いじめっ子が大人になると

日曜日、そいつは旦那と子供を連れて店に来た。

他のお客さんの接客をしてる間、マスクをしたおかっぱ頭が、じっと私を見ているのには気付いてた。

そいつは私が手が空くのを待ってたように声を掛けてきた。
「慈音ちゃんでしょ?あたしあたし!小学校一緒だった〇〇だよ!」
その名前を聞いた途端、血の気が引いた。
幼い頃、私をいじめてた女の名前だ。
「ここで働いてんだー!変わらないね!すぐ分かった!」
分からなくていいから。声掛けなくていいから。はしゃがなくていいから。
店で、でかい声出すなよ。
「私は全然気付かなかった。」
極めて低いトーンで答える私。
「あたし、太っちゃって。結婚してから二十キロ太っちゃったのー。」
幸せ太りと言ってほしいのか?でも、言わねーよ。
「結婚は?まだ?」
あー、マウント取るつもりか。
「まだしたくなくてね。仕事楽しいし。」
「うちの子、うちらの母校に通ってるんだけど、〇〇ちゃんの娘も、〇〇ちゃんの息子達も同じ学校なの!」
だからどーしたよ。同級生だっただけで、同じクラスにもなったことのない子なんて、顔も思い出せない。
「連絡取ってる子いる?あ、〇〇ちゃんと仲良かったよね、今何してるか知ってる?」
「さぁ。」
知ってるけど言わねーよ。知ったらどうせ誰かに話すんだろ。言うもんか。
「あ、〇〇ちゃんはねー、独身でOLしてて、今も実家暮らしなんだって。うち、もう一人お兄ちゃんがいてサッカーチーム入ってるんだけど、〇〇先生の息子さんがコーチなんだよー!」
「そーなんだ。ゆっくりしていってね。」
とびきりの興味ありませんよ反応と、とびきりの営業スマイルで、奴から離れた。
レジでポップ作りをしながら、あいつ、とっとと帰んねーかなー、と思っていた。

太った体に黒いゆったりしたトップス。
デブ隠しの定番。
太ったと、人に言われる前に自分から言うのは、ずるい。
自己防衛だ。
昔の話ばっかりじゃないか。狭い範囲で暮らしてるのが、よく分かる。
友達いなそーだな。あんなに人の噂話ばかりじゃあ、まともな人は関わりたくないよな。
旦那はヒョロガリで、気の弱そーな男だった。気の強い女にはぴったりか。

そして、何も買わずに奴は帰って行った。

「知り合い?」
チーフに聞かれた。
「小学校の、同級生です。」
「えー!同級生!?慈音ちゃんより、ずっと年上に見えた。」
ケケケ。昔、私を苦しめた女も、今じゃあ、太って老けた、ただの女よ。
結婚して子供がいることだけが自慢の、つまらん奴だ。
「結婚マウント取られましたよ。」
「ふーん。でも、あの旦那さんじゃあ、全然羨ましくないね。」
うーん、チーフ、相変わらず、ずばっと言う。

昔のいじめっ子なんて、こんなもんか。
容姿も、立ち居振る舞いも、話す内容も、全てにおいて、同じ土俵に立ってる気がしない。
復讐しようという気にすらならないほど、別世界の生き物。
いじめっ子は、こちらの手を汚さずとも、勝手に堕ちていく。
今、いじめられてる子達に教えてあげたい。
いじめっ子が大人になると、つまらん奴になるだけで、相手になんないよ、って。
そりゃあそーだよな、いじめなんて、面白くもない事を面白がれるんだから、元々くだらない人間なんだ。それは、大人になっても同じさ。
三つ子の魂なんとやら。

あいつ、マスクの下の顔は、どんなかな。

きっと、不細工。



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