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せつない、あるいはかなしい#【掌編小説、あるいはポエム】】

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せつない、あるいはかなしい# 短いおはなし、あるいはポエムです。シリーズ、不定期で連載していきます。
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記事一覧

【1195文字の物語】#10 せつない、あるいはかなしい  『都会の夜』

【1195文字の物語】#10 せつない、あるいはかなしい  『都会の夜』

#11 都会の夜

三年間勤めた東京の会社を辞め、実家のある信州へ帰ることにした。今夜は同僚に、おしゃれな洋風居酒屋で送別会をしてもらった。スタートアップの活気ある会社、若いパワーにあふれていて、個性的な人たちの集団。でもどこか溶け込めない、部外者のような、そんな感じのする場所だった。みんないい人だったのに、なぜなんだろうね。

夜になると真っ暗で、月と星しか見えない田舎と違って、都会は夜も動いて

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[1628文字の物語】 #9 せつない、あるいはかなしい 

[1628文字の物語】 #9 せつない、あるいはかなしい 

#9 僕の彼女

彼女いない歴15年、32歳の僕に彼女ができた。

高校生の時に初めて女の子とつき合って、強烈なふられ方をして以来、女性が苦手を通り越して怖くなった。

そんな僕の心のバリアを壊してくれたのが、10歳年下のカオリンだった。若いのに苦労していて、しっかり者だった。しかもルックスが僕の推しのアイドルグループのアイちゃんにちょっと似ている。
彼女のお陰で、平凡で退屈な僕の毎日は輝き出した

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【336文字の物語】#7 せつない、あるいはかなしい

【336文字の物語】#7 せつない、あるいはかなしい

#7  マリーゴールド

タカシ君は、あいみょんが
好きだった。

ドライブではいつも
あいみょんが流れていた。

特に好きだったのは、
『マリーゴールド♬』
いつもふたりであいみょんと
一緒に歌ってた。

タカシ君はちょっと音痴で、
よく音がはずれてた。
ふたりで笑いあいながら歌ってた
あの頃。

未来なんかこわくなかった。
幸せだった。

何がタカシ君を
変えてしまったんだろう。
彼はある日突然

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【469文字の物語】 #8せつない、あるいはかなしい

【469文字の物語】 #8せつない、あるいはかなしい

♯8 マジックアワー

カナと私は親友だった。
高校の同じクラスで、吹奏楽部も一緒。
部活終わりは、よくふたりで河原の土手に座って夕焼けを見た。

「この時間帯って『マジックアワー』って言うんだって。魔法みたいに空の色が変わってすごくきれいだよね。私、この時間が一番好き」
ってカナは話していた。
カナは活発で、明るくて、おもしろい子だった。
カナといるときが、一番楽しかった。
いろんな話をして、笑

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【261文字のお話】 #4せつない、あるいはかなしい

【261文字のお話】 #4せつない、あるいはかなしい

#4   せつ君

体が弱かった私の
初めての友だち、せつ君。

こども病院で、優しかったひとつ上のお兄ちゃん。
入院したばかりの私にいろいろおしえてくれた。
折り紙が上手だった。

私が退院するとき、
「おめでとう、はいプレゼント」
って私に折り紙のヒマワリをくれた。
病院の玄関まで車椅子で見送ってくれた。
「みいちゃん、元気でね」
笑顔でそう言ってくれた。

3日後、
「せつ君、亡くなったって」

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【190文字の物語】#6せつない、あるいはかなしい

【190文字の物語】#6せつない、あるいはかなしい

#6  夕焼け

君と一緒に見た最後の夕焼けは
本当にきれいだった

夕焼けを見るたびに
君を思い出す

君との思い出が
繰り返される

でも
君はもういない

曼殊沙華が咲く季節に
永遠に手の届かない
遠いところへ
行ってしまった

君とした約束を
果たせなかった

高原の教会
白いドレスの君
バージンロードの先の
祭壇の前で待つ僕

思い描いた未来は
閉ざされた

君のいない
空虚な世界を

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【100文字の物語】 #5 せつない、あるいはかなしい

【100文字の物語】 #5 せつない、あるいはかなしい

#5  放課後の教室

放課後
だれもいない教室

あなたの机に
そっと触れてみる

好き

知ってる
片思いだって

わかってる
あなたが好きなのは
あの娘

一方通行の恋

でも私の
気持ちはとめられない

人を好きになるって
幸せだけど

苦しい

【225文字の物語】 #3せつない、あるいはかなしい

【225文字の物語】 #3せつない、あるいはかなしい

#3  細く頼りない糸は切れた

「申し訳ありません」

いつも堂々としていてダンディーだった彼。
あんなふうに汗をかきながら謝っている。
テレビ画面の中。
フラッシュがたかれ、容赦ない質問が浴びせられる。

「妻に申し訳ない」
そう聞こえた。

遠い人になった。
細く頼りない糸は切れてしまった。

覚悟していた。
愛してはいけない人を愛してしまったのだから。

後悔はしていない。
せめて別れの言葉

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【311文字のお話】#2せつない、あるいはかなしい

【311文字のお話】#2せつない、あるいはかなしい

#2   最後の電話 

そうなる予感はしていたのに、
そんなはずはないって思いたかった。

「もう俺たち終わりにしよう」
電話から聞こえた別れの言葉。
そんなはずない。
夢だって思いたかった。

私達の四年間は何だったの。
嘘だと言って。

「ごめん。今までありがとう」
そんなこと、言わないで。

「うん」
私、何言ってるの。
嫌だ、別れたくないってどうして言わないの。
プライド? そんなもの..

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[136文字の物語】#1せつない、あるいはかなしい

[136文字の物語】#1せつない、あるいはかなしい

#1  秋雨

秋雨が降る、肌寒い放課後。
ひとつの傘に入って帰って行く、チャコとゆう君の後ろ姿。

ゆう君が優しいのは、私がチャコの親友だから。
でも、あまり優しくしないでね。
辛くなる。

天気予報は曇りだったから、私、傘を持ってこなかった。
濡れて帰ろう。

雨は空の涙だって誰かが言ってた。