競売ナンバー49の叫び
恐る恐る、初の「トマス・ピンチョン」に挑戦。ピンチョンの名前は村上春樹さんの書くものの中にしばしば出てきたし(確か、チャンドラーのロング・グッドバイのあとがきとか)ずっと前から気になっていた。春樹さんはピンチョンを評価しなかったように思うけれど、この「競売ナンバー49の叫び」のタイトルは何度もきいていたし、特に気になっていた。
噂通り、かなり難解だった。ほとんど意味がわからなかった…。なので、こないだ読んだカズオ・イシグロの「充たされざる者」も氏の中では問題作と位置づけられるがかわいいもので、逆にピンチョン読みながら、充たされざる者の余韻に浸ってました(とはいえ、そもそも僕は普通にけっこう好きな作品だったんだけど)。あぁこんなふうに前後で何を読むかによっても小説の印象はあるいは変わるのかもしれないなぁ。
本題に入ろう(あまり中身がないかもだけど…)。とにかく数学や物理めいた話が頻出するし、歴史や地理についても深く広い。なんでもかんでも知識が盛り込まれているイメージ。神話や宗教も入り込んで、その間にジョークなんかも連発されるけれど、僕としてはそれほどおもしろくはなくて、ただ「猥褻郵便物はPOTSMASTERへ」みたいなくだりが出てきて、POSTをPOTSと誤字ってるわけ。ポッツ・マスター(笑)このポッツってのは大麻(マリファナ)、そのマスターってことで、えらいここはうけた。これがちょいと離れた箇所に2回ほど出てきたからそれもまたうけた。
だがしかし、それぐらいのもんで他にはあんまりジョークやユーモアはわからんかった。あと、登場人物の名前や場所にダブルミーニング、トリプルミーニングってな感じで、これは巻末の(巻末いうても全300ページ中70ページも占めるぞ)「49の手引き」っていう解説(いや、解説にしては謎がより深まる)でわかったことなんだけど、とにかくそんなもののオン・パレード。
「登場人物紹介」ってのが帯にあって、それはよかった。でもあんまり足しになった気はしない。
途中で「先に手引きを全部よんじゃえ~」ということにして寄り道はした。決して、それぞれのページは読みづらいわけではなく、むしろすいすい進んでいくのに、全然話のスジについていけない。感じるしかないのだな。
単行本で、ヒモのしおりがあるのは普通なんだけど、これが2本ある(笑)もちろん、本編と手引きを行ったり来たりするためのものと思われる。普通のしおりを使ったので、それは使わなかったけれど。
YouTubeで(内容はラジオ)これを訳した佐藤良明さん(通称:ピンチョン先生、もしくはサトチョン)がゲスト出演されている回があって、これはおもしろかった。ピンチョンは、今は80歳を超えているけれど、精力的に小説を書き続けているらしい。後期のサリンジャーじゃないけれどほとんど隠れていて(一時期サリンジャー=ピンチョン説も流れたらしい。ちなみにウィキの写真も海軍の時のやつだ。正体不明の伝説の男)近年パパラッチがあったやらで一部メディアを賑わせたらしい。まぁとにかく1作に20年ぐらいかけてしまうこともあるらしく、芸術家の中の芸術家といってまちがいはないのだろう。最新作の「ブリーディング・エッジ」や、ちょっと前の「ヴァインランド」が読みやすいらしい。確かに、9年かけてピンチョン制覇した!みたいな方のブログにも「競売ナンバー」は、比較的短いから入門書とされるが読みやすいわけではないと書いてあったなぁ。
そして、何よりすべて訳して出版してやろうという新潮社の心意気はすばらしい。世界中にピンチョン・ネットワークみたいなものがあって、全世界で全身全霊を込めて作り上げていくらしい。すばらしい。これは感動する。ピンチョンに関する研究書は1,000冊を超えるらしい。
ちくま文庫の方が安かったけれど、Amazonレビューなど見ていると、少し高くても(3,000円もしたぞ)新潮社の佐藤さんの訳で読みたいと思った。まぁとにかくピンチョン全小説のシリーズは高いし、ゆっくりと、図書館で借りられるものなら借りて読む、ぐらいでちびちびまたいつか上記に挙げた2作品あたりを読もうかと思う。にしてもこの競売ナンバーのもそうですが、それぞれ表紙や装丁がめちゃくちゃかっこいいですね…。
とにかく俺は曲がりなりにもピンチョンを体験したんだ。ピンチョンと同時代に生き、俺はピンチョンを体験した。もうすぐ死なはるかもしれないからぜひ今、ピンチョンを味わおう。コロナのことばかり考えないで、たまにはピンチョンのことを考えよう。Think corona, Think Pynchon.
まぁしかし僕はあれですね、サリンジャーとかジャック・ロンドンとかピンチョンとか、そういう方々に惹かれる性質があるのですね。
だって、みんなかっこいいんだもの。
【著書紹介文】
謎が呼ぶ謎、迷宮に変貌する都市。めくるめく探究譚にして世界文学屈指の名作、新訳。
大富豪の死――そのかつての恋人で、いまや若妻のエディパは遺産のゆくえを託される。だが、彼女の前に現れるのは暗号めいた文字列に謎のラッパ・マーク、奇怪な筋書きの古典劇。すべては闇の郵便組織の実在と壮大な陰謀を暗示していた……? 天才作家が驚愕のスピードで連れ去る狂熱の探偵小説、詳細なガイドを付して新訳!
(書影と著書紹介文は https://www.shinchosha.co.jp より拝借いたしました)
※ピンチョン研究書は1,000冊を超える、ではなく100冊を超える、の誤りです。ここにお詫びいたします。
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