人はなぜ戦争をするのか①考察編
今回は、私が読んできた本を紹介/考察していくコラム。
その名も「お手軽読書」シリーズの考察編を行っていきたいと思います。
・前回までのおさらい
フロイトとアインシュタインの交換書簡『人はなぜ戦争するのか』。
この書簡は、3つの視点から『戦争について』考察を展開していきます。
それは『権利と権力』、『人の破壊欲動』、そして『戦争に対する嫌悪』について。
前回は、その中のひとつ『権利と権力』の視点について解説しました。
ここまで読んで頂いた中で「この考え方ってまるで……」と思った部分があったと思います。
この部分ですね。
この考え方って社会/共産主義じゃないの?と思った方は多かったのではないでしょうか。
実際、この部分に関してはフロイトも言及しています。
彼は明確な否定こそしていませんが、次のように書いています。
彼らはひとつの可能性として社会/共産主義をサンプルケースに考えていたようです。
ところで社会主義、共産主義ってなんやねん?と思う方もいると思います。
以下、コトバンクから参照。
ザックリ言うと、社会主義は「それぞれの能力で働いた分、お金貰えるよ」
共産主義は「それぞれの能力で働いた分、それぞれが必要な分だけ貰えるよ」みたいな感じ。なんか話のピントが合ってませんね。
フロイト達が注目したのは、おそらく政府主導で分配する強制力が中央集権的な体制を維持した政府/国という点で似ていたからでしょう。
残念ながら社会/共産主義を目指した国家の多くは独裁か、もしくは過剰な権力の集中と大きな暴力、そして格差を生み、最終的に失敗した国が多いことは誰もが知っていることです。
では、
彼らのいう中央集権的な共同体は、どのようにすれば作れるのでしょう?
この問いについて、私は2つのアニメから考えていこうと思います。
ズバリ、、、
ひとつ目は、機動戦士ガンダム。
そして、PSYCHO-PASSです。
何を言っているんだ、と思われるかもしません。
マジです。
どちらもアニメのため、馴染みがない方もいらっしゃると思います。
ざっくり説明しますと
1.中央集権的な政府を作り、軍事力をひとつにまとめる(ガンダム)
2.国民を管理、洗脳した上で完全な鎖国状態にする(PSYCHO-PASS)
このふたつは、どちらもフロイト達の望む中央集権的な政府のみが権力を行使出来る体制に該当する設定です。
1.中央集権的な政府を作り、軍事力をひとつにまとめるか
この体制に合致するものが、『機動戦士 ガンダム』の設定に出てくる「地球連邦政府」です。(「地球連邦軍」と呼称することもあります。)
ガンダムは、戦争を扱ったアニメです。
その設定の中に「地球連邦政府」というものがあります。
増え過ぎた人口や資源の枯渇、環境汚染などの深刻な危機に対して、地球の外に「コロニー」という居住区を作り、移住させることで地球全体の諸問題を解決するという試みがありました。
国単位では解決できない程の深刻な問題を前に各国は、国家や人種、宗教の壁を越えた政府「地球連邦政府」を置き、この計画を進めました。
劇中の戦争は、コロニーへ流れた移民の一部が開拓して発展させた土地を自分たちの国として認めさせるための独立戦争でした。
自治権を求めた移民たちは、開拓民たちの思想ージオニズムーのもとに「ジオン」と名乗り、主人公が属する「地球連邦政府」と戦います。
※米大陸への移民政策と独立戦争、第二次世界大戦を彷彿とさせる思想による扇動、差別主義と破壊などがモチーフかもしれません。
本作を見てみると戦う勢力が2種類しかいないことに気が付きます。
それは「地球連邦政府(軍)」か、「ジオン軍」か。
考えてみれば当たり前ですが、地球連邦政府は地球全体が国家のため、軍隊も自ずとひとつになっていきます。
地球連邦軍のみが兵器を所持すれば、仮に紛争が起きても早期鎮圧の可能性は高そうですね。
この状態であれば、ジオン軍のような成り立ちでもなければ、内紛はあっても大規模な戦争は起こりにくいかもしれません。
その後、『機動戦士 ガンダム』はシリーズ化され、それぞれ時代の葛藤が描かれていくわけですが、残念ながら「地球連邦政府」は組織として腐敗していく描写が強調されていきます。
結局、戦後に勃興した社会/共産主義を目指した国家同様、一部の権力層が力を持ち続ける体制は傲慢と腐敗が進み、機能不全を起こすことを示唆しているのかもしれません。
(作中では、こうした地球主義者を指して「重力に魂を縛られている人々」というセリフが出てきます。
2.国民を管理、洗脳した上で完全な鎖国状態にする
前述した地球規模の統治機構に対して、こちらの案は国単位の規模に制限した考え方です。「社会主義国家なのでは?」と思うかもしれません。
まずはアニメの設定を紹介します。
『PSYCHO-PASS』は、深夜帯に放送されたアニメです。シリーズ化されていますが、今回は第1シーズンのみで考察していきます。
主人公たちが住む日本。
この世界では資本主義経済が歪み、世界経済が崩壊、貧富の格差拡大が原因で道徳、倫理の破壊が世界的に起こり、犯罪と紛争によって政府と国家が失われた時代。
日本はメタンハイドレート開発によるエネルギー自給の成功と遺伝子強化された食品原料による安定した食糧の自給に注力、自立した国家を目指しました。
一方で、外国からの侵略を防ぐために国境や周辺海域に武装ドローンを配置、完全な鎖国状態へシフトした、という設定です。
この設定における『日本』の中で、主人公は犯罪者を取り締まる(もしくは未然に防ぐ)警察官という設定です。
※本作では、この「未然に防ぐ」という部分が重要になっていきます。
国はシビュラシステムと呼ばれる大量のスーパーコンピューターの並列分散処理システムによって統治され、そのなかで人々は生活を送っています。
職業はシビュラシステムによって、候補をいくつか挙げられ、その中から選ぶ仕組みになっており、政治家や官僚も適正検査によって生まれます。
ここまでの内容で疑問を持った方もいるのではないでしょうか。
なぜ、国民はシビュラシステムの統治を不満に思わないのか。
この部分について、長い解説がWikiに記載されていますが、ザックリ言うとシビュラシステムが教育分野にも手を伸ばしており、また国の経済が傾いているわけでもないことが原因ではないかと思います。
というのも疑問に思っている人が主人公や重要人物以外に出てこないからです。これは幼少期からの「洗脳」と経済の長期的な安定がもたらしたシステムへの「信頼」によるものでしょう。
教育は、時として洗脳に移り変わります。
さて、ここで要約編で解説した言葉を思い出してください。
シビュラシステムの行っている「洗脳」と「信頼」は、フロイトが唱える共同体の成立――つまり、鎖国国家『日本』の成立のための「共感と連帯感のある理念」を作っていると言えます。
この国家では前述した「地球連邦政府」と同じように武器を所持している登場人物はほとんどいません。
極端に言えば、劇中で武器を持っているのは警察官のみだったはずです。
武器を持たない人間に対して、限られた武力を行使する。
これは抑止力になります。こうした部分も良く作られた設定だと思います。
作中では、次第にシビュラシステムの存在が明らかになっていきます。
『PSYCHO-PASS』とまでは行かなくても、国内の自給率やエネルギー問題が解決でき、他国が侵略してこれないほどの武力を持ち、国民から武器を取り上げ、不満を抱かないよう信頼された国内経済を維持する国家が出来れば、国内単位での争いは限りなく少なくなるかもしれません。
しかし現実性があるか、と言われると疑問が残ります。
まず経済が安定することはありません。
エネルギー問題や自給率は絶えず枯渇の危険性や環境問題を孕んでいます。
それら、すべてを国内で賄えるとも思えません。
また作中では、世界のほとんどが紛争地域という設定です。
現実的に考えるなら難しい設定でしょう。
なにより、繁栄した国家ほど魅力的な資源はない、と私は思います。
我々、人類が経験した戦争の多くは資源を求めた戦いでした。
ここでいう資源とは労働力や技術も含みます。
そう考えた場合、『PSYCHO-PASS』のような国家体制は、一国だけであれば、逆にリスクを抱えるように思います。
さて、今回はふたつの視点から『権利と権力』について考察しました。
ふたつの仮定から考えてみましたが、どちらも戦争を止めるだけの方法ではなさそうです。
『権利と権力』という視点だけでは、この問題に対して明確な解決策は出てこないのかもしれません。
フロイト達の対話は、以降も続きます。
権力という枠組みから、今度は人の攻撃衝動について展開されていきます。
次回、『人の破壊欲動』要約編を解説させて頂きます。
読んで頂き有難うございました。
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