「現場監督エッセイ」現場監督の立場から②
学習院大学山岳部 平成4年卒 原田昌幸
体力維持のため日々のトレーニングは続けていたものの、アルパインクライミングに類することは久しく行っていません。 リハビリと称し、借り物のアイゼンとピッケルで学生の合宿に同行し岳沢に入山したのが5月初め。 自前のプラスチックブーツが経年劣化で崩壊し、二日で下山することとなりましたが、十数年ぶりの2000mです。 遠征計画が遂行されるとした場合、この時点で残された時間は3ヶ月。
振り返ってみると、遠征中の登山活動も通じて精神的、肉体的にもっとも苦しかったのは、高度順化訓練でおこなった吉田口馬返しからの富士山頂上アタックでした。 ブランクを考えず自分の能力を過信していたこともあったのでしょう、思わぬ高度障害と疲労に先行きの不安を覚えることとなります。 こうした不安要素は、その後、想定数以上の富士登山を繰り返すことで払拭されるに至りましたが、腰痛への懸念だけはアタックを成功させ無事下山するまで残りました。
”学生自身の登山”であるために、それが望ましいのであればと”名前と身体を貸す”というスタンスで遠征隊に加わりました。 学生隊長に監督隊員の端から見ると首をかしげざるを得ない歪な隊の構成は、こうしたコンセプトに基づいて捻り出されたものです。 その意味では、上手く「何もしない」ことが出来たのではないかと自認しています。 この遠征は最後まで大学山岳部の登山であり続けました。
他方、送り出す側から期待された監督としての役割は、国内での準備段階に遡っても全くこなすことができていませんでした。 立場として不適であることはレッドメイン峰遠征の頃から変わっておらず、 今後また、そのような機会が訪れるとは思えませんが、やはり長なるものからは距離をおくべきであると再認識した次第です。
正直なところ、個人的な山登りとしては特別に達成感のある遠征ではありませんでした。 心持ちとして楽しんで良い状況に置かれていなかったのはもちろんのこと、計画当初から絡むこともなく、言ってみれば出来合いのツアー登山に参加したようなものなのですから当然です。 やはり、どんな登山でも自分で計画しなければ面白くありません。 さすれば、学生達は充実した登山を堪能できたのではないだろうかと思うのですが、果たして・・・。
さて、報告書には彼らのどのような思いが綴られているのでしょう?
「「現場監督エッセイ」現場監督の立場から①」から
「学習院山岳部と京都大学学士山岳会(AACK)とのつながり①」へ
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