デジタル社会は持続不可能!という『逆張り本』を紹介!
現代社会において、デジタル技術は欠かせないものとなっています。
スマートフォン、インターネット、クラウドコンピューティングなど、私たちの生活はデジタル技術によって支えられています。
しかし、その一方で、デジタル社会の持続可能性に疑問を投げかける声も上がっています。
フランス人ジャーナリスト、ギヨーム・ピトロン氏の著書『なぜデジタル社会は「持続不可能」なのか』は、まさにこの問題に焦点を当てた一冊です。
ピトロン氏は資源地政学を専門とし、『ル・モンド・ディプロマティーク』誌などに寄稿するジャーナリストであり、ドキュメンタリー監督でもあります。
パリ大学で法学修士、ジョージタウン大学で国際法修士号を取得し、レアメタルと地政学について、フランス議会などに定期的にレクチャーも行っています。
本書では、デジタル技術が環境に与える影響について、詳細な調査と分析に基づいて論じられています。
本書は全10章とエピローグから構成されており、デジタル技術の進化と環境破壊の未来について、様々な角度から考察しています。
例えば、第1章「デジタル・テクノロジーとエコロジーの関係は空想にすぎない」では、デジタル技術が環境に優しいという一般的な認識に疑問を呈し、その裏に隠された環境負荷の実態を明らかにしています。
第2章「スマートフォンの平穏さはどこに?」では、スマートフォンの製造に必要なレアメタルの採掘による環境破壊の実態を報告しています。
第5章「ものすごい電気の無駄づかい」では、データセンターの膨大な電力消費量を取り上げ、その問題点を指摘しています。
デジタル社会の隠されたコスト
ピトロン氏は、デジタル社会が環境に負荷をかけているという事実を、様々な角度から明らかにしています。
データセンターの環境負荷
クラウド化の進展に伴い、世界中に巨大なデータセンターが建設されています。
これらのデータセンターは、サーバーの冷却や稼働に膨大な電力を消費し、温室効果ガスの排出に大きく貢献しています。
例えば、米国のデータセンターは、年間200テラワット時の電力を消費しており、これは原子力発電所20基分に相当します。
また、データセンターの建設には、コンクリートや鉄などの資源が大量に必要とされ、これも環境負荷を高める要因となっています。
レアメタルの採掘による環境破壊
スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器には、レアメタルと呼ばれる希少な金属が使用されています。
これらのレアメタルは、その多くが発展途上国で採掘されており、採掘過程での環境破壊や人権問題が深刻化しています。
例えば、コンゴ民主共和国では、コバルトの採掘によって、土壌や水質汚染、児童労働などの問題が発生しています。
海底ケーブルによる海洋生態系への影響
インターネットの通信には、海底ケーブルが不可欠です。世界中に張り巡らされた海底ケーブルは、その総延長が100万キロメートルを超えています。
海底ケーブルの敷設は、海洋生態系に悪影響を与える可能性があります。
例えば、ケーブルの敷設工事による海底の掘削は、海洋生物の生息環境を破壊する可能性があります。
また、ケーブルから発生する電磁波は、海洋生物の行動に影響を与える可能性も指摘されています。
持続可能なデジタル社会に向けて
ピトロン氏は、デジタル社会の負の側面を明らかにするだけでなく、持続可能なデジタル社会を構築するための方策についても提言しています。
デジタル技術の利用を抑制する
デジタル技術の利用を抑制し、本当に必要なものだけを選択することが重要です。
例えば、メールの送信や動画の視聴を控える、不要なアプリを削除する、古いデジタル機器を長く使うなど、日常生活の中でできることから始めることができます。
再生可能エネルギーの利用を促進する
データセンターやデジタル機器の製造に必要な電力を、再生可能エネルギーで賄うことが重要です。
太陽光発電、風力発電、地熱発電などの再生可能エネルギーの導入を促進することで、デジタル社会の環境負荷を低減することができます。
デジタル機器のリサイクルを推進する
スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器には、レアメタルなどの貴重な資源が含まれています。
これらの資源をリサイクルすることで、環境負荷を低減するとともに、資源の枯渇を防ぐことができます。
環境問題と地政学
本書では、環境問題だけでなく、地政学的な視点からもデジタル社会の問題点が指摘されています。
レアメタルの偏在と資源ナショナリズム
レアメタルは、特定の国や地域に偏在しているため、その供給をめぐる国際的な競争が激化しています。
中国は、世界のレアメタル生産の多くを占めており、その影響力を強めています。
このような状況は、資源ナショナリズムの台頭を招き、国際的な緊張を高める可能性があります。
海底ケーブルの制御
海底ケーブルは、インターネット通信の要であり、その制御は国家安全保障にも関わる重要な問題です。
海底ケーブルの敷設や保守は、特定の企業や国によって行われており、そのことが国際的な力関係に影響を与える可能性があります。
デジタル社会の持続可能性に関する議論
近年、デジタル社会の持続可能性に関する議論が活発化しています。
デジタル庁は、デジタル化による経済成長と社会課題の解決を両立させる「Society 5.0」の実現を目指し、その中でデジタル社会の持続可能性を重要な課題として位置づけています。
デジタル庁は、Society 5.0の実現に向けて、デジタル産業基盤の強化、デジタル化の浸透、データ連携の推進、国と地方が共通利用できるデジタル基盤の整備・運用、国際連携の強化などを重点課題として取り組んでいます。
国土交通省は、デジタル化による「安全・安心、生産性の向上」、「移動の制約解消・充実」、「日常生活やまちづくりの高度化」を図り、持続可能で活力ある豊かな暮らしと社会の実現に向けて、様々な取り組みを進めています。
具体的には、災害情報の充実、自動運転、移動の多様化・円滑化、住宅やオフィスのエネルギー効率化など、デジタル技術を活用した社会課題の解決を目指しています。
国際連合大学では、SDGsの達成と持続可能な開発の実現に向けて、デジタル技術やAIの発展がもたらす新たな可能性や、その実現へ向けたガバナンスやパートナーシップなどについて議論するシンポジウムを開催しています。
数日前に開催されたシンポジウムでは、グローバル・デジタル・コンパクト(GDC)とデジタル技術の活用が、持続可能な未来の実現に向けた変革をどのように加速させるかについて議論されました。
GDCは、2024年9月に開催された国連未来サミットにおいて採択された、デジタル協力とAIガバナンスに関する初めての包括的な合意文書であり、「すべての人々にとって包摂的で、開かれ、持続可能で、公正かつ安全・安心できるデジタルの未来」を築くことを目標としています。
デジタル社会の持続可能性に関する最新動向
デジタル社会の持続可能性に関する最新動向としては、以下のようなものが挙げられます。
デジタル庁は、デジタル産業基盤の強化、デジタル化の浸透、データ連携の推進、国と地方が共通利用できるデジタル基盤の整備・運用、国際連携の強化などを重点課題として、デジタル社会の実現に向けた取り組みを強化しています。
特に、AI・データの徹底した利用、デジタルに関する供給側・需要側双方の産業のモダン化、デジタル活用やDX推進のための人材育成を強化することで、産業競争力の強化と労働生産性の上昇を実現し、持続的な成長を目指しています。
社会全体のデジタル化に伴うリスクマネジメントとして、有事や大規模災害の発生も考慮し、データ自体の消失、システムの不具合、ネットワークや電力供給の途絶等のリスクへの対策を強化しています。
具体的には、インフラ整備・基盤整備等に取り組むことで、国民生活の持続可能性を確保しようとしています。
デジタル化による経済成長とビジネス革新を推進するため、クラウド、AI、ビッグデータの導入によるコスト削減や業務の効率化、新たなビジネスチャンスの創出などを促進しています。
同時に、少子高齢化や人口減少といった国内における喫緊の課題に対して、デジタル化を地域間格差の是正や新たな雇用創出の手段として活用しようとしています。
結論
ギヨーム・ピトロン氏の著書『なぜデジタル社会は「持続不可能」なのか』は、デジタル社会の負の側面を浮き彫りにし、持続可能な社会を構築するために私たちに重要な問いを投げかけています。
ピトロン氏は、デジタル技術の進化が資源の枯渇、環境破壊、国際的な緊張を高める可能性を指摘し、デジタル技術の利用を抑制すること、再生可能エネルギーの利用を促進すること、デジタル機器のリサイクルを推進することなどを提言しています。
デジタル社会の持続可能性に関する議論は近年活発化しており、政府や国際機関も様々な取り組みを進めています。
これらの議論や取り組みは、デジタル社会の持続可能性を確保するために、環境問題、経済成長、社会課題の解決、国際連携など、多角的な視点から検討を進める必要があることを示しています。
デジタル技術の恩恵を享受しながら、地球全体の持続可能性を考慮したデジタル社会を構築していくことが、私たち人類に課せられた重要な課題と言えるでしょう。