190429_汚れつちまつた悲しみに(中原中也誕生日に)_27日目
連休に入ったのをいいことに、旅行などに行かないかわりに、毎食(朝食を除く)を単なる「食事」ではなく、「意味のある行為」にすることに決めました。(おいしいものを食べる、食べたことのないものを食べる、など)
いままで行ったお店はだいたいこんな感じです。備忘もかねて。
改めて見返すと、食道楽ですね。安定の文喫。令和の数日は文喫におこもりする予定です。
今日は、中原中也の誕生日とのこと。
嘉島さんのツイートを見て知りました。以前、NHKの「100分 de 名著」で中原中也が取り上げられたのをきっかけに、ぼくは中原中也をちゃんと知りました。
みなさんは中原中也をご存知ですか?中原中也は詩人として有名です。名前は聞いたことがある、という方も多いのではないでしょうか。
中原中也は、山口県に生まれその生涯を30歳で閉じた夭逝の詩人です。批評家の小林秀雄との親交があった(恋人を取り合った)こともよく知られています。
中原中也の作品のなかで、ぼくは「少年時」という詩が特に好きで、ここに引用します。
黝(あおぐろ)い石に夏の日が照りつけ、
庭の地面が、朱色に睡(ねむ)っていた。
地平の果(はて)に蒸気が立って、
世の亡ぶ、兆(きざし)のようだった。
麦田(むぎた)には風が低く打ち、
おぼろで、灰色だった。
翔(と)びゆく雲の落とす影のように、
田の面(も)を過ぎる、昔の巨人の姿――
夏の日の午過(ひるす)ぎ時刻
誰彼(だれかれ)の午睡(ひるね)するとき、
私は野原を走って行った……
私は希望を唇に噛みつぶして
私はギロギロする目で諦(あきら)めていた……
噫(ああ)、生きていた、私は生きていた!
言葉にできないけれど確かに共感する感情に気づきませんか。話は逸れますが、小袋成彬くんの『Selfish』のこの部分の歌詞に同じ魂を感じます。
過ぎた車の静けさが僕を一人にさせたころ
名前も知らない遠い山に憶えた小さな怒り
もっとも有名なフレーズ。
中原中也の創作した詩においてもっとも有名なものは「汚れつちまつた悲しみに」ではないでしょうか。あの桑田佳祐さんも「声に出して歌いたい日本文学」ということで曲をつけています。
詩の全文はこちらです。
汚れつちまつた悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまつた悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
汚れつちまつた悲しみは
たとへば狐の皮裘(かはごろも)
汚れつちまつた悲しみは
小雪のかかつてちぢこまる
汚れつちまつた悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまつた悲しみは
倦怠のうちに死を夢む
汚れつちまつた悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまつた悲しみに
なすところなく日は暮れる・・・・・
なぜ「汚れつちまつた」なのか。
これは平成も終わりに差し掛かる今日の発音だと「汚れっちまった」です。ぼくはこのフレーズに出会って以来、折に触れて「なんで「汚れっちまった」なんだろう」と考えていました。
2年くらい前のある日、その問いについて考えていたとき、ふと思い出しました。
「そういえば、祖母や親父がおなじような言い回しをしていたような・・・」
当時からノスタルジーに陶酔する気持ちよさを知っていたのか、ぼくは祖母や親父が話題にするものをよく欲しがっていました。そんなとき決まって、「もう捨てっしもうたばい」と言われるのがオチでした。
ぼくは九州の出身です。そして、中原中也は山口の出身です。
方言が似ていても変じゃない・・・!
ウェブ上を検索すると、「東京の方言じゃないか」「中原中也の独特の言い回しじゃないか」などと人々が分析していました。検索する限り、東京の方言説が多数派でした。
やっぱり違うのかなあ。。
教えて!goo。
「つちまつた」、「山口の方言」説ないかなーと思って引き続きネットサーフィンを繰り返していたところ、「教えて!goo」が教えてくれました。
このNo.8 Ishiwaraさんの回答を引用します。
山口県の方言です。
#5さんが挙げた 「汚れちまった悲しみに」の中原中也は、山口で少年時代を過ごしました。
日本陸軍では「ちまった」が横行し、東京方言で「ちゃった」などと言えば、ひどく叱られました。それは、山口出身の幹部が多かったから、と言われています。
NHKの連続テレビ小説(たしか「鳩子の海」?)で、この山口弁がたくさん出てきました
やっぱり!!!!!山口弁かもしれないのか!!!!!
だからどうしたって話だけど、仮説が正しい可能性が出てくるのはうれしい!!!!
そして、少しでも中原中也と同じような血が自分に流れていることがうれしい!!!!(同じ方言的な意味で)
やや自己満足気味な帰結で申し訳ないですが、無理矢理抽象化すると、
①ある仮説を抱いてそれを検証するよろこび
②偉人とルーツをシェアするよろこび
を象徴するエピソードについて書きました。
末筆ながら、中原中也さん、112歳おめでちろう。
よかったら、詩集、読んでみてください。