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エリート過剰生産が国家を滅ぼす?ピーター・ターチンの衝撃的な警告

近年、社会における格差や分断が深刻化し、民主主義の将来に対する不安が高まっています。

そんな中、数理モデルを用いて歴史にパターンを見出す「歴史動力学」の第一人者であるピーター・ターチンが、新たな警告を発しています。

彼の最新作『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』(早川書房)は、学歴社会の行き着く先にある危機を鋭く指摘し、大きな反響を呼んでいます。

本書では、エリート層の増加と社会不安の関係性を歴史的に分析し、現代社会が直面する課題を浮き彫りにしています。


ピーター・ターチンとは?

ピーター・ターチンは、1957年生まれのロシア系アメリカ人の進化生物学者、歴史学者です。

理論生物学者として研究を始めた後、歴史動態を数学的にモデル化する学際領域である「クリオダイナミクス(歴史動力学)」の創始者として知られるようになりました。

社会文化的進化、歴史のマクロ社会学、経済の歴史と計量経済史の交点に興味を持って研究に取り組んでいます。

ピーター・ターチンの他の著作

ターチンは、『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』以外にも、数多くの著作を発表しています。

その中には、『国家興亡の方程式 歴史に対する数学的アプローチ』や『歴史は繰り返すか』など、歴史動力学の視点から社会の変動を分析したものが含まれます。

これらの著作は、『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』で展開されている議論の背景を理解する上で役立つでしょう。

『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』の中心的な主張

『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』の中心的な主張は、社会におけるエリートの数が、社会が提供できるエリートの地位の数を超えてしまう「エリート過剰生産」が、社会不安や政治的不安定化、そして最終的には国家の崩壊につながるというものです。

ターチンは、コンピューターモデリングとビッグデータ解析を組み合わせることで、社会の不安定化を予測します。

そして、米国史のパターンから判断し、2020年代初頭に米国は再び急激に不安定な状態になると予測していました。

社会が豊かになり、高等教育を受ける人が増えると、エリート層が拡大します。しかし、エリートの地位や報酬は限られているため、多くのエリートは期待したような地位や収入を得ることができません。

このような状況下では、不満を抱いたエリートたちが「反エリート」へと転化し、社会不安や政治的混乱を引き起こします。

彼らは、既存の社会システムに挑戦し、権力構造を転覆させようとするのです。

「エリート過剰生産」という概念

ターチンは、著書の中で「エリート過剰生産」という概念を提唱しています。

これは、社会におけるエリート層の数が、社会が提供できるエリートの地位の数を超えてしまう現象を指します。

高度な教育を受けた人材が増加する一方で、社会にはそれに見合うだけのポストや報酬が不足すると、不満を抱いたエリートたちが「カウンターエリート」となり、社会不安や政治的混乱を引き起こす要因となります。

現代社会では、高等教育の普及により、大学卒業者数は増加の一途をたどっています。しかし、高学歴者に対応するだけの雇用機会は必ずしも増加しておらず、多くの若者が就職難に直面しています。

このような「エリート過剰生産」は、社会における競争を激化させ、格差を拡大させます。

そして、期待したようなキャリアを築けないエリートたちは、不満や疎外感を抱き、社会不安や政治的な極端主義に傾倒する可能性が高まります。

歴史的事例と現代社会への示唆

ターチンは、過去の様々な時代や地域を分析することで、「エリート過剰生産」が社会不安や内戦、国家の衰退に繋がってきたことを示しています。

例えば、古代ローマ帝国では、支配層のエリートが増加し、政治的な腐敗と権力闘争が激化したことが、帝国の衰退の一因となりました。

また、フランス革命も、貴族や聖職者などの特権階級に対する民衆の不満が爆発した結果であり、「エリート過剰生産」と関連付けて解釈することができます。

ターチンは、歴史は安定と不安定のサイクルを繰り返すものであり、「エリート過剰生産」は、このサイクルの中で社会が不安定化する要因の一つであると指摘しています。

現代社会においても、エリート層の増加と社会不安の関連性は無視できません。例えば、アメリカ合衆国では、高学歴者と低学歴者の間の経済格差が拡大し、政治的な分極化が進んでいます。

良かったとこ、悪かったとこ

本書の強みは、歴史的なデータと数理モデルを用いて、社会現象を客観的に分析している点にあります。複雑な社会問題を分かりやすく解説し、読者に新たな視点を提供しています。

一方、本書の弱みとして、一部の批評家からは、歴史の解釈が単純化されすぎているという指摘もあります。

結論

ピーター・ターチンの『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』は、エリート層の増加が社会に及ぼす影響について警鐘を鳴らす書籍です。

ターチンは、歴史的なデータと数理モデルを用いて、エリート過剰生産が社会不安や政治的不安定化、そして最終的には国家の崩壊につながる可能性を指摘しています。

現代社会は、グローバル化や技術革新によって、かつてないほど複雑化しています。その中で、エリート層の増加と社会不安の関係性を理解することは、社会の安定と発展を維持するために不可欠です。

本書は、読者に社会の未来について深く考えるきっかけを与え、より良い社会を築くための方策を探る上で重要なヒントがたくさん詰め込まれています。

必読です!


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