高い窓
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【著書紹介文(出版社Webより)】
私立探偵フィリップ・マーロウは資産家の老女に呼び出された。行方をくらませた義理の娘リンダを探してほしいとの依頼だ。極めて貴重な金貨を娘が持ち逃げしたと老女は信じているのだが……。マーロウは調査を始めるが、その行く手に待ち受けていたのは、脅迫と嘘、そして死体。シリーズ中期の傑作。待望の新訳
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レイモンド・チャンドラーによる「私立探偵フィリップ・マーロウ」シリーズの3作目。これは(も)初読。
時系列で読んでいると、少しずつマーロウの言葉がテンポとキレを帯びてくるのがよくわかる。怖気ない姿勢があり、「それに従わないとしたら?」が幾度もある。この話は依頼人(資産家の老女)の秘書がキーになっていると感じた。マーロウの弱者へのかかわりが実にやさしい。
依頼人を守るというが、マーロウも人だ。そして警察ではなく私立探偵だ。それぞれの関係性の中でのマーロウの立ちふるまいをみていると、これはビジネス書といっても過言ではない。
マーロウは僕(誠心)にとって、北極星のような存在だ。
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最後に、僕が好きなところをいくつか転載します。(ページ数はハヤカワ文庫版にて)
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ブリーズは言った。「論点を明確にしてくれ」
私は言った。「君たちが自ら誠意を持たない限り、私の誠意を手に入れることはできない。あらゆる場合、どのような状況であれ、いかなる事情があろうと君たちは信頼できるし、君たちはとことん真実を追究し、それを見出し、いささかも事実を粉飾したりしないと思える日が来るまで、私は自らの良心の声に従うしかない。そして全力を尽くして依頼人を守る。君たちが真実をどこまでも尊重し、またそれに劣らず私の依頼人を尊重してくれると確信できる日が来るまでは。あるいは私が、真実を口にしないわけにはいかない誰かさんの前に引き出されるその日が来るまではね」
「そいつはかなり無理をして良心の折り合いをつけようとしている人間の言いぐさのように、おれの耳には聞こえるが」
「好きにとればいい」と私は言った。(P179~180)
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その家が視界から消えていくのを見ながら、私は不思議な気持ちを抱くことになった。どう言えばいいのだろう。詩をひとつ書き上げ、とても出来の良い詩だったのだが、それをなくしてしまい、思い出そうとしてもまるで思い出せないときのような気持ちだった。(P397~398)