「本日は、お日柄もよく」 原田マハ
「言葉は、ときとして、世の中を変える力を持つ。」
「本日は、お日柄もよく」 原田マハ
二宮こと葉は、幼なじみの厚志君の結婚式で、今にも眠りそうになっていました。
その原因は、お祝いのスピーチ。
長い上につまらない。
それに加えて自分のスピーチに酔っている。
こと葉はあまりの眠たさに、目の前のテーブルのスープ皿に真正面からダイブしてしまったのです。
こと葉は、恥ずかしいのとみっともないのとで、慌てて披露宴会場から出ます。そして、トイレの洗面台で顔を洗いました。
ロビーに戻ると、あきらかにこと葉に向けられた笑い声が聞こえてきます。
声の方に向くと、そこには女性が座っていました。
こと葉は、彼女に詰め寄ります。
すると
その女性は、意外な言葉を発します。
彼女はこと葉に、笑顔でそう言ったのです。
こと葉は、彼女に興味がわきました。
こと葉は披露宴会場に戻って、彼女の座っている席と座席表を突き合わせ、確認します。
そこには
久遠久美(くおんくみ) 新郎知人
と書いてありました。
会社の名前も肩書も書かれていません。
厚志君はコピーライターなので、その関係者かもしれません。
しばらくして、キャンドルサービスがはじまりました。
こと葉は昔、厚志君のことが好きでした。こうしてふたりを眺めていると涙が浮かんできました。うれしさとくやしさが入り混じり、感情がシャンパンの泡のように弾け、涙になっていきます。
すると
司会者の声が響きました。
あのひとだ。
会場は波が引くように静まります。
しかし、彼女はまだ話さない。
そうして、もう一呼吸おいたあと、ゆっくりと彼女は話し出すのでした。
こと葉はすごい始まり方に、思わず身を乗り出して聞き入ります。
彼女は、話を盛り上げ、笑いを誘い、納得させ、拍手まで起こさせます。
厚志君のお父さんは政治家でした。その今川先生のスピーチライターが久遠久美だったのです。
スピーチの最後、新婦の頬には一筋の涙が……
このスピーチだけで、言葉というものが、人の思いや行動、考え方を180度変えてしまう、はかり知れないパワーがあるのだと感じさせられました。
本当にあたたかいスピーチでした。
言葉が、これほどまでに人の感情をふるわせるものだとは。
こと葉はこのあと、人生を変えられてしまいます。
出会ってしまったのです。
◇
僕は「本日は、お日柄もよく」の文庫が出てすぐにこの本を買って読んだのですが、そのときは「スピーチライター」という仕事のことを知りませんでした。
今では、「あのスピーチのスピーチライターは誰なのか?」という話もよく聞くようになりましたが、その頃は、とても新鮮な響きでした。
こと葉は「言葉の力」「言葉の魔力」に魅せられ、久遠久美の言葉の世界に入っていきます。
そして
厚志君が亡き父、「今川篤郎」の遺志を継ぎ神奈川の選挙区から出ます! そのスピーチライターには、久遠久美の弟子となった二宮こと葉が!
しかし
同じ選挙区の与党議員のスピーチライターには、超売れっ子コピーライター和田日間足(ワダカマタリ)が立ちはだかります。
ワダカマ(通称)は、厚志君の広告代理店の最大のライバルでありました。
こと葉は熾烈な選挙戦の中、最大のピンチを迎えます。
久遠久美はこう言いました。
生きているといろんなことがあります。
しかし
あなたのそばに力強い言葉があれば!
2日間は塞ぎこんでもいい。
でも、3日後には確実に歩き出している自分がいるはずです。
「言葉の力」を最大限に感じる原田マハさんの紡ぎ出す言葉。
感動的な力強い言葉に、読書中ずっと背中を押されていました。
【出典】
「本日は、お日柄もよく」 原田マハ 徳間書店
いつも読んでいただきまして、ありがとうございます。それだけで十分ありがたいです。