コラム「新風」 …蒲鉾って?
フォトグラファーの北山さとです。
「とっておきの京都手帖」、編集・撮影を担当しています。
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
山鉾。
祇園祭のハイライトとして、各山鉾町が今、こぞって準備をしている。
毎日表情を変えていく山鉾。
各山鉾町の町衆は、
「うちとこのが一番や!」と、自信と誇りを持って、
最良の状態、最高の美を追求し、毎日愛でながら山鉾と向き合っている。
それぞれが巡行に向けて、ウォーミングアップといったところだろうか。
さて、ここで私の素朴な疑問。
年に一度、鮮烈な京都の伝統美を見せてくれるのが祇園祭の山鉾ならば、
年がら年中、どこに行ってもスーパーで目にするのは蒲鉾。
現代の日常生活に馴染みの無い「鉾」という漢字が読めるのも、蒲鉾のおかげかもしれない。
「紀文」さんの公式サイトに面白い読み物があった。
練りものの起源
平安時代の古文書『類聚雑要抄(または、るいじゅざつようしょう) 』(室町時代の写本)は、現存する文献では、蒲鉾について最古の書物だそう。
そこには、「蒲鉾」が絵入りで載っているという。
その蒲鉾の作り方は、何やら、古くは竹を芯にしてすり身を塗りつけて焼いたものらしい。
え?それってちくわ?
そうなのだ。
初期の蒲鉾は、今で言う「焼ちくわ」だという。
初期の蒲鉾は、その形が蒲の穂に似ていることから、「蒲の穂」と呼ばれていたとする説があるそうだ(諸説あり)。
蒲鉾の一番古い記載というのは、関白右大臣藤原忠実が永久3年(1115年)7月21日、三条に移転した際の、祝賀料理献立に関するものだそう。
この関白右大臣藤原忠実は、あの 『光る君へ』藤原道長の孫の孫、玄孫(やしゃご)である。
藤原家の栄華を、蒲鉾でも知ろうとは。
ちなみに、この蒲鉾が振る舞われた永久3年(1115年)を記念して、日本かまぼこ協会では11月15日を「かまぼこの日」としている。
しかし、私達が知る蒲鉾はなぜ板に付いているのか。
これでは名称に名残が無くなってしまわないだろうか…。
教えて紀文さん…!
『近世事物考』(1848年刊)に、「後に板に付けたるができてより、まぎらわしきにより元のかまぼこは竹輪と名付けたり」と記載してあるんだそうだ。
後から板付きの蒲鉾が出来たため、紛らわしいので、初期の蒲鉾を「ちくわ」と呼んだと。
なるほど。
これからはスーパーで並ぶ彼らを、私はとても親しみ深く眺めてしまうだろう。
板付き蒲鉾の誕生
しかし、板付き蒲鉾がなぜ誕生したのだろうか、いつから誕生したのだろうか。
まず板付きになった理由は、
蒲鉾に使うすり身は柔らかく、崩れやすいので板の上に乗せられていると。
そして、板が余分な水分を吸収して、保存性と美味しさも保つと。
蒲鉾板は、古くは杉が使われていたが、現在はモミの木が主流だそうだ。
臭い移りがなく、蒲鉾の変色もない材質だという。
たしかに、蒲鉾を板から切り離す時も、蒲鉾を食べる時も、板の臭いが気になった記憶は無い。
蒲鉾の美味しさを生かす陰の立役者は、その板だ。
お正月から、日常的にも親しみある蒲鉾。
その「当たり前の美味しさ」を届けるにも、日進月歩の研究ありてだと、関係者の方々に感謝の念が湧いてくる。
そして、板付きの歴史は500年以上遡る。
板付き蒲鉾は、室町時代の写本『食物服用之巻』(1504年)より、室町時代中期といえるのではないかとある。
また、『摂戦実録大全 巻一』(1752年)には、豊臣秀頼が大阪城への帰途、伏見において梅春という料理人が蒲鉾を作って振るまったという話が載っているという。
その時の作り方にも、「板に付けてあぶる」という文があることから、安土桃山時代末期には板付きであったと考えられている。
蒲鉾は、板付きにはなったと言えど、焼く、炙る、という製法だったのか。
では、今のように蒸されるようになったのは…。
蒸し蒲鉾は江戸期に発展したという。
『守貞謾稿』(1837年)に「江戸にては焼て売ることなく、皆蒸したるのみを売る」とあると。
江戸では蒸し板ばかりとなり、関西方面は焼き板となった。
その後、蒸してから焼く蒲鉾も出現したという。
このように、江戸時代には、関西と関東の違いが出てきたようだ。
ちょうどこの頃なのだろうか。
京都で最古と言われる蒲鉾屋さんが、京都に進出してきた。
「祇園かまぼこ いづ萬」さんだ。
創業は弘化元年(1844)。
「いづもの萬助」さんのお店で「いづ萬」さんだ。
京都高島屋にも出店されている。
本店は祇園の風情がある。
早朝、店で手作りされた蒲鉾がずらりと並ぶ。
「ハモそうめん」に、「東山魚餅」等。
舞妓さんのかんざしをイメージしたという「東山魚餅」は、すり身を蒸さずにそのまま焼き上げているそうだ。
まさに、初期の蒲鉾、原点の味だ。
代々受け継がれてきた商品とともに、創業より、グルメな京都人が好む味を、常に研究されている。
贈答品としても喜ばれることは間違いないが、私は、ショーケースに並んだ蒲鉾が、単品ででも買い求めやすいところが好きだ。
老舗の味が身近な存在なのだ。
山鉾の華麗な姿に魅了されていた私は、
今度は、思い起こす蒲鉾のプリッとした歯応え、噛むごとに鼻から抜ける魚肉感に心と胃袋が傾いた。
お腹が空いてきた。
板に付いたフォトグラファーぶりとなれるよう、その願いも込めて、「いづ萬」さんの蒲鉾を頂くとしよう。
<参考> 「祇園祭山鉾連合会」公式サイト
「株式会社紀文食品」公式サイト
「日本かまぼこ協会公式サイト
「いづ萬」パンフレット
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