act:19-昭和の大多喜オレのそば。そば新 くらや 天そば自販機にカップそば
なにを隠そうオレは蕎麦が好きだ、大好きだ。
今日はそんなオレが、この大多喜町の旨い蕎麦についてお伝えしたいと思う。何より今年1977年、昭和52年の、この大多喜町の最新グルメ情報だ!都会から勝浦や御宿に海水浴に行く際には、ぜひ寄ってみてほしい。
ラーメンやうどん、そうめんもいいけど、麺の中でどれか一つだけ選べと言われたら、断然オレは日本蕎麦、やはり蕎麦しかない!
蕎麦はいいぞぉ~!蕎麦は日本の悠久の歴史が生みだした、食べ物の最高傑作なんじゃないだろうか。盛りそば、かけそば、タヌキそばに天ぷらそば、思い出しただけでヨダレが止まらなくなる、どれも最高だ!
そんなオレにはありがたいことに、この大多喜の町ナカには旨い蕎麦屋が二軒もあるんだ。ひとつは久保地区の「くらや」(※1)。ここの汁は甘みが深く、蕎麦も柔らかくって、ホンワカ優しい一杯を出す名店なんだ。
だがしかしオレはもう一軒の蕎麦屋、桜台地区の「そば新」(※2)が大のお気に入り。
そば新の蕎麦はいい、蕎麦がしっかりとしててコシがあるんだ。そして特筆ものはあの汁だ、あれは間違いなく芸術品だな!キリッとした辛みに奥深いコクもある!いつも感心するんだけど、どうやったらあんな旨い汁が作れるんだろう、何か魔法植物でも入れてるんじゃないだろうか?それぐらい虜になる味なんだ。オレは、そば新の蕎麦汁だけでご飯三杯は喰えるだろう。
なによりここの蕎麦は、汁もひっくるめて、まるで生きているようにキラキラとして見えるんだよなぁ。勝浦で上がったばかりのカツオの刺身を食べるときのような、そんな新鮮さがあって大好きなんだ。
うちで蕎麦の出前を頼むときは、オレならもちろんいつでも「そば新」一択なんだけど、現実はそううまくはいかない。父さん母さんのご近所付き合いもあるので、「くらや」と「そば新」を交互に頼むことになるんだ。なにより母さんと弟のクニオは「くらや」派、敵は身近にいたのだ。
それでもオレはそば新の蕎麦を食べたい、食べたくって食べたくって仕方がない!あの中毒になる蕎麦汁が何とも愛おしい‥。
ある日そんな想いが爆発するほど募って一念発起!オレはお小遣いを握って、一人でそば新の暖簾をくぐったのだった。いつも家族で来るのが当たり前のお店にオレ一人で突撃だ。我ながら勇気がいることだけど、そんな勇気を奮い立たせてくれるのは、あのそば新の旨い蕎麦と癖になる蕎麦汁なのだ。
‥ここまでオレを異様に虜にするそば新、やはりここの蕎麦と汁には、何か知ってはいけない薬でもこっそり入っているのかもしれない。
そうしてオレが初めて一人で訪れたとき、そば新のオバチャンは最初は随分驚いたみたいだったが、それでもいつもと同じに、あの最高の盛りそばを出してくれた。
まぁ初めは、小学生のオレが一人でお店に来たので何ごとかと思ったようだけど、オバチャンに「ここの蕎麦が旨いので、どうしても食べたくなって一人で来た」と説明したらかえって喜んでくれた。
以来オレは何度かそうして一人でそば新を訪れるようになったのだ。
旨い蕎麦屋で一人で盛りそばを手繰るオレ、
‥フフフどうだオレってオトナだろう、シブいだろう(ニヤリ)。
大多喜の蕎麦、お次は自動販売機の天ぷらそば(※3)を紹介したい。これもオレのお気に入りなんだ。
天ぷらそば自販機は三口橋の向こう、柳原地区に入ってすぐの豆腐屋前の広場にある。そう、去年ハンバーガー自販機を発見した自動販売機だけのオートパーラーと呼ばれるスポットだ(※4)。
この自販機はすごい!何がすごいって、一台の機械で天ぷらそばだけでなく、天ぷらうどんまで出せるのだ!オレはいつもその高機能ぶりに感心しながら150円を入れ、天ぷらそばのボタンを押すのだ。
すかさず出来上がるまでの秒数がニキシー管に表示され、間髪入れずに自販機の中で調理が始まる。ブーーン!ゴーーー!と激しい音がして、途中でジャバジャバジャバッ!と水をまき散らす音までするんだ。かなり激しい音がするんで、そのうち爆発でもするんじゃないかと怖くなる時があるけれど、、きっとこの中には小型の調理ロボットがいて、あくせくと天ぷらそばを作っているのかもしれないぞ。でもまぁオレがこの自販機の仕組みをどんなに予想しようとも、全ては独りよがりな想像でしかない、時間の無駄でナンセンスこの上ないけど、まぁ天ぷらそばが出来上がるまでの、ちょうどよい時間潰しにはなる。そして30秒ほど経つと「チーン!」と澄んだ音が辺りに響きわたり、待ちに待ったアツアツの天ぷらそばが、クリーム色のプラスチックのどんぶりに盛られて出てくるんだ。
この自販機の天ぷらそばは、そば新の蕎麦とはだいぶ趣が違って駄菓子っぽいというか安っぽいというか、‥でも、チープだけど癖になる味なんだ。そして早いし安いし手間いらず、それ以上に、こういうところでシブい顔して天ぷらそばを食べるってのがちょっとカッコいい気がするんだ。
そういや都会では、立ち食いそば屋というものがあるらしいが、きっとこんな感じなんだろうな。立ち食いそば屋では、トラック野郎の一番星桃次郎や寅さんのような犯罪者みたいなオッチャンたちだけでなく(※5)、太陽にほえろ!や特捜最前線の刑事さんたちも、皆が皆そろって立ち食いそば屋でシブい顔して蕎麦を食べていたのを記憶している。
わかるなみんな、オレも「そんな一人」ということなのだよフフフ、フフフフフ、
言わせるなはずかしい。
そして大多喜の蕎麦、最後はカップそばだ。「え?そんなのどこでも買えるぞ食べれるぞ!」という声が聞こえてきそうだが、いいかよく聞け黙るんだ!オレが大多喜で食べる蕎麦は全て「大多喜の蕎麦」だ!‥異論は認めよう、だが反論は許さない!
そんなわけで大多喜の蕎麦、最後はカップそばなのだ。これもオレが大好きな蕎麦のひとつなんだ。これは去年、つまり昭和51年ぐらいからTVコマーシャルで見かけるようになって、程なくして駅前のディスカウントショップのポピンズや、スーパーデンベーにも並ぶようになった。
その商品名は「どん兵衛天ぷらそば」という(※6)。
いままでお湯を入れるだけで出来るカップの即席麺というと、うどんやラーメンが精々で、そんな中でカップそばはひときわ新鮮だった、そしてもちろんオレはハマった。
それまで三口橋の天ぷらそば自販機で食べてたあのチープな味にも通じるものが、このカップそばにはあったんだ。オレが惚れないわけがない。
味は当然そば新の足元にも及ばないし、天ぷらそば自販機に比べてもさらに安っぽく駄菓子っぽい。もっというと毒でも混入されてるんじゃないかといった、やたら濃くて粉っぽさが際立つ汁の味なんだけど、でもこれがとっても癖になるんだ。なにより安い!ポピンズやデンベーなら100円以下で売っているので、ヘタなスナック菓子を買うよりずっとお得だ。お菓子より断然お腹にたまるし、蕎麦だから健康に良さげな感じすらするぞ!
そんなカップそばの作り方は簡単だ。カッチカチの蕎麦の上に、袋に入った顆粒スープをぶっかけて熱湯を注いだら出来上がりだ。味のないクッキーみたいな天ぷらも、3分経ったら汁を吸って良い感じにフニャフニャになる。これがまた旨いんだよなぁ~。
オレはこの「どん兵衛天ぷらそば」をちょいちょい買い込んできては、家でよく一人で喰ってる。もちろんこれは誰にもやらん、クニオにだってやらない。ケチといわれたってやるわけがない当たり前だろう!どん兵衛天ぷらそばは、オレ一人のご馳走なのだ。
ただ、どん兵衛天ぷらそばを食べるようになってからは、天ぷらそば自販機には全く行かなくなり、そば新に一人で行くことも減ったなぁ‥。
まぁここまで、オレの蕎麦への並々ならぬ熱い思いと共に、大多喜の蕎麦を紹介させてもらった。
カップそばの「どん兵衛天ぷらそば」はともかく、そば新、くらや、そして天ぷらそば自販機まで大多喜にはあるんだぞ、どうだちょっと羨ましいだろう!
みんなも大多喜に来ることがあったら、ぜひ寄ってみてほしい。
1977年(昭和52年)、
あの頃から大の蕎麦好きだった小学5年生の私の想い出である。
【注意】登場人物名及び組織・団体名称などは全てフィクションであり画像は全てイメージです…というご理解でお願いします。
大多喜町MAP 昭和50年代(1970年代)