『クラヴサン奏法』を読んでみて
フランスのバロック時代の作曲家、フランソワ・クープランFrançois Couperin(1668~1733)が遺した『クラヴサン奏法』というものがある。
これはクープランが思い描く教育、奏法など様々な思いがつづられています。ページ数も少なく興味ある方は読んでみてください。
ここでは個人的に引っかかった部分をピックアップしたいと思います。
1 リズムの取り方
クープラン自身は拍子の取り方についてこう述べています。
しかもこれに対して自身の拍子の取り方に関しては何も言及していません。
頭で1、2、3とカウントするのもダメ、足でカウントをとるのもダメということでしょうか。そうなると彼はいったいどうやって拍子を取っていたのでしょうか。
彼がこのことに言及していないのは、彼自身も拍子の取り方を理解していなかったのか。あるいはただ単に言葉で説明できなかっただけなのか。そこはわからないですが。
演奏家の方は足でリズムを取っている方が多い印象です。
取り方もつま先を上げてカウントする人や、かかとを上げてカウントする人に分かれると思います。
どこかで見ましたが、足で拍子を取る場合はかかとでとる方が良いという情報を聞いたことがあります。それはかかとを上げることによって脚全体が運動するからです。
実際にやってみればわかりますが、つま先を上げるだけだと大体ふくらはぎのまわりまで動いていません。前脛骨筋というらしいですが、そこが動くみたいです(筋肉は詳しくないので間違っているかも)。
しかし、かかとを上げると脚全体が動くのがわかると思います。下半身のほとんどを使っていることになるのでリズムをとる際はかかとの方がいいということらしいです。
クープラン理論でいくとこれはしない方がいいということですので、いったい何を使って拍子を取ればいいのでしょうか。無意識でもその拍子を取れるようにすればいいのでしょうか?
頭、体、足以外で拍子を取れる方法、皆さん知っていますか?
2 装飾音の奏法
装飾音を演奏する際に関しては次のように述べています。
クープランは装飾音を自由なものではなく厳格にその音符の音価と一致しなくてはいけない、と考えていたそうです。
またトリル(Tr)に関しては次のように述べています。
すなわちこの時代ではトリルは最初はゆっくり弾き始めどんどん細かい音符にしていく弾き方であったようです。
音価の長い音符にトリルがついている場合は最初はゆっくりと弾き、音価が終わりに近づくにつれて細かく演奏するべきだと述べています。
そしてトリルを弾く際は当時では主音の全音か半音上から弾き始められていたということです。
ド(C)の音にトリルがついている場合はレの音からスタートするといった感じでしょうか。
現在ではトリルを弾くときは楽譜で前打音が無ければトリルが付いた音から演奏しますよね。こういった時代の違いで演奏方法を全く異なっていたことがわかりますね。とても興味深いです。
また、彼は『クラヴサン曲集 第3巻』(1722)の序文においてこういった愚痴もこぼしています。
これを見るかぎり、クープラン自身は自分が説いたやり方で自分の作品を演奏してほしいという気持ちが強かったみたいですね。装飾音も自分勝手に演奏せず、彼が説いたとおりに演奏すべきだということです。それほどこだわりぬいて作曲したということでしょう。
クープランの作品を演奏する際にはこの著書を一読して損はないと思います。当時の演奏習慣に基づいて解釈することでバロック音楽への理解の一歩を踏み出せるのではないでしょうか。
以前こちらの記事にも書きましたが、当時のフランスでは順次進行の付点リズムは8分音符で記譜されています。
このような時代による演奏の違いを知ることができるのも面白いところです。当時の解釈を学ぶことによって、音楽をより知ることができる。これからも色々なものを読んでいきたいですね。
現在電子書籍化されたようで、安値で買えます。
興味ある方は是非読んでみてください。