2021.07.10 温風至(あつかぜいたる)
ここ最近すっかりご無沙汰になってしまった「七十二候」に合わせて、季節の移り変わりに感じたことを綴っていたこのマガジンを復活させようと思う。
思えば、このマガジンを始めたきっかけは二度目のの緊急事態宣言が明けてお茶のお稽古が再開したことだった。
あれから三度目のの緊急事態宣言を経て、明後日から四度目の緊急事態宣言が発令されるらしい。そして、それでもオリンピックとパラリンピックは開催するとのこと。
もはやなにが「緊急」な「事態」なのかいよいよ分からなくなってきたわけだけれども、ついにお茶のお稽古はお休みをせずに細々と続いていくことになった。
お茶を点てるお茶室は、毎月装いを変える。冬だったらお湯を沸かすために炭で火を起こし、夏は風炉釜を使う。七夕が近くなれば梶の葉を水指の蓋に用いて涼を楽しみ、お月見が近くなれば外に持ち運べる茶箱に茶道具を入れて野点を楽しむ。
だから、ひと月あけてしまうとその年のうちに経験できないお点前、というものが出てきてしまう。
もちろんこんなご時世だから同じ茶碗で濃茶を飲んでいく「回し飲み」どころか同じ門下の方と一緒にお稽古をすることもできず、ここ一年半くらいはずっとマンツーマンの個人レッスンが続いている。
それでも、週に一度ただ一服のお茶を点てるためだけに全神経を研ぎ澄ます時間は、わたしの心を元気に保つ秘訣になっていると思う。(まぁ正確には、一回のお稽古で復習も兼ねて三服くらいは点てているんだけれども)
毎月使うお道具や点て方はもちろん違う。でも、基本の流れというものはあるわけで。
・「茶筅(シャカシャカするやつ)を出したら茶碗を手前に引くんだろうな」
・「建水(汚くなった水を入れるもの)の下にある帛紗(いろんな動作をするたびに出てくる赤っぽい布)を手に取るときは左手をちょっと引いた方が綺麗かな」
なんてことを頭の中で考えながら流れるようにお点前が進んだときは、心の中でガッツポーズ。そして、ただ夢中になってお茶を点てているとある瞬間考えるよりも先に身体が動く。
そんなとき、胸の真ん中にスッと新鮮な空気が入るような、なんだかスッキリとした気持ちになる。そして、このスッキリがかなり病みつきになる感覚なのだ。
梅雨の合間の青空がとっても綺麗で思わずパシャリとカメラを向けたくなる今日も、お茶のお稽古に行ってきた。
熱海や関西で大きな被害をもたらすような大雨が続いた一週間が嘘かのような、綺麗な綺麗な青い空。あと少しで、関東も梅雨明けらしい。
駅を出てシャッターを切っているそのときも、ムワッと熱を帯びた温風がふいていて。あぁ、夏がもうすぐ傍までやってきているんだな、ということをマジマジと感じさせられる。
さて薄茶を点てよう、とお菓子に目をやると、涼しげな琥珀糖が目に入った。
かわいい……
思わず呟くと、先生が「今日は本当に涼が恋しいものね。目で楽しみなさい」と桃・水・黄と3色も菓子器に乗せてくれた。
それならば、お茶碗もギヤマン(ガラス)の涼しげなものにしよう。先生がさっき見せてくれた梶の葉を水指に載せたらもうすっかり涼しくなれる。
次々と「今日やりたいこと」が浮かんでくる。4月は炉のお点前で、5月は宣言でお休みで、6月は茶箱のお稽古をしたから、風炉でお茶を点てるのはざっと去年の10月以来の9ヶ月ぶり。
最初は思うように身体が動かなくて歯痒かったけれど、ちょっとずつ考えるよりも先に身体が動く瞬間が出てきて、気付いたら2時間半もお稽古をしていた。
そんな7月最初のお稽古。涼を先取りして、もうあとは梅雨明けを待つのみ。