脱皮(短編小説/632字)

 薬指の第一関節あたりの表皮が剥がれて、白くなっている。

 日焼けしすぎた時みたいにボロボロと取れていくのが面白くて剥いていたら、べりっと腕の方まで剥けた。痛みは全くない。

 さすがに怖くなって医者に診てもらうと、ただの脱皮だと言われた。なんだ脱皮か。

 私の家を喫茶店か何かと勘違いしている友人が何の予告もなしに訪れた時、私は剥けた皮を彼に見せた。

 無反応。面白くない。

 友人は椅子に座ってひたすら本を読んでいる。図書館よりも静かな男だ。

 暇なので皮を剥き続けていると、剥いた後の肌に、炙り出しのような文字列が浮かび上がってきた。『告るなら今』。

 私は座っている友人の顔を七秒間ほど見つめ、それから彼が読んでいる本を遮るように文字の浮かんだ肌を見せた。

 それを見た瞬間、彼は口を開いた。

「俺と付き合って下さい」
「ヤだ」

 私はさらに皮を剥き続けた。
 すると今度は、『優しいセリフ』という文字が浮かび上がった。友人に見せると、彼は再び口を開いた。

「君はみんなが正しいと思いすぎているんだよ」
「そうでもないよ」

 私はさらに皮を剥き続けた。
 すると今度は、『小粋なジョーク』という文字が浮かび上がった。友人に見せる。

「シマウマの肉って白黒らしいな」
「嘘だ」

 私はさらに皮を剥き続けた。
 すると今度は、『締めの一言』という文字が浮かび上がった。友人に見せる。

「一皮剥けた?」
「今さらなに言ってんのさ」

 私はため息を吐いて、もう剥くところのなくなってしまった肌を名残惜しく眺めた。

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