います。失敗して落ち込む、全然ありますよね。一方、落ち込んだとき、他人にかける言葉と自分自身にかける言葉には少し違いがあるようです。
例えば、皆さんの親友を思い浮かべてほしいんですけど、その親友が失敗して落ち込んだときとか、皆さん、どんな言葉をかけられると思いますか?おそらく立ち直ることができるように、「いや〜辛いよね」と共感したり、「誰にでもあることだよ」と慰めたり、「また次の機会でがんばろうよ」と励ましたりされるんじゃないかなと思います。
一方、ご自身が失敗して落ち込んでいるときはいかがでしょうか?すぐに立ち直ることができる人はいいのですが、なかなか立ち直ることができない人の中には「あ〜マジで人生終わったわ」と現実以上に盛っちゃったり、「なんで自分だけこうなんだ」と孤独を感じたり、「自分はダメな奴だ」と厳しく自己批判したりする言葉を自分自身に投げかけてられている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
なぜ他者には優しくできるのに自分には出来ないのか?
親友も自分も同じ「人間」であるはずなのに、親友が落ち込んでいるときは優しい言葉をかけてあげられるけれど、自分自身に対しては厳しく接してしまう・・・。これって、なんでなんでしょうか?色んな意見はあると思うんですが、すでに現実に頭をぶつけて苦しんでいるのに、追い討ちをかけるように自分をさらに攻撃するような言葉をかけていたら、潰れちゃいますよね。
身を守るための2つの脳内ネットワーク
この親友と自分自身に対する接し方の違い、実は2種類の脳内のネットワークが関連していると言われています。
僕たち人間を含む動物は、危機的な状況に陥ったとき、自分自身を守ろうとする本能が爬虫類のときから備わっており、その場で「戦うか逃げるか」という反応をすることで生き残ろうとします。
「やばい!危険だ!攻撃しろ!逃げろ!」
そのとき、「脅威に対する防御システム (Threat Defense system)」と呼ばれる脳内のネットワークが働き、「戦うか・逃げるか」という反応を起こし、身を守ろうとするようです。ある意味、失敗したときに自分自身を厳しく批判しているときというのは、この脳内ネットワークが働き、自分を攻撃することで身を守ろうとしている状態になってしまっているんです。絵で描くとこんな感じでしょうか?
この守り方、「守ろう」という意図はいいんですが、これをずっと続けちゃうと気づかないうちに自分で自分を潰しちゃいますよね。
ではどうすればいいいんでしょうか?
ここでグッドニュースなんですが、我々、人間を含む哺乳類には、もう一つの守り方があると言われています。それは、お母さんが赤ん坊をケアするような温かい守り方です。
誰かをケアして守ろうとしているとき、先程の「戦うか逃げるか」という反応のときとは異なり、「哺乳類のケアシステ厶 (Mammalian caregiving system)」という脳内のネットワークが活性化していると言われています。親友が失敗したときに声をかけているときは、爬虫類型の脳ではなく、まさにこの哺乳類型のネットワークが活性化されているんですね。
親友のように自分に接する
危機的な状況から身を守ろうとするとき、攻撃する守り方もあれば、ケアするという守り方もあります。ポジティブ心理学がお勧めするのは、この後者である親友に接するときに使っている脳内のネットワークを自分に対しても使う、つまり、親友に接するように自分にも思いやりを与えるという守り方です。(これを「セルフ・コンパッション」と呼びます)
失敗したり、ネガティブなことがあったとき、「人生終わった」と盛らずに、「ああ、今、自分は苦しんでいるな」という事実をありのままに見ること。(マインドフルネス)
「なんで自分だけ」と自分を孤独に追いやらずに、「人間だもの、誰にでもあることだよ」と、「皆、不完全なんだ」という意識をもつことで、人との繋がりを感じること。(共通の人間性)
「お前はダメだ」と自分を攻撃せずに、「よくやっているよ」と労ったり、「大丈夫、大丈夫」と励ましたりすること。(自分への親切心)
このように、落ち込んでいる親友に接するように自分に対して声がけすることで、立ち直るための心のエネルギーを溜めていくことができます。
「そりゃしんどいよね、今。誰にでもあるよ、人間だもん。大丈夫、大丈夫。」
ぜひ、このフレーズを一つのテンプレートにして、ご自身にとってしっくりくる言葉にカスタマイズして使ってみてください。
苦しんでいる渦中、意外と「自分は苦しんでいる」と気づかないものです。ですから、「今、しんどいなあ」と、まずは自分の状態に気づくことからやっていきましょう。
自分を甘やかしているように感じる方へ
最後に、欠点を見つけて直すという「KAIZEN」の文化をもち、「自己卑下」と混同された「謙虚さ」を美徳とする僕たち、ジャパニーズにとっては、上述のように自分に思いやりのある言葉を投げかけることに抵抗感をもたれる方も少なくありません。体育会系の日本の教育を受けて育った僕も、例外なくそのうちの一人でした。頭ではセルフ・コンパッションは大事だと思うけど、なんか、自分に優しくしていたら成長が止まりそうな感じがしたり、なんだかこそばゆい、そんな感じがしていました。
そんなジレンマがあったんですが、このセルフ・コンパッションという本来、仏教にあった概念を心理学の領域で紹介したクリスティン・ネフ先生という先生に直接、質問する機会があったので、伺ってみたところ、「ケアすることと甘えることは違いますよね」とスパンッと言われて、「確かに」と腑に落ちたことがありました。(「確かに、プロレスラーも休むときはちゃんと休むよなあ」と考えると、とても納得)実際に自分に対して親友のように接することができる人の方が、逆境に立たされたときに強い(レジリエンスが高い)ことも論文で発表されており、「自分に優しくする」というよりも「自分をケアする」と捉えることができるようになってから、抵抗感がなくなり、積極的に、自分を親友のように扱えるようになってきました。
結局、死ぬまで一緒にいるのは自分です。自分にとってのベストパートナーになっていくというイメージで、ぜひ、落ち込んだとき等、ご自身に対して、「そりゃしんどいよね、今。誰にでもあるよ、人間だもん。大丈夫、大丈夫。」という言葉を投げかけてみてください。
さて、ここでは、落ち込んだときの立ち直り方として、自分を親友のように接することについて一緒にみてきました。人間のこころを「庭」で例えると、「楽観性」と「セルフ・コンパッション」を学ぶことで「雑草」のならし方を一緒に学んできたというイメージでしょうか?(「庭」の例えについてはこちらの記事をご覧ください)
次回は「花」の育て方について、人間が本来もつ「強み」について、数回に分けて、一緒に学んでいきたいと思います。(つづく)