慈音

接客業。売り子してます。この世には色んな人がいて、楽しー。言葉遣い、お上品じゃないけど正直に書きます。

慈音

接客業。売り子してます。この世には色んな人がいて、楽しー。言葉遣い、お上品じゃないけど正直に書きます。

最近の記事

愛のない男、ある男

店の外を救急車が走った。 「救急車、乗った事ある?」 久しぶりに店に来たオーナーが、ディスプレイ用の流木を片手に聞いてきた。 「あぁ、あ…りますよ。」 「何で?盲腸?」 「いや、個人情報なんで言いません。」 「はー、また慈音にフラレた。」 と、オーナーはディスプレイを続けた。 お客が途切れた午後のひと時、ラッピング用のリボンを作りながらボーっと考えた。 救急車はいいな。助けてくれるもん。 でも救急車じゃない助けが必要な時が、生きてればある。 そんな時はどうすれば? 例えば

    • 解放

      父親が死んだ。 あたしは泣かなかった。 火葬して実家に戻った時、あたしは空を見上げた。 人生で一番、青くて広い空だった。 やっと解放された…。心が空のように自由に広がってく気がした。 あたしは虐待サバイバーだ。 接客が好きなのは、色んな人に接して、あたしの中の毒を薄めたいのかもしれない。 「人間に対する嫌悪感」という毒。 葬式はしないと母と決めていたが、親戚の反対に合い、することになった。お金は出すから、葬式をしてあげないと可哀想だと、何も知らない親戚達は言った。 葬式

      • いじめっ子が大人になると

        日曜日、そいつは旦那と子供を連れて店に来た。 他のお客さんの接客をしてる間、マスクをしたおかっぱ頭が、じっと私を見ているのには気付いてた。 そいつは私が手が空くのを待ってたように声を掛けてきた。 「慈音ちゃんでしょ?あたしあたし!小学校一緒だった〇〇だよ!」 その名前を聞いた途端、血の気が引いた。 幼い頃、私をいじめてた女の名前だ。 「ここで働いてんだー!変わらないね!すぐ分かった!」 分からなくていいから。声掛けなくていいから。はしゃがなくていいから。 店で、でかい声出

        • 彼がバツイチ子持ちだと知った時

          「彼氏が、バツイチ子持ちだった。」 いつものメンバーで飲んでたら、Aが、そう打ち明けた。 「そうなんだ。え、今知ったの?付き合って何年だっけ?」 「三年。三年も隠してたんだよ。もう許せない!」 「今時バツイチなんて珍しくないけどね。でも三年も黙ってたってのはね。」 「何かさ、時々"俺が凄い犯罪者だったらどうする?"って聞くから、何か隠してるな、とは思ってたの。人でも殺して前科とかあんのかな、って。まさかバツイチ子持ちとは。」 「犯罪者!凄い大げさー」 みんながゲラゲラ笑って

          あなたの家のミイラ

          「どしたの、それ。」 後輩が眼帯をつけてきた。 「兄貴と喧嘩したっす。」 「えー。大丈夫なの?目」 そう聞くと、後輩は、眼帯を取って見せてくれた。 目が真っ赤っ赤。周りが青いアザになってる。 「痛いす。」 「だろうね。眼医者行った?」 「いや、俺が言ってるのは、心の方す。心が痛いんすよ、はぁ。」 「…今日、仕事終わったらご飯でも行くか?」 そんなわけで、焼き鳥屋。 んで?心が痛いのってのは、なんでよ? 「いやー、これ、他の人には言わないで下さいね。」 何かやばい事?犯罪

          あなたの家のミイラ

          不登校と誕生日プレゼント

          そのお客さんは、夕方過ぎにやって来た。 どこかの会社のOLさんであろう。白シャツに膝丈スカート、黒のローパンプス。 店内を見渡して、キョロキョロしてる。 何か困ってるっぽいな。そう思って、すぐ近寄って行った。 「何かお困りの事ございましたら言って下さいね。」あ、やっぱ困ってるな。眉が8の字になってるもん。 「あのっ!」 「はい。」 「中学生の女の子の、誕生日プレゼントなんですけど。何をあげたら良いか、分からなくて…」 中学生か。あ、文房具なんてどうだろう。オーナーが、どっ

          不登校と誕生日プレゼント

          一生物って?

          売り子として接客してて、絶対に言いたくないフレーズがある。 それは「一生物ですので。」 昔、バイト先に、ヴィンテージデニムに詳しい先輩がいた。 いつも、LEVI'S501xxを穿いていた。 それは、何年も貯金して、都内まで買いに行ったと言う代物だ。 「いー感じにアタリが出てるだろ?これ、俺の一生モンだからさ。」 と、鼻高々であった。 これも、少し昔。 学生時代の先輩が、ヴァンクリーフ&アーペルのピアスを婚約相手に買ってもらったと微笑んでいた。 「どうせなら一生物が欲しい

          一生物って?

          スピリチュアルな人になりそうだった

          そのムーンストーンの指輪は、入荷したばかりだった。 入荷してから二週間経つと、私達売り子も買えるようになる。店員価格で買える。 初めて見た時から、その指輪が気になって仕方なかった。 少し透き通った、乳白色のムーンストーン。 光に当てると、ほのかに紫色に光る。 検品の時に着けてみたら、サイズがぴったりだった。 二週間、売れるか気になりながら過ごした。 時々、商品整理のふりして、また着けてみたり。 何度着けても、私の指にしっくりくる、サイズと形。 そして二週間たった。 他

          スピリチュアルな人になりそうだった

          良薬、口に苦しのお客さん

          接客が長くなった今でも、ふと思い出す、おじさまの話。 あれは接客をはじめてまだ日が浅い頃。 今より男性の物をメインに扱う店で働いてた時の事だ。 お客さんたちは優しいし、接客向いてんじゃん!と、自画自賛の日々を送っていた。 夕方来た、そのお客は、見るからに仕立ての良い、淡い色のスーツを着ていた。 年頃からいっても、かなり地位は上だと見えた。 お客様には、必ず、良かったらご試着できますので、と一言声掛けをするようにオーナーに言われていたので、近寄っていった。 ちょうど帰宅ラッ

          良薬、口に苦しのお客さん

          イケオジ必須三ヶ条

          イケオジの話。 その人はお客さん。 年齢は、かなり上。 ルックスは、昔の俳優って感じの濃い目。 喋ってると、江戸っ子か?と思うくらい、さっぱりと小気味よい。 たまに女性とやって来て、プレゼントしてあげてる。 そしてその相手が時たま変わったり、また前の人になったり。 どの人、どの子も、とても綺麗だ。 同僚の間では、キャバ嬢だか愛人だか、何人抱えてんだろう、と密かに噂されている。 その日は一人で来たイケオジ。 「女の子が履いて可愛いスニーカーが欲しいの。23.5センチで。」

          イケオジ必須三ヶ条

          大人の素敵な女性

          ある女性のお客さんの話。 その人は、うちの店に、たまにふらりと一人でやって来る。 私より年上と思われ、容姿と雰囲気が綺麗な人だなぁ、という印象。 その日もその人は、一人でやってきた。 そして帽子のブースに行って、一つ帽子を持って出てきた。 他の売り場を見ながら、また鏡に向かって帽子を被り、迷ってる様子。 その帽子の在庫がもう一つあったのを思い出し、出してきて声を掛けた。 「こちらのお帽子、手作りなので一つ一つ顔周りのつばの形が微妙に違うんです。良かったらお鏡に合わせて試し

          大人の素敵な女性

          学年一の美人が大人になると

          中学の時、学年一の美人と持て囃されたKさんの話。 同じクラスのKさんは、誰がどう見ても美人であった。クラスの男子達は事あるごとにKさんKさんと周りを囲み、チヤホヤしていた。 「Kさんって昔の森高千里にそっくりじゃね!?」「Kさんってマジ綺麗だよね、こんな綺麗な子他にいないよね。」等々。 私はその中に好きな男子が混ざってたので、「あー、面喰いなのか。私はだめだ。」と思った。 ある休み時間、群れるのがかったるくてベランダにいた。そしたら仲良い男子が寄って来て「なーなー、高木っ

          学年一の美人が大人になると

          パニック障害の友達

          学生時代からの友達、Eちゃんは、パニック発作を持っている。 集まりに来られる時と来られない時があって、みんな「ドタキャンでもいいからね、来られるならおいで」と言っている。 そんなEちゃんからイベントの誘いが来た。市内の広場を貸し切って、農産物や食や雑貨や花のマルシェが行われるらしい。 私が以前、道の駅の田舎味噌や野菜が好きで買いに行ってる、と話したのを覚えてて誘ったと言う。 もちろん行くよ、と返した。 そして1週間後。Eちゃんから「電話していい?」と連絡が入った。どうした

          パニック障害の友達

          未読の困ったちゃん

          後輩から聞いた、困ったちゃんの話。 「慈音さーん、聞いて下さいよー」今日は他のメンバーが来られなくてサシになってしまった。聞くしかないじゃん。 「未読無視ってどー思います?10日ですよ?そんなに携帯触らない奴いねーし!あのですね、Мって子がいまして。もともとルーズだし、めんどくさがりでインスタもツイッターも何もしてないんですよ。ラインだけなのね。それはいーけど、そのラインもいっつも1週間くらい未読なの!いつもはあたしがまとめ役じゃないからいーんすけどね、こないだあたしが、

          未読の困ったちゃん

          縁が切れる時

          前は一緒にいて楽しかったのに、楽しくなくなっちゃった関係の話。 友達でも恋人でも家族でも、そういう時ってありますよね。 何か、モヤモヤが続いて…あー!もう!どうしたらいいの!ってぐちゃぐちゃな状態がしばらく続いて。 すると、きっかけとなる事が起こったり、もしくはフェード・アウトの流れになるにしろ、縁が切れますね。 二度と繋がらない縁もあれば、時間が経ち、ひょんなことでまた繋がる縁もあります。 どちらにせよ、関係が断たれるのは、仲が深かった相手であればあるほど、体の半分がもぎ

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          小悪魔男子S君

          友人何人かでキャンプに行った時の話。 「モテ男」と一部に呼ばれているS君の、そう言われる理由が分かった。 S君、飄々としてる雰囲気が、何となくリリー・フランキーのような、ゆるふわ君。 みんなの輪の中でも、率先してふざけるでもなく、時々笑いながら静かに参加してるというスタンス。 陽キャでも陰キャでもない。 それは不意のアクシデント。 肉を焼いてたら、脂に火がついて炎が高く燃え上がった。日差しよけのテントの屋根まで届く勢いで、みんなが慌てた。もちろん私も慌てた。 そんな中、一

          小悪魔男子S君