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創作の火をたやさないこと。hoka books さんへ。

堀川五条の交差点から、一本東に入り醒ヶ井通りへ。
その通りを少し上がると、ちいさな看板が目に入りました。

看板の向こうには、民家が立ち並ぶ細い路地。
足音が響かないように気をつけながら、目的の場所へと進みます。
町屋を改装したお店の入口は開け放たれていて、入ってすぐの左手に本棚、三和土を上がったところの平台に本が並んでいる様子が見えました。

その日、わたしが訪れたのは、"hoka books"さん。
以前から気になっていたのですが、未だ訪れることができずにいた本屋さんのひとつです。

靴を脱いでスリッパに履き替え、お店の中に入ると、古い建物が醸し出す落ち着いた雰囲気が感じられました。
平台に並べられた本を見ていくと、リトルプレスのものやZINEがたくさん。はじめて目にする作品がほとんどで、うれしくなってしまいます。

気になった本を手に取り、ページをめくるのは、楽しいひととき。
階段脇の棚に、『たやさない』という小さな本が並べられているのが目に留まり、抜き出して奥付けを見ると、発行は"hoka books"となっていて、店主の方が書かれた文章もおさめられています。

店主の嶋田翔伍さんは、"烽火書房"という出版社を
おひとりで営まれている方です。
共同店主である西尾圭悟さんは、"写真と設計uug "を
立ち上げられた方で、この本の装画も手掛けられています。


"素敵な本に、出会えて良かったな"
そう思いながら階段をのぼって二階へと向かいました。
きっと降りる時が怖いだろうと感じるほどの急勾配で、子どもの頃に訪れた親戚の家の階段をふと思い出し、懐かしさを覚えます。

階段をのぼりきると、想像していたよりも明るい空間が待ち受けていて、驚きました。
決して広いとはいえず、なんだか秘密基地のよう、と思ったのですが、窓から入る午後の陽射しが、やわらかく室内全体を満たしています。

向かって右手には、黄色いクッション張りの長椅子があり、そこに腰をかけて部屋の中を見渡しました。
椅子に座らなければ見えない位置の壁には絵が描けられていて、遊び心を感じます。向かい側の平台に本が並ぶ光景を眺めていると、至福、ということばが心の中に浮かんできたのです。

棚に並ぶ本は、『ものがたりと詩』『山と冒険』というふうに、ゆるやかにジャンル分けがなされています。
面展開されている本も多く、一冊ずつ表紙の良さを味わえるのが良いですし、ゆとりを持って並べられているので、なんだか本も居心地が良さそうにしているように見えました。

生きものではないのに、本がまるで生きているように感じられる瞬間があるのですよね。
そんなふうに感じられるところが、わたしにとっての良い本屋さんなのかな、とも思います。

奥の部屋では、「文庫本の愉しみ」と題されたイベントが行われていて、壁際に並ぶ文庫本と、静岡に工房を構えておられる"藍染屋ほうね"さんの藍染作品が展示されていました。(会期は12/1まで)

天窓から降り注ぐ光の下で、藍染の大きな布が静かにたたずむ姿の美しさから、しばらく目が離せません。
窓辺には、文庫本袋や栞なども並べられています。
様々な柄の藍染の布をレジン栞に仕立てたものが光を浴びてきらきらしていて、思わず"綺麗"と小さく声に出してしまいました。


文庫本も、"厚さ"や"解説"などのユニークな視点から並べられており、目にしたことのある本も、いつもとは違った表情のように感じられ、その中からそっと一冊を手に取り、階下へと向かったのでした。



藍染の布が挟まれたレジン栞と、購入した本。
二冊とも、表紙に心を捉えられました。


帰宅してから、さっそく『たやさない』に目を通すと、こんな一節に出会いました。

というわけでこのリトルプレスは、いまの僕自身にとって必要だと思った「たやさない」ことをテーマにつくりあげている。元を辿れば「つづけていくことの難しさ」の解決の糸口として、ものづくりや創作活動に携わる仲間たちの日々に注目したいというアイディアから始まった。なにか創作活動をしている、していたという人にはぜひ一緒にチャレンジしてほしい。

『たやさない』 hoka books
"たやさないことをめざして"   嶋田翔伍 より


この文章を読んでいると、今日、この本屋さんを訪れることが出来た幸運を感じずにはいられませんでした。
実はこの日、noteに記事を書きながら、しっくりくることばに手が届かない、というもどかしさを抱いていて、書きつづけることの難しさに思いを馳せていたのです。

そんなときに出会った、"つづけることをつづける"ための種火のような小さな本が、心の中を照らしてゆく。

光に満ちた部屋の中で静かに並ぶ本の姿を思い返すと、
この先も書くことをつづけていこうと思えるのでした。











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夏樹
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。 あなたの毎日が、素敵なものでありますように☺️