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既に、秒針は止まっていた。 それを確認して凍りついた。 無理もない。大晦日から元旦に…
おはよう、の声を耳元で聴いた。 枕の上にその顔が微笑んでいた。 羽毛布団の中からずる…
さて送付した履歴書の結果がそろそろ出ます。 一次選考結果が今週からぽつぽつ郵送される…
ことりと、腕時計を置いた。 スイスから届けられた時計。 金無垢のケースの中身は、精緻…
残像が折り重なっている。 その席にどれ程の愛着があるのか。 厨房内に立つ僕からすると…
扉の呼び鈴が、乾いた音を立てた。 僕はオーヴンの掃除をしていた手を止めて、膝立ちの体…
剥落の日々を送った。 通夜の案内すらない。 近親者で織りなす旧家の持つ嗅覚で、僕は弾くべき存在であった。 最期の瞬間まで祐華を看取ったとはいえ、法律上では赤の他人であって、親族からすれば腹に一物ある部外者という認識だろう。 彼女の窮乏を知り、そしてその病状を知り、それでも敢えて冷淡で在り続けた。彼らが密葬において、祐華の亡骸に涙したであろうその一滴でも、生前に流したことはあるのか。 銀行口座には再び300万という数字が印字されていた。 弁護士から連絡があり、銀行
その絵は窓辺に掛けてある。 呼び鈴をつけた彫刻のある木製扉、その隣にはステンドガラス…
祐華は自身で立てなくなった。 盛夏の時期で、世間はお盆期間中だった。 その朝、彼女の…
祐華の制作が始まった。 彼女の横顔にぴんと張りがでたように思える。 時間を持て余して…
驟雨に目が覚めるようになった。 機関銃のように、間断なく降り注ぐ水滴が屋根瓦を乱暴に…
祐華は同居を望んではいない。 しかし半ば強引に連れてきた。 僕が10年近く住んだ、この…
祐華の退院の日が迫っていた。 その時期に主治医に呼ばれた。 前回の面会時に相談されて…
この傷を埋めるのに、僕では不足か。 口から零れ落ちた。その瞬間に顔が強張った。ただしそれを軽口で否定はしない。 「何それ、今更、求婚 なの?」 「ああ、そうかもしれない」 その病室には6床あったが、気配があるのは4床でしかない。身じろぎをしている音、席を立って外に歩くスリッパの音。息を凝らしていた影が緊張に耐えかねてか、密やかに身動きを始めた。 求婚するには、確かに相応しくない場所だ。 人間にはそれに聞き入るタイプと、遠慮をするタイプとあるらしい。 「それでお仕舞な