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まいにち易経_1128【形而上と形而下の交差点】形よりして上なるもの、これを道と謂い、形よりして下なるもの、これを器と謂う。[繋辞上伝:第十二章]
是故形而上者。謂之道。形而下者。謂之器。
是の故に形而上なる者、これを道と謂い、形而下なる者、これを器と謂う。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
易経は、古代中国から伝わる知恵の宝庫で、人生や社会の変化、そしてその中でどう生きていくべきかを教えてくれるものです。その中に「形而上と形而下」という概念が出てきます。これは、未来のリーダーとして成長していく上で、とても大切な考え方です。
「形而上」と「形而下」は、古代中国の哲学に根ざした重要な概念であり、形而上学の語源となったものです。
形而上は、目に見える形を持つ前の実在や本質を指し、これは易経で言う「一陰一陽」、すなわち陰と陽の調和によって成り立つ宇宙の道理や、万物の変化を象徴しています。
一方、形而下は目に見える現象や具体的な形に表れたものであり、中国哲学では「器」と呼ばれ、道が形となって現れる際の具体的な姿や行動、言葉を指します。器は形而上の内容を受け入れ、それを表現する手段であり、我々は器を通して道を学び、物事の本質に迫ることができるのです。
リーダーとして重要なのは、この形而上の部分をしっかり理解し、そこから形而下の具体的な行動を生み出すことです。たとえば、あなたが新しいプロジェクトをリードする時、その根底には「このプロジェクトを通して何を実現したいのか」というビジョンがありますよね。それが形而上の部分です。それを形にするために、計画を立て、チームを動かし、実際に成果を出す。それが形而下の部分になります。
ここで大事なのは、形而上の部分がしっかりしていないと、形而下に現れるものも中途半端になってしまうということです。例えば、しっかりとしたビジョンや信念がないまま、ただ形だけを追い求めてしまうと、結果として出来上がったものもどこか芯がない、表面的なものになってしまいます。これは、例えば企業のブランディングにもよく見られる現象です。ロゴや広告にばかり力を入れて、中身が伴っていないと、どんなに見栄えが良くてもお客様の心には響かないものです。
話は少し変わりますが、この「形而上」と「形而下」の関係は、私たちが日常的に行うことにも当てはまります。例えば、あるスポーツ選手がオリンピックの金メダルを目指してトレーニングを続けるとしましょう。その選手にとっての「形而上」は「勝利への強い意志」や「競技に対する情熱」ですね。この意志がしっかりしているからこそ、毎日の厳しいトレーニング(形而下)が続けられるんです。そして、最終的にはその意志が形となって、金メダルという具体的な結果に結びつくわけです。
リーダーとして、皆さんに大切にしてほしいのは、この「形而上」の部分を常に意識することです。日々の忙しさに追われていると、どうしても目の前の仕事やタスク(形而下)にばかり気を取られがちです。しかし、その仕事がどのようなビジョンや目的に基づいているのか、つまり「形而上」の部分を忘れてしまうと、目指すべき方向性を見失ってしまいます。
実際に、私が以前経営していた企業でも、形而上を大切にすることで困難な状況を乗り越えたことがあります。リーマンショックの直後、私たちの会社も大きな打撃を受け、経営の見直しが迫られました。その時、私たちは「この会社を通じて何を成し遂げたいのか」という根本的な問いに立ち返りました。これは形而上の部分です。社員たちと共に議論を重ね、その答えを明確にした上で、具体的な対策(形而下)を立てました。その結果、危機を乗り越えるだけでなく、さらに成長することができました。
形而上は、時には見えにくいものかもしれません。しかし、これをしっかりと持ち続けることで、リーダーとしての軸がぶれることなく、どんな困難な状況でも乗り越える力を持つことができるのです。
このように、我々の日常生活における行動や選択は、形而上の道と形而下の器の相互作用によって成り立っています。リーダーとして、形而上のビジョンや価値観を明確に持ち、それを支える器を整え、最終的に具体的な成果を生み出すことが求められます。
形而上のビジョンが強固であれば、そのビジョンを支える器も強力なものとなり、質の高い成果を生み出す力が養われるでしょう。皆さんもこの考え方を心に留め、日々のリーダーシップに活かしてください。
参考出典
形而上と形而下
形而上学の語源である。
ここでいう形而上とは、目に見える形になる以前の実在。それは一陰一陽の道であり、易の精神であり、変化の原理である。
道が目に見える現象として具体的な姿形・言葉・行動で表現されたものが「器」。道はその器に盛りこまれた内容をいう。
我々は器を通して道を学び、物事の本質を知ることができる。
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