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短編集②

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#小説

黒い煙の少女(小説)

黒い煙の少女(小説)

 ……神様に選ばれた、神様に選ばれた。神様は許さなかった。

 五月近くになり、最初に教室中に広がっていた緊張感はまるで排水溝に吸い込まれる水のように、なくなっていった。段々心の緩みが出てくるというか、そうだ、もう少しでゴールデンウィークだ。長い連休をどうすごそうか、新しくできた友達同士で語り合っている。私だってその一人だ、学校近くのショッピングモールで遊びに行こうとか、放課後は何を食べるとか、な

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ウィスとドブのゴキブリたち(小説)

 私はこんなに素晴らしいのに、どうしてあなたは顔を背けるの?

 初めまして、こんにちは。
私は天使の、ルシオと言います。仕事はそうですね、神様からサンプリングされた人間の一生を描く、小説家というものでしょうか。ふふ、そんな存在が目の前に現れて驚きましたか? そうですね、普段ならこんな月夜の晩、人間の住む家の窓になんて現れません。これでもそこそこは忙しいので、あまりそうするのこともできません。おお

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彼の歌と一千万の紙吹雪(小説)

彼の歌と一千万の紙吹雪(小説)

すごい光景を見てみたいな……と思っていた。すごい光景ってどんなのと言われたら困ってしまうけれど、すごい光景を見たいなと思った。

「あ……お金を入れにいかなきゃ」
 一人つぶやいて、銀行に向かう。今日は一般的に給料日と言われる日だからだろう。銀行には長蛇の列が出来ている。顔は皆どこかしら真剣味が見え隠れしている気がする。今日の給料でいろいろと支払わなければという思いがあるからだろう。私はイヤホン

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「掌編」願いを叶える子「小説」

「掌編」願いを叶える子「小説」

 私には分からなかったのです。

「××ちゃん、そっちのやり方より、こっちの方がいいよ」
 私はとても不器用な人間でした。靴紐も結べない子供でした。算数が苦手でした。スキー教室で山を滑ることすら、怖くてたまりませんでした。だけど、皆は優しくて、そんな私にアドバイスをくれたのです。
「そうやったら、危なくなっちゃうから……教えてあげるね」
 私はその行為に常に感謝しました。私は駄目な子だからでしょう

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「小説」代替品のセックスで「描写注意」

「小説」代替品のセックスで「描写注意」

大人向けの描写があります。

 良い子になりたいと思った。
本当にそう思っていたのです、お父さん。

 荒い息が聞こえる。耳元でだ。まるで聴覚からでも犯したいというものを感じる。私の股を割入って、打ち付けているのは男だ。まるで救いを求めるように私にしがみついている。挿入された熱い男のそれは、私の中をぐちゃぐちゃのどろどろにしていく。最初に挿れた時は確かに押し入れたような気がしたのだ。だけど何度も何

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夫が豚になった(小説)

夫が豚になった(小説)

 それは夜に雨が降った日だった。朝が来ると晴れていた。夜露が朝日できらきらと光り、ベランダに置いている植物は、その雫を私に献上するように、葉をぴんと伸ばしていた。
 お味噌汁も作った、ご飯粒はきちんと立っていた。目玉焼きは黄色い部分は固かった。
自分でも珍しいと思うくらいに、ちゃんとしている日だった。
 普段は朝日の光を感じたい私は、早めに御飯を食べる。夫は仕事が遅い出勤なので、起き出すまでほっと

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幻想メニュー取材録①(小説)

幻想メニュー取材録①(小説)

淡雪のクリームと七色のラスク

 私はライターだった。グルメ雑誌「ラリック」で記事を掲載している。
担当は「幻想メニュー」の探訪記だ。この世には、魔法や幻想を使ったメニューが存在している。星屑を散らしたフルーツグラタンや、食べた瞬間、花火の記憶を思い返せるスターマインクッキー。人魚の泪から作られたゼリーは甘く、切ない気分にさせる。
 
 今日、私はとある県の山の麓に向かっていた、雪が降り積もり、日

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君との「今」を切り取る(小説)

 あと一週間で桜は東京に行く。季節は冬が終わり、春がはじまったばかり。服の隙間から入る風が、心なしか温かく感じる頃だ。
 先々週まで僕と桜が高校三年生だった。
四月になれば僕は地元の地方大学に通い、桜は東京の専門学校に進むことになった。彼女はそこで美容師の資格をとるらしい。

「あー」

 そう僕が言うと、桜は読んでいた文庫本を閉じて。
「どうしたの、そんなに気が抜けて……」といぶかしげに

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記憶とメイドと写真

記憶とメイドと写真

 メイドのマリアは古風な木造屋敷でバラの剪定をしていた。
その表情は、苦虫をかみ切ったように歪んでいる。
それを見て主人であり、恋人であるヨハネスは困ったように微笑んだ。
「マリア、その顔じゃ写真映えしないよ……」
「別に写真なんて映えなくて結構です。全く何を考えているのですか、ヨハネス様」
「いやいや、マリアは可愛いよ。美人だと思うんだけど」
「へぇ」
「そんな憎々しげに言われてしまうと、こっち

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梅の香りに包まれて(BL掌編)

梅の香りに包まれて(BL掌編)

 二人の家の玄関脇にはボトルがある。
その中身は春秋(はるあき)の同居人である頼政が漬けた梅酒だ。
春秋と住むようになったばかりの頃に、急に思いたったように作り始めた。
 大事に、まるで守り通すように作られた酒を試飲させてもらうと、フルーティさの中に水のような透き通った味がした。
「もう、これ飲めるぞ」
「いやいや、まだだよ」
 ひっそりと頼政は笑う。その白い首筋はかみつきたくなるほどに綺麗だった

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化け猫と博正

化け猫と博正

 夏の終わり、猫は人の祭りを楽しめないのか。

 蝉が鳴る中でお囃子の声が聞こえてきた、私は真昼から締め切った障子戸を開けた。調子のいい笛の音と、太鼓の響き、子供達は一生懸命に御輿を担いでいる。
 あぁ、今日は祭りだったのか。ぼんやりとした頭で、囃しの音が耳に染み込んでいく。
 そういえば一ヶ月前から御輿の準備がはじまったり、神社前が騒がしくなっていたり、老若男女の騒がしい声が聞こえてくること

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先輩を殺します

先輩を殺します

――先輩、僕が殺しますよ。今度こそ。

 その先輩は突飛な先輩だった。夏のさかりの、汗が吹き出す暑さなのに、冬
服のセーラーを着ている。そして何故か腕を伸ばしてぴょんぴょん跳ね続けて
いる。林間学校のことだった。学年を問わずに集まり、山の中で活動するのだ
が、その中でも先輩はいつでもセーラー服を脱がない、変な人だった。
 なんでそんなに跳ねているのだろう……僕は思わず声をかけてしまった。
すると先

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蜂蜜選びと恋

蜂蜜選びと恋

 恋は蜂蜜のようにうまく選べない。

 蜂蜜フェアに行く朝、私ははれぼったい瞼を冷やしていた。冷水に漬けたタオルを当て、ぼんやりと夜明けの空を見る。そんな時、ため息をつきそうな自分をこらえながらーーあぁ、何故にこんな恋をしているのかと思うのだ。

 私のつきあっている人はネガティブな人だった。普通にしゃべっていると気づかないけど、いつも卑屈に物事を見てしまうのだ。
「あの人より出来ないのに

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草刈り

草刈り

 草刈りをすることになった。お爺ちゃんの家の庭の草刈りだ。
 家族は来なく、僕独りで草刈りをすることになった。
家族は独りで大丈夫と聞いたけど、僕は「大丈夫だよ」と勢いよく頷いて、草刈りをする鎌を持って、おじいちゃん家に向かった。

 草は高く伸びていた。草の濃厚な匂いが肺の中に満ちる。命の強い匂いがする。
 そう、草を刈る度に、悲鳴と血の匂いが強く放たれる……。

 僕は……怖かったこと

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