ビブリオバトルの教育的価値
――ビブリオバトルは、まさに「相手の反応を踏まえながら,自分の考えが分かりやすく伝わるように表現を工夫すること」が課題なので、これを指導事項に据えた授業にはもってこいの言語活動だし、学習指導要領には明記されていなけれど重要視されている「読書」の要素も含んでいるので、教育的価値は大いにあるといっていいのではないでしょうか。
人生は物語。
どうも横山黎です。
大学生作家として本を書いたり、本を届けたり、本を届けるためにイベントを開催したりしています。
今回は「ビブリオバトルの教育的価値」というテーマで話していこうと思います。
📚ビブリオバトルを題材にした授業
昨日のことです。僕は今大学4年生で授業がほとんどないんですが、2年生で履修しておかないといけない、卒業のために必要な中等国語科教育法の授業を履修しているんです。中学校、高校の国語の授業についてあれこれ考える授業です。
もう授業も終盤で、今まで学んできたことをもとに学習指導案をつくる段階に来ました。先週の授業ではつくってきた指導案を4人くらいのグループで共有して検討する時間があったんですが、その授業の最後に、教授から「来週、このグループ、模擬授業やってね」と言われました。
白羽の矢が立ったのは、「まわりが2年生ばかりのなか実習を経験している4年生の僕がいたこと」「座っている席がいちばん前だったこと」とかいろいろ考えられるんですが、「『話す・聞く』の授業づくりというテーマのなか僕らのグループで話題に上った『ビブリオバトルを題材にした授業』に可能性を見出してくれたこと」、そして、「ビブリオバトル全国大会経験者である僕がいること」が大きかったんだと思います。
ビブリオバトルとは、自分のお気に入りの本を5分間で紹介する書評合戦のこと。聴き手にどれだけ「読みたい」と思わせられるかどうかが勝負です。高校時代から公式戦に参加してきた僕は、昨年12月、自身3度目となる全国大会への進出を実現することができました。
少し前から、国語の授業にも取り入れられていて、学習者の読書に対する興味の向上を促しているんです。実際、僕も中学3年生のときに国語の授業で本の紹介をした記憶があります。
「話すこと・聞くこと」の国語の授業とビブリオバトルの相性がとても良いことも、教授の決断の理由のひとつでしょう。したがって、僕らのグループは他の学生相手にビブリオバトルを題材にした模擬授業をすることになったのです。
📚本を紹介する言語活動
実際にどのような授業を展開していったのか簡単に説明しますね。担当したのは、4時間のうちの3時間目の授業。つまり、1,2時間目の授業をしたという前提で、3時間目から授業を進めていくというわけです。
前回、前々回の授業で、ビブリオバトルのグッドモデルの音声を聞いたり、原稿をつくったりしてきたので、3時間目の授業ではそれをもとにグループごとに本の紹介をしていく流れです。
4人くらいのグループに分かれてもらい、「発表(3分)→質疑応答(2分)→感想記述(2分)」を人数分繰り返す感じです。ビブリオバトルの公式ルールでは5分間で発表することになっていますが、今回は学習者が中学1年生ということもあり、短く3分に設定しました。
その後、他の人からの感想や指摘をもらって、自分の発表を振り返ります。話の内容もさることながら、話し方や速度、抑揚、視線などの観点から見つめ直すのです。自分では気付けなかったことに気付けるので、これが学びになるわけですね。
最後に、教師自身がグッドモデルを示すために本の紹介をしていくんですが、それをやる前に、どのような点に注意したらいい発表になるのか、学習者からグループ活動を経て気付いたことを教えてもらいます。話すときに注意することを引き出していって、それを意識しながら教師が本の紹介をしていったのです。
4人で模擬授業をやるので本来はひとりでやることを分担して行いました。何となく察しがつくとは思いますが、僕が担当したのは最後のグッドモデルを示す部分。学習者に発問して話すときに注意することを引き出して、それをもとに本の紹介をしました。ビブリオバトル全国大会経験者ほどグッドモデルにふさわしい人はいないわけで、実際に、手応えのある本の紹介をすることができました。
ちなみに、紹介したのは望月竜馬さんの『ロマンスの辞典』。この本に収録されている言葉の意味が、全てロマンチックに書かれているんです。たとえば、「忘れ物」という単語の意味は、この辞典にはこう書かれてあります。
なんとなく雰囲気が分かったと思います(笑) こんな感じで、収録されている単語の意味が全部ときめくことができる風に書かれているんですね。
さて、模擬授業のグッドモデルとして本の紹介をすることになり、この本を選んだことにはちゃんとわけがありました。実は去年の11月、僕は母校の中学校で国語の授業の一環として開催されたビブリオバトルにお呼ばれされまして、僕もちゃっかり本の紹介をしてきたんですが、そのときに紹介したのがこの本でした。中学1年生160人くらい相手に『ロマンスの辞典』を紹介したら、めちゃくちゃ盛り上がったんですね。恋を覚え始めた中学1年生には絶対に刺さる本だと思ったので選書したんですが、想像以上に盛り上がりました。ロマンチックすぎて歓声が上がったくらいです。
今回の模擬授業では大学生相手だからあのときほど盛り上がったわけではないけれど、笑いも生まれたし、ツッコミをされたりもしました。これに関しては7年やってきた経験がものをいうのかもしれないけれど、聞き手にあわせて紹介する本を変えるということは効果的であると再認識しましたね。
📚ビブリオバトルの教育的価値
もちろん上手くいかなかったこともあったけれど、個人的には「ビブリオバトルの教育的価値」を認めることができたので大収穫といったところです。
少し専門的な話にはなりますが、「中学校学習指導要領解説【国語編】」に書かれている「国語科の改訂の趣旨及び要点」の(5)には次のような文章があります。
これは教授も話していたことなんですが、学習指導要領に指導事項として読書をすることは明記されていません。ただ、上の文章にあるように、読書は「重要な活動の一つ」で、各学年において言語活動例として示されているんですよね。
つまり、学習指導要領に定められた指導事項の手立てとして、「読書」を取り入れていくしかないわけです。
具体的にいうと、今回僕らの授業では、第1学年の「思考力、判断力、表現力等」の「A 話すこと・聞くこと」の(1)のウの「相手の反応を踏まえながら,自分の考えが分かりやすく伝わるように表現を工夫すること。」を目標に授業を展開していきました。
「相手の反応を踏まえ」るということは、頷きや表情など聴き手の反応に注意して、話の受け止め方や理解の状況を捉えるということです。「自分の考えが分かりやすく伝わるように表現を工夫する」ということは、聞き手の興味や関心、情報量などを考慮しながら、話し方、話すスピード、抑揚、言葉選びに注意して伝えるということです。
グループ活動の後に、グループのメンバーから感想や意見をもらって自分の発表を振り返る活動を取り入れたのは、相手の反応を踏まえて、より伝わりやすい伝え方について考えさせることをねらったから。
このように、「相手の反応を~表現を工夫すること。」を目指すために、言語活動として「ビブリオバトル(本の紹介)」=「読書活動」を設定したというわけです。
ビブリオバトルは、まさに「相手の反応を踏まえながら,自分の考えが分かりやすく伝わるように表現を工夫すること」が課題なので、これを指導事項に据えた授業にはもってこいの言語活動だし、学習指導要領には明記されていなけれど重要視されている「読書」の要素も含んでいるので、教育的価値は大いにあるといっていいのではないでしょうか。
最後にひとつ。
実は、この模擬授業の指導案をつくったのは僕ではないんです。別の人なんです。もちろん僕も課題だから指導案をつくったけれど、正直特別モチベーションもなかったので、以前教育実習で使った指導案を手直ししたものを用意していたんです。しかし、同じグループになった二年生のひとりがビブリオバトルを題材にした授業を考えてきてくれていて、それを聞いた瞬間に、なんで僕がこれを考えていないんだろうと不思議になりました。ビブリオバトルに挑戦しておきながら、そしてその教育的価値があると信じておきながら、思考を放棄していました。指導案を用意してくれた子をはじめ、同じグループのメンバーがいなければ、ビブリオバトルの教育的価値を実践的に見つめることはできなかったので、本当に感謝です。
こういう偶然が起こるとき、ビブリオバトルをやってきてよかったなと思うし、これからも本紹介をはじめ本にまつわる活動は続けていきたいなと思ったし、2年生のときに履修し忘れてよかったなと思いました(笑)
#忘れるな
20240119 横山黎
※母校の中学校で『ロマンスの辞典』を紹介したときの様子↓↓↓