#小説
棘ある薔薇と、絵を描かない画家の話
「あたしの絵を描いて」
――彼女がそう言った時、僕は、まるで星の王子さまみたいだな、と思った。
机の上に広げていた、数学のノートを閉じる。
「……悪いけど、そこまでうまくないんだよ。」
少しだけ間を置いてから、僕は彼女にそう言い聞かせた。
星の王子様に、絵心がないんだといった、飛行機乗りみたいに。
「でも、いつも一杯描いてるじゃない。いいでしょ。一枚ぐらい。」
傲慢に笑う彼
理想の家に君はいない
梅雨に入りたての、夕暮れだった。
雨が降っているのを、保健室の窓からそっと眺めていた。
コンロで沸かしたヤカンが、沸騰したのを知らせる、甲高い音を立てたのにきづいて、火を止める。
ガラスでできたコーヒーサーバーに、お湯を注いでおく。器を温めておくだけで、味がだいぶん違うものだ。余計な苦みが少なくなる。少し温めてから、お湯を捨てて、ドリッパーと、コーヒーフィルターをセットしてから、コー
女の子と男の子とお兄さん
むかしむかし、女の子がいました。
しゃべるのが下手な、女の子でした。
そうして、本が好きでした。
女の子は、とにかく本が好きでした。本の中の人たちが好きでした。本の中の人たちは皆かっこよくて、暴れん坊のクラスの男の子たちとは違って気が利いているし、親切だし、心が強くて、悪いことをしていても、いいことをしていても、とにかく自分なりの筋を、ぴいんととおしていましたし、色んなことを知ってい