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神へ捧げるソネット

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仏文学に憧れた昭和の文学青年の詩です。 詩を書くこととは宇宙との対峙であること。 直向きに言葉を紡いだ渾身の詩群です。
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#仏文学

豊田市美術館へ行ってきました<おとなが楽しい名建築を楽しむ遠足>

豊田市美術館へ行ってきました<おとなが楽しい名建築を楽しむ遠足>

先日、愛知県の豊田市美術館へ行ってきました。トヨタのお膝元のこの街には、豊田スタジアムをはじめ個性的な建物が多く見られます。
同館の建築は、世界でも活躍された谷口吉生氏のものということ。鏡や水を使った反射や、建物内の直線が美しい近代的な美術館です。

現在美術館では、フランスの近代装飾品やインテリアの特別展示がされていて、とても興味深く拝見しました。私も個性的な、居心地の良い家に住みたいなぁと思い

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昭和の文学青年。南信州に生きて仏文学を愛した亡き父が、麻痺の残る手で編んだ最後の詩群を読んで欲しい!

昭和の文学青年。南信州に生きて仏文学を愛した亡き父が、麻痺の残る手で編んだ最後の詩群を読んで欲しい!

七〇歳で亡くなった父は晩年、脳梗塞から認識障害を患い、一時は娘の私の顔も分からないほどでした。目の前の物体が何かは分かっても、言葉が上手く出てこない、左手の麻痺が残る。そんな中で自分の最後の詩集を編もうと、それまでの作品や手紙、資料を拾い集め、切り貼りして本当に手作りの詩集を作りました。

父は高校を卒業後、仏文学を学びたいと大学進学を希望したものの、長男の責務から東京への進学を断念。地元の印刷屋

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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#5

ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#5

佐佐木 政治

神よ 同時に二つの場所で ぼくらの存在は成立しない
無数の空席はあるけれど 同じ時間の中でだれもがひとりぼっちだ
そしていつもたったひとつの場所で ぼくらはかけがえのないものと交わる
孤独が至高の高みに押し上げられ すべての煩悩を焼き払うように

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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#6

佐佐木 政治

世界中がことごとくしぐれている すでに思い残す砦もないほど
あなたの峰々から降りてくる霧が すべての距離を埋め尽くし
ひらきかける灰色の傘の中へと ぼくらを引き寄せる
あなたの灰色に煙る傘の中では ぼくらの腕時計の針が かすかに光るばかりだ

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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#8

ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#8

佐佐木 政治

たった十四行の畝を持つ一枚の畑の上で わたしはしばしば立ち往生する
しかし仕掛けられたあなたの美しいわなには たえず言葉のかげろうが揺らめき
仄見える幻の 色彩や薫煙の筋が 血走っている
わたしの言い尽くせない思いの丈は たえず空の鳥籠となってぶらさがるのだ

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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#9

ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#9

佐佐木 政治

眠りの国への門扉には 何時も印の楔が打込まれたためしがない
「死」と同系の無意識の霧が 素手でぼくらを攫ってゆく
この世で機能するもののあらいざらいを 価値の埒外に放り出して
まこと無防備なベッドが 夜毎あなたが仕掛ける闇の中へ いとも易々と持込まれる

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ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#10

佐佐木 政治

神よ あなたの荒野が 詩の方法を思い出させる
何らなすこともなしに 新しい舞台へとぼくらを過去から掬い上げる
ぼくらの眼前の風景は デジタルな明滅のルフランだ
ぼくらはその都度 あなたの無の舞台の可能性へと 駆りたてられてゆく

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神へ捧げるソネット 抄 #12

神へ捧げるソネット 抄 #12

佐佐木 政治

詩は単に 言葉の組合せであるというよりも
より断絶の空間に 身を焼きつくす炎であった
詩はひとを 希望に誘うというよりも
より孤独をかけのぼる 破滅の深渕であった

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神へ捧げるソネット 抄 #13

神へ捧げるソネット 抄 #13

佐佐木 政治       1989年9月 かおす 63 より

究極の過去で 一冊となる書物は すでに永遠の未来の舌のさきを染めている
まず言語の林の奥から ぼくらはほとんど手ぶらで抜け出てきた
文法はおそらくもっとも 繁茂した森であったろう 蒼穹の炎のように
むしろ虚無の芝生であったろう すがすがしさでいっぱいの

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神へ捧げるソネット 抄 #14

神へ捧げるソネット 抄 #14

佐佐木政治

朝霧の荒野でびしょ濡れになっている 一輪の白百合
そのたおやかな 一本の塔を生むために
あなたの掌は 岩のようにざらざらしている
臨界角をついばむ塔は やがて時間のフィルムの中に朽ちてゆく

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神へ捧げるソネット 抄 #15

神へ捧げるソネット 抄 #15

佐佐木 政治     1989年9月 かおす 63 より 

神よ あなたの高みだけが紫に暮れなずむ眩暉となる
吊るされるものとしての あの荒蓼たる羽ばたき
あなたの高みからだけくる ひかりのシャワー
あなたの高みの中でだけ 燃えている孤独の血の河

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神へ捧げるソネット 抄 #16

神へ捧げるソネット 抄 #16

佐佐木 政治            1989年9月 かおす 63 より

あなたが決して
あの高みにだけいるとは限らない
ひょっとして今宵ぼくの掌の上にある
このオレンジの栄光かもしれない

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神へ捧げるソネット 抄2 #17

神へ捧げるソネット 抄2 #17

佐佐木 政治  1990年3月 かおす64 より

神よ あなたの言葉が いたるところで国境を浮かべる
かけひきでゆれ動く あの小さな渦
しかも哀しみさえにじませながらそれは S字形にたわむ
そこではたえずなぎさが用意され 実存がしぶきとなって舞いあがる

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神へ捧げるソネット 抄2 #18

神へ捧げるソネット 抄2 #18

佐佐木 政治    1990年3月 かおす 64より

あらゆるヴェクトルが 言葉を卒きつれようとして 神よ
あなたの物語りは 尽きることがないだろう
降りこめる雪はぼくらの視野を 永遠の奥へ奥へとつれさる
白紙がかざす眩暉の あの白い祝祭の恍惚のように

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