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2014年4月の記事一覧
台風の夜(短編小説/794字)
台風が接近している。明日の学校は臨時休校になったし、なかなか楽しい。楽しいけれど、外に出ようとすると母さんに怒られるので出られない。こんな時にテレビゲームなんかしていても面白くないし、勉強なんかもっとする気になれない。何かいい方法はないものだろうか。停電でもしてくれればいいのに。
と、思っていたら本当に停電した。家中の電気が消えて、母さんが大騒ぎしている。その隙にぼくは外に出ようと思い、忍び
パープルゼリー(短編小説/209字)
郵便受けを覗いたら、差し出し人の記載がない小包が届いていた。
封を開けて中を見ると、ゼリーがぽつんとしまってある。
ラッピングがされてるわけでもなく、未包装のままの、紫色に透けたゼリーだ。
ゼリーの横には、湿りでふにゃふにゃになっているカードが添えられていて、『この実は恋らない』と書いてある。
ゼリーの中にはブドウの実が入っていた。
まあ、恋らないよねと思う。
ゼリーは花
脱皮(短編小説/632字)
薬指の第一関節あたりの表皮が剥がれて、白くなっている。
日焼けしすぎた時みたいにボロボロと取れていくのが面白くて剥いていたら、べりっと腕の方まで剥けた。痛みは全くない。
さすがに怖くなって医者に診てもらうと、ただの脱皮だと言われた。なんだ脱皮か。
私の家を喫茶店か何かと勘違いしている友人が何の予告もなしに訪れた時、私は剥けた皮を彼に見せた。
無反応。面白くない。
友人は椅子に
魔法(短編小説/1428字)
眠っている間に、瞼の裏でちかちかと眩しいものが輝いているので目を覚ます。
切れているはずの電灯が星のように光っていて、実際それは星以外の何者でもないんじゃないかというぐらい、鮮やかな煌めきだった。
けれども光源は電灯ではなく、光そのものだった。拳大のまあるい光。ふわり漂ってそれが近付いてくるので、僕はサングラスが欲しくなる。
『その願い、叶えましょう』
どこからか声がすると、いつの
コロブトリ(短編小説/424字)
コロブトリはこの街の浜辺によく飛んでくる鳥で、ころころと太っているからコロブトリと呼ばれている。
と、ぼくは学校の先生に教わったのだけど、父さんは「いや、コロブトリは歩くと必ず転ぶからコロブトリなのだ」と言う。
事の真偽を確かめるために、ぼくは夏休みの自由課題を、コロブトリの研究に決めた。
観察を始めて一日目。どうやらコロブトリの中にも、太っていない鳥がいる。
観察を始めて五日目
絵本(短編小説/587字)
私がこの世に生誕した記念日に、母親が本を買ってきた。
やけに厳重なラッピングがされた分厚いそれを、
「はい、誕生日のプレゼント」
と渡される。
図書カードでもくれた方がよかったのに、と内心で思いながら私は聞く。
「何の本?」
「飛び出す絵本よ」
満面の笑みでそう言われて、私は反応に困った。
十年前ならともかく、今さらこんなもので喜ぶ年じゃない。
「気をつけてね。飛び出す
太陽行路(短編小説/1308字)
ある時から急に、太陽が燃えなくなった。
友人に相談してみると、太陽の燃料が切れているんじゃないかということだった。
じゃあ燃料を足してやらなくちゃ、と僕が言うと、友人はそりゃそうだけど、と言って黙り込む。
「太陽の燃料切れは前にも何度かあったんだ。その度に誰かが燃料を届けにロケットに乗った」
「うん」
「でも、誰も戻ってきた奴はいない」
燃料を届ける役割を持った人物は、地上に戻って