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47都道府県を巡る文学の旅:各県を舞台にした小説を紹介!【九州・沖縄地方編】

 こんにちは!
「noteの本屋さん」を目指している、おすすめの本を紹介しまくる人です!

シリーズでお送りしている、47都道府県を巡る文学の旅!

今日が最後です!
北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国と紹介したので、今日は最終第七弾、九州・沖縄地方紹介していきます!

前回までの記事、まだチェックしていない方は、こちらから読んでみてください!

北海道・東北地方編関東地方編中部地方編近畿地方編中国・四国地方編

前回同様、ここに挙げた作品以外にも多くの素晴らしい小説があること、そして「それってその都道府県じゃなくね?」みたいな本があるかもしれませんが、そこは多めに見てください!

ではいきましょう!


福岡県

夢野久作『ドグラ・マグラ』

福岡は遠藤周作の「海と毒薬」をはじめ、九州大学を舞台にした作品が多くあります。主人公は、目を覚ますと自分の名前や過去を一切覚えていない状態に陥っており、九州大学病院の精神科で治療を受けていることに気付きます。隣の病室からは「お兄さま」と呼ぶ妹の声が……。

物語が進むにつれて、主治医が若林であることや、自分が何らかの重大な犯罪に関与していたことが示唆される一方で、過去に行われた奇妙な実験や、祖先にまつわる狂気の遺伝に関する理論が浮かび上がってきます。

読者は、何が現実で何が虚構なのか、主人公の視点を通して混乱し、次第に自分自身の正気さえも疑うような感覚に陥ります。作中に登場する「ゲテレン」「バテレン」などの言葉は長崎に由来し、九州を舞台に多くの作品を書いた夢野らしさが出ているのも特徴です。

佐賀県

  • 吉田修一『悪人』 

長崎、佐賀、福岡を舞台に縦断するクライム・サスペンス。土木作業員の清水祐一が出会い系サイトで知り合った保険外交員である石橋佳乃を殺してしまい、同じく出会い系サイトで知り合った紳士服店に勤務する馬込光代を連れ逃避行するという筋書きです。

佐賀は馬込光代の出身地であり、長崎出身の祐一が愛車スカイラインを駆って福岡まで到達する中継地点となっています。ヒロインに何も無いと言われてしまう佐賀県は、地理的にも、小説のシナリオ上でも、重要なターニングポイントとなったトポスであり、語り手は地方都市に漂う人間の虚無感や寂寥感をこれでもか、というほど細やかに描き込んでいます。

長崎県

  • 遠藤周作『沈黙』

1549年、キリスト教伝来の聖地となった長崎は、独自の宗教観を醸成しており、小説にも色濃く反映されています。『沈黙』は、17世紀の日本、特にキリシタン弾圧の厳しかった長崎やその周辺を舞台に、ポルトガル人宣教師ロドリゴが直面する信仰の苦悩を描いた大作です。

長崎の風景や当時の宗教的背景が繊細かつ詳細に描かれ、日本の宗教史の一側面に光を当てた歴史小説ともいえるでしょう。異文化の狭間で揺れる宣教師と、過酷な状況に置かれた信徒たちの姿を通じて、人間の内面を剔抉する感動的な物語です。

熊本県

  • 小森陽一『オズの世界』

熊本県荒尾市にある、九州一の遊園地「三井グリーンランド」を舞台にした小説。田舎に配属されたやる気のないヒロインが、地方の遊園地で出会う人々との交流を通して成長していく人間ドラマです。

熊本地震の1年前にあたる2015年に上梓された本作ですが、すぐに映画化され、地方創生と震災復興の一助となったことは記憶に新しいです。
もちろん、この作品は今でも三井グリーンランドを象徴するシンボルになっていますよ。

大分県

  • 小野正嗣「九年前の祈り」 

2015年芥川賞受賞作。舞台は作者小野正嗣の郷里である大分県佐伯市の漁村。カナダ人夫フレデリックと別れ、息子を連れ帰郷した現在と、田舎の人と連れたってモントリオールへ旅行した過去を交互に綴ることで、35歳でシングルマザーとなった主人公さなえの心象が丁寧に掬い取られています。

蕭条とした大分の寒村を背景に、辛辣な方言を織り交ぜながら、自閉症の息子と閉塞的な田舎の風土を生々しく描き出し、さなえが人生の意味や未来への希望を模索するラストが際立っています。

宮崎県

  • 乃南アサ「しゃぼん玉」

ひったくりや通り魔事件を繰り返して逃亡を続ける翔人が、宮崎県の山奥で怪我をした老女を助けたことをきっかけに、彼女の家に身を寄せることになるというストーリーです。

老女の孫と誤解された翔人は、次第に村の生活に溶け込み、山の仕事や祭りの準備も手伝うようになります。宮崎の温かい村人たちとのふれあいを通して、荒んだ翔人の心は癒されていきます。

主人公が自分の人生をやり直す決意を固めて出頭するラストシーンが、人間の力強い更生を感じさせる美しい短篇です。

鹿児島県

  • 梅崎春生『桜島』

太平洋戦争中の鹿児島を舞台にした短編小説です。物語は、戦争の終盤に疎開してきた東京出身の若い暗号兵「私」が語り手となり、坊津での生活を描きます。戦局が悪化し、終戦間近の不安と緊張感が漂う中で「私」は地元の人々と疎遠でありながらも、日々の暮らしの中で心の変化を経験します。

物語の中心には、自然の美しさと戦争の無意味さが対比されています。桜島の雄大な自然や、戦争による混乱の中での日常生活が、静かでありながらも深い緊張感を持って描かれており、「私」は戦争の不条理や無力感を痛感していきます。戦争に翻弄される兵士が死を覚悟する心象や、絶え間なく続く戦争の脅威を背景に、戦時下における人間の心のゆらぎが活写された作品です。

沖縄県

  • 目取真俊『水滴』

戦後の沖縄を舞台に、身体的な異変を通して敗戦の傷跡を描き出した作品です。主人公の足がまるで冬瓜のように腫れ、足先から水滴が落ちてくるという不思議な現象が物語の中心に据えられています。

この異様な奇病を通して、主人公は沖縄が受けた戦争の傷跡や、戦後の重い現実に向き合わざるを得なくなります。戦死した主人公の戦友が幽霊となって枕元ではなく彼の足先に立ち、毎晩水を舐めにやってくるという描写は、一度読んだら忘れられない凄まじい体験を読者に与えます。

まとめ

最初にも言及しましたが、ここで紹介した小説は、各都道府県の文学的な魅力を垣間見るための一つの入口に過ぎません。

各都道府県には、その土地の歴史や風土、人々の暮らしを鮮やかに映し出す小説が数多く眠っています。ぜひ、この機会にあなたの興味を引く地域の作品を手に取り、新たな文学の世界へと足を踏み入れてみてください。

地元の書店や図書館を訪れるのも良いでしょうし、電子書籍リーダーを活用して気軽に読書を楽しむのもおすすめです。

小説を読むことで、まだ見ぬ土地の風景を思い描き、そこに生きる人々の心に寄り添い、そして自分自身の内面を見つめ直すことができると思います。

それは、日常を離れ、新たな発見と感動に満ちた、忘れられない旅となるはずです。

あなただけの文学の旅を始めましょう。

ページをめくるたびに広がる豊かな世界が、あなたを待っています。



【編集後記】
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