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マーケティングと広報の違い #1~役割の違い~

「広報」と「マーケティング」― この2つの機能の違いが何なのか?業界関係者でない人であれば自然に持つ疑問ですが、ネット上の解説を見ていてもあまり個人的に満足が行くものがなかったので、今回記事にしてみることにしました。

元々の意味は?

「広報」の元々の意味は「広く知らせること」です。大辞林では「団体が、事業内容や活動状況を一般の人に広く知らせ、理解を求めること。また、その知らせ。」となっています。定義のレベルでは、広く知らせるという手段は明確であるものの、それを実行することによる目的までははっきり書かれていません。

一方、「マーケティング」はいくつかの異なる定義がありますが、「(顧客を良く理解した上で)セリング (販売活動) を不要にすること」「売れる仕組みを実装すること」という解釈が主流です。このマーケティングの目的を達成するための顧客とのコミュニケーション、いわゆる「マーケティング・コミュニケーション (通称「マーコム (MarComm)」)」が、広報と似ている部分です。

ポイント:
「広報」は手段、「マーケティング」は目的、目的達成のための顧客との対話手段「マーコム」が広報と似ている。

広報とPublic Relations (PR)

ひとまず本来の意味どおりに「広報」と「マーケティング」という言葉を解釈してきました。しかし、本来、"広報" にも手段だけでなくきちんと「目的」があります。まず、広報の歴史とともにそれを簡単に振り返ってみましょう。

日本においては「広報」(広く報じる) という言葉が使われていますが、元々の概念が入ってきたアメリカやイギリスでは「Public Relations (PR)」(組織が外側の人々との関係性を良く保つための活動)と呼ばれています。そして関係性を良く保つことで、世の中における組織の価値 (=ブランド価値) を向上させます。日本ではPRの機能を誤解して「広く報じる」部分だけを切り取ってしまったようです。しかし、"広報" 活動にもきちんと「組織価値向上」という目的があることが分かります。

古代や中世では、国家が戦争、宗教、文化などに関連した「国家広報」を展開することから歴史が始まりましたが、活字の発明に端を発するマスメディアの台頭によりMedia Relations、メディアとの関係性を良好に保つことも重要視されるようになってきました。

そして、企業活動が組織的に行われるようになってくると「企業広報」が活発に行われるようになり、株式会社が発明され、投資家との関係を築くためにInvestor Relations (IR)活動も行われるようになりました。

このように、広報もMedia RelationsもInvestor Relationsも、Public Relationsの一部であると言えます。また、日本においては先に述べた歴史的経緯から「広報」と「Public Relations」を明確に区別する場合もありますが、この記事では「広報活動」という単語は以後「Public Relations」という意味も込めて使うことにします。

ポイント:
日本語の「広報」≠本来の意味である「Public Relations」であり、Public Relationsの目的は「組織が外側の人々との関係性を良く保つこと」による「組織価値向上」である。

※ 参考書: 「世界の広報史と日本」―比較広報史研究の知―, 国枝 智樹, 広報研究 第21号 (2017年3月号)

非営利団体におけるマーケティングの「顧客」は?

一方、マーケティングも最近では営利団体に限らず、政府や非営利団体でも実施することが増えてきました。広報活動は自分たちの活動をアピールするという意味で非営利団体でも成り立つと思われるかもしれませんが、売れる仕組みが不要で販売活動を行わない団体では「顧客」がいないようにも思われます。その場合のマーケティングはどのように捉えればいいのでしょうか。

最近では営利団体における販売活動も複雑になってきており、一回きりの売り切りの関係というのは成り立たなくなってきました。一度関係を築いた顧客に繰り返し長く関係を持ってもらって顧客生涯価値 (LTV: Life Time Value)を如何に上げていくかということが、最近のマーケティングのテーマとなってきています。

この「顧客と繰り返し長く関係を持つ」という考え方は、非営利団体にも拡張することができます。たとえば行政であれば、「顧客」である国民に高い満足度で末永く住んでもらったり (そして税金を払ってもらう)、法人に拠点を置いてもらって企業活動を実施してもらう (そして地域の経済活動を盛り上げてもらい税金を収めてもらう) ことを目的とした「マーケティング活動」を行うといった考え方が成り立ちます。宗教団体や社会活動団体であれば、メンバーを増やしつつ末永くメンバーでいてもらうことが目的になります。

このように営利団体でも非営利団体でも「マーケティング」も行うことに価値があります。「Public Relations」という概念に近い言い方をすると、マーケティングは「Customer Relations」ということもできます。

ポイント:
営利団体でも非営利団体でも「長く関係性を築く相手」を顧客としてCustomer Relationsを行うという、マーケティング活動が成り立つ。

コミュニケーションの相手は?

営利団体と非営利団体の両方で「広報活動」も「マーケティング」も実施する価値がわかったところで、次にこれらの活動の相手について考えてみましょう。

広報活動は「Public Relations」のPublic、いわゆる「公衆」に対して行います。もしくはある「組織」から組織外の人に向けて行われます。ただし、この「公衆」というのは対象が特定の属性が定まっていない「マス向け」になります。活動の内容によっては、メディア向け (Media Relations)、投資家向け (Investor Relations)と、対象が絞られる場合もあります。そして目的は「組織」の価値向上です。

一方、「マーケティング」についても、いままでの話の中で「顧客」向けに行うことであることが想像できるのではないかと思います。いわゆるCustomer Relationsです。この場合の「顧客」とは、モノやサービスを買う人のことだけを指すのではなく、「長く関係性を築く相手」という "広義の顧客" です。

コミュニケーションにおける「接点」

今日では、様々な人々にインターネットで広く直接リーチできるようになりましたが、一昔前までは相手に直接リーチするにはかなりのコストがかかりました。コミュニケーション元とコミュニケーションの相手が繋がる場所を「接点」と言いますが、たとえば「直接訪問」や「店舗等での接客」の他に「第三者 (パートナー) を通しての間接的接点」「電話を通しての接点」「各種広告や出版物による接点」「デジタル接点」など様々な種類の接点があります。

大きな組織になると、これらの各接点やその目的ごとに役割分担をしてコミュニケーションの対応を行うことが多くなります。(広告宣伝部、広報/PR/IR部、デジタルマーケティング部、テレセールス部、電話サポート部など)

ポイント:
コミュニケーションの相手には属性を特定しない「Public (公衆)」の他に「Media (メディア)」「Investor (投資家)」「Customer (広義の顧客)」などの特定の属性を持つ相手がいる。それぞれには接点があり、接点や目的ごとに組織内で役割分担をしていることもある。

現代における広報活動とマーケティングの実質的な分業体制

「広報活動」と「マーケティング」の違いを考えるにあたり、現代では接点が複雑化していることに加えて、もうひとつ考慮事項があります。特に「ある一定以上の規模の営利企業・団体」において重要となってきます。

いままでの説明を見ていると、「マーケティング (Customer Relations)は、広報活動 (Public Relations)の一部」なのではないか、コミュニケーションの相手の属性を(広義の)顧客に絞ったやり方なのではないか、と思われるかもしれません。これはたしかに組織によっては成り立ちます。特に非営利団体や政府広報では広報活動とマーケティングの境界が特に曖昧なことが多いでしょう。

一方、営利企業・団体においては事情が少し異なります。ある程度以上の規模の企業では、社会的責任を果たすための活動 (CSR活動)や投資家向けの活動を行っていますが、企業・団体の考え方や業種によっては、これらのことをマーケティングとして実施したくないという考え方があります。営利企業・団体は「顧客から利益を得る」ことが組織の目的になっているため、営利目的以外の活動をマーケティングとして実施する場合、わかりやすく言うと「最終的に営利目的につなげるための下心が見えてしまう」と考える場合があるためです。

このため、非公開企業ではマーケティング部の中に広報機能があることもありますが、ある程度大きな企業や公開企業では、営利目的か非営利目的かによって広報を行う組織を分けている場合があります。具体的には、たとえば以下のように分業が行われています。


広報部門

  • CSR活動など非営利を目的とした広報

  • 投資家向け広報 (IR)

  • メディアとの関係構築 (Media Relations): 記者

マーケティング部門

  • 顧客向けの広報 (メディアとの無料での情報交換)

  • 広告・宣伝 (有料の媒体購入)

  • メディアとの関係構築 (Media Relations): 広告部門

  • デジタルマーケティング

  • テレマーケティング

  • カスタマーマーケティング (Customer Successの一部)

  • アナリストとの関係構築・広報 (Analyst Relations)

営業部門

  • 訪問販売、接客、テレセールス


広報活動とマーケティングの大まかな分類
青は広報、橙はマーケティングの勢力範囲、緑は中間。
(組織により異なる可能性あり)

また、非営利団体においても、コミュニケーションの相手が広義の顧客として捉えられるかどうかで広報とマーケティングの役割を分けることも可能です。関係を築き、"顧客" 価値を高めるためのマーケティングの様々な手法を取り入れることで、相手にもより大きなメリットと満足度を感じてもらうことが可能になります。

ポイント:
営利企業・団体の場合は営利目的・非営利目的の活動で広報とマーケティングの組織と責任を分ける、非営利団体では相手が広義の顧客かどうかで広報とマーケティングの組織と責任を分ける、という考え方もできる。

いかがでしたでしょうか。広報とマーケティングの単純なようで複雑な関係、様々な接点があることで関係を「こじらせて」しまっているようにも見えますが、この記事で少しでもそれを紐解くことができたなら幸いです。

次回は、この関係を踏まえた上で、デジタル時代にインターネット上に存在する「マーケティング記事」と「広報記事」の違いについて解説します。

では、また!

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