20代後半に突入した私が選ぶ10本~書籍編~
2024年7月。無事に26回目の誕生日を迎えることができたことを自ら祝し、この記録を残すことを決めた。
なお、これから紹介する10冊は順不同であり、紹介する順番は自分の中での順位を表すものではない。
【小説】
①太宰治『正義と微笑』
トップバッターは太宰先生。シニカルで鋭い口調が個人的に好き。
新潮文庫『パンドラの匣』に収録されている『正義と微笑』はたびたびXでバズるので聞いたことがあるという人も多いのではないだろうか。
登場人物である黒田先生によるありがたすぎるお言葉。大学生時代にこの文章に出会えて本当に良かったと今でも心の支えにしている。
この文章だけでなく全体通して日記調で進んでいく物語も当然面白いのでおすすめです!
②町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』
52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一頭だけのクジラのこと。誰にも届かない声、何も届けられない声。そんなクジラのように自らの苦しみや葛藤を届けられない人々がいる。そんな52ヘルツの人々の、苦しく懸命な物語。
小説をあまり読む方ではなく、読んでも感情移入するタイプではないのだが、この本は読んでいてすごく苦しい気持ちに引っ張られた。虐待や自殺の描写が生々しくて思わず目を閉じてしまいそうなときも多々あったが、それでも読み切りたいという思いが勝るだけの引力がこの作品にはあった。
2023年には杉咲花主演で実写映画化もされているのでこちらもあわせてチェックしたい。
【新書】
③平野啓一郎『私とは何か』
「本書の目的は、人間の基本単位を考え直すことである。」
冒頭の文章が提示するように「個人」と括る単位を改め、新しい「分人」という構成単位の提案をする1冊。
個人という単位に苦しめられた人は少なくないのではないだろうか?
個人=individual(=分けられない)。つまり「本当の自分」とか「揺るぎない唯一無二の自分」があると信じている。だから人間関係で苦しむ。
一方で平野の提案する分人は「様々な自分はどれもすべて自分である」とするものである。家族に向ける顔。友達に向ける顔。会社で向ける顔。好きな人に向ける顔…。どれもそれぞれだが、そのどれもが紛れもなく”自分”なのである。種のある桃のように何か1つ自分の中に”核”や”芯”といったものがあるのではなく、タマネギのように皮が何層にも織りなしていて、その織りなしているものすべてが自分なのだ。
小難しく感じられた方は筆者(=私)の説明力不足なだけで、平野さんは理路整然とわかりやすく論じてくださるので是非本書をお読みください。
「人間関係に悩みがある。」「本当の自分って何だろう。」
その答えが本書に詰まっています。
【エッセイ】
④若林正恭『完全版 社会人大学人見知り学部卒業見込』
「仕事に対して緊張したり憂鬱になったりすることに負い目を感じなくなった。その感情は後の充実感や高揚感の予告信号のようなものだから」
「ネガティブを潰すのはポジティブじゃない。没頭だ。」
私のエッセイの入り口は間違いなくオードリー若林正恭さんです!!
面白可笑しいエッセイの数々や、上記に記載したような名言の多さに思わず涙してしまう。なかでも「十年ぶりの失恋」というエッセイは本当に胸に刺さった…。若林さんはひねくれていて社会に適合できていなかったと語っているが、エッセイを時系列で読んでいくと徐々に社会に愛を見出しているというか、身近な物事や自分自身をすごく大切にするようになったんだなという過程も温かみとともに感じられて、すごく尊いなと思いながら読んだ。
⑤三浦展『昼は散歩、夜は読書。』
とある書籍を三省堂書店西武池袋店で探していたところ、たまたま近くにあってたまたま買ってハマった本。これだからリアル書店はやめられない。
2部構成になっていて、前半は社会や都市に関する書籍紹介。後半は社会や都市・地方に関する筆者のエッセイが並ぶ。ゆったりとしたスタンスを据えながら刺すところはしっかり刺しているのが印象的。例えば3連休を「日本人をただの消費者にして、頭を空っぽにするための制度」と評したり、「本当にやりがいのある仕事は、本当に美味しいものは毎日食べたいと思わないのと同様、少量でも満足するはずだ」という指摘はごもっともだけどあまり指摘する人いない視点だよな~~と膝打ちまくり。仕事に関する言説だけでなく、都市への考え方やコミュニティに関する指摘も鋭い。
【ビジネス】
⑥チャールズ・エリス『敗者のゲーム』
10冊のうち唯一選出した投資関連本。
学生時代に投資をはじめ色々な雑誌や書籍に触れてきたが、現状この1冊さえ読んでおけばいいのでは?と思えるほどの名著。
投資に馴染みのない人からすると投資=「運ゲー」「データを駆使してどうやってテクニカルに振舞うか」みたいな認識かと思うが、その態度は失敗につながりかねないという論説を展開してくれる。投資とは本質的に何なのか?本書を見ればその本質と、「敗者のゲーム」のタイトルの意味するものががっちり掴める。
⑦山口周『クリティカル・ビジネス・パラダイム』
「社会運動・社会批判としての側面を強く持つビジネス=クリティカル・ビジネスという新しいパラダイムの勃興によって、経済・社会・環境のトリレンマを解決する」という筆者の仮設のもと、サステナブルで人間の幸福に寄与する生産や消費に価値転換していこうと提案。
クリティカルってどうすればいいのか?という具体的な行動様式やすでにクリティカルビジネスを展開している世界有数の企業の実践例などとにかく具体例が豊富で山口周さんの説得力の高さが滲み出ている。
余談だが、本書の発売記念ということで池袋ジュンク堂書店で山口周コーナーができていたのだけど、そこに「反抗は社会資源である」というメッセージ付色紙が置かれていたのがとてもアツかった。
⑧山口周『知的戦闘力を高める 独学の技法』
タイトル通りどう戦略立てて独学していくかを提示してくれる1冊。
私の好きな本ってある事象に対してAからの側面、Bからの側面…みたいな感じで複数視点(しかも相反する)を提示してくれる本だよな~とつくづく思うのですがまさに本書がそれ。戦略的に独学をすることで「教養を実装していこう」という意見をベースにしつつ、「教養主義に陥ってはならない」という警鐘も同時に鳴らすという極めて高次元な展開にアドレナリンが止まらなかった。
【作品分析】
⑨三宅香帆『娘が母を殺すには?』
「父殺し」は有名なのに「母殺し」はなぜ描かれないのか?
なぜ母娘は仲がいいことを良しとされるのか?
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』『30日 de 源氏物語』など2024年大活躍の三宅香帆さん。どの本も違う視点・切り口で面白いのだが個人的には本書の発想が1番面白かった。
小説・マンガ・ドラマなど幅広い文学作品を通じて母娘がどう描かれてきたか?現実ではどのような母娘問題が取り上げられているか?をダイナミックに展開。今まで意識してこなかった問題なのに読めば読むほどのめり込んでいった。
パンデミックや震災があると何かと「絆」や「愛」のすばらしさ、特に家族の尊さにメディアはフォーカスしがちであるが家族をディストピアとして捉えている人や固定観念の押し付けにうんざりしている人も多いのでは?適切な距離感、健全な関係性を再考するという点で「母娘」だけでなく幅広い人間関係に応用できる素晴らしい1冊。
⑩野木亜紀子『MIU404 シナリオブック』
2020年にTBSで放送されたドラマ『MIU404』のシナリオブック。
ドラマのセリフを改めて文章で追うのも楽しいのだが、とにかく掲載インタビューが豪華。
・得田真裕(音楽)×野木亜紀子(脚本家)の対談
・野木亜紀子(脚本家)×塚原あゆ子(演出)×新井順子(プロデューサー)の鼎談
・野木亜紀子によるあとがき
色々な人がハイレベルなものを持ち寄って誠実に作品を作り上げてくれたんだなということがすごく伝わってきて胸が熱くなった。これを読んで以来、シナリオブックも集めるようになった思い出の一冊。
【あとがき】
私は小学生の頃から本が好きだった。
人生の途中でまったく読まない(読めない)時期もあったが、何度も自分のなかで読書ブームを迎える、今ではすっかり読書が習慣化した(歯を磨かないと気になってしまうように、本を読まないと落ち着かない)。
生まれてから四半世紀過ぎたということで改めて自分の読書を振り返るとともに自分にとっての10冊をまとめた。
残念ながら1日1冊ペースで読んでた小学校時代、スローペースで読んでた中高生時代の読書数は記録しておらず、自分でも覚えていない。
「25年生きた!」といっても正確には浪人時代(19歳)から26歳になった日までに読んだ本のまとめになる。でも、読んだ時の感覚や感性は、生まれた日からの環境や経験が少なからず影響している。そういった意味ではれっきとした「25年間の総まとめ」であることに胸を張って書きなぐったつもりである。
色々あった25年。
いつでも側には本があった。PCでこのnoteを書いている今も紙の本を欲しているのだ。こんな調子で、これからの25年も絶えず本と向き合っていきたいと切に願う。