スピリチュアルな人になりそうだった
そのムーンストーンの指輪は、入荷したばかりだった。
入荷してから二週間経つと、私達売り子も買えるようになる。店員価格で買える。
初めて見た時から、その指輪が気になって仕方なかった。
少し透き通った、乳白色のムーンストーン。
光に当てると、ほのかに紫色に光る。
検品の時に着けてみたら、サイズがぴったりだった。
二週間、売れるか気になりながら過ごした。
時々、商品整理のふりして、また着けてみたり。
何度着けても、私の指にしっくりくる、サイズと形。
そして二週間たった。
他の石の指輪は何個か売れていたが、そのムーンストーンのは、ちゃんと残ってた。
早速買った。
「お、買ったんすね」後輩がレジしてくれた。
「ムーンストーンて持ってなくて。何かいーなと思ってさ。ほら、かわいーでしょ。」と、着けて見せた。
「ふぅん。石っすか。あ、いー物がありますよ。」
後輩はバックヤードに入って、しばらくして帰ってきた。
「これ、オーナーが踏んじゃって売り物んなんなかった、デザートセージっす。ちょっとあげますね。分かりゃしないっしょ。バラバラになっちゃってるし。石、この煙で浄化するといーっすよ。」と、セージの束を、ほんの少しくれた。
「浄化って、したことないんだけど。煙に当てればいーんだよね?」
「そーっす。浄化の後は部屋の窓は開けて、悪いの逃がして下さい。石付きの何か買った時、しません?」
「しない。お客さんに聞かれた時用の、知識としては知ってたけど。」
「石にね、色んなものが付くんすよ。邪気払いしないと、怖いっすよー。俺の友達なんか、浄化なんか嘘だよってそのまま着けてたら、その日から毎日悪夢ばっか見て。やつれてましたからね。ヘッヘッヘ。慈音さん、怖いっすか?」
「こ、怖くないさ。たまたまでしょ。でも、ま、帰ったら用ないし、してみてもいーかな。うん。」
けけけ、と笑う後輩に殴るまねをして、店を後にした。
家に帰って、さっそく浄化とやらをやってみた。
素直にやってみる私であった。
だって邪気って、何か何か、嫌じゃんよ。
石のアクセは持ってるけど、こーゆーのしたことないな。
魔術みたいなさ、魔法みたいな、目に見えない分野あんじゃん。
スピリチュアルとか風水とか?私そーゆーの今まで気にした事ないからさ。
しかし、煙いな。
藁焼きって、昔、田舎のおばーちゃんちの近くでしてたけど。そーゆー匂い。
煙が石を避けて、最初はなかなか当たらなかった。
煙が嫌だよーって言ってるみたいだった。
けど、やってくうちにすんなり当たるようになった。
邪気払いねぇ。
まぁ、感覚的に嫌な感じするって事あるけど。
それを石が吸い込むの?不思議な話だね。
次の日、指輪を着けて驚いたよ。私は。
昨日より、透明度と、紫色の輝きが、増し増しになってるんだもの。
乳白色だったのが、白い模様のとこ以外は、クリスタルみたいに澄んでいる。
ひゃー。
しかも、昨日光に当てた時より、もっとずっと光っとるがな!
どーゆー事だ。もっと、もやっと白っぽかったんだよ?
光も、もっと少なかった。
二週間、毎日見てたけど全然変わらんかったのに。
家に帰っても、それは変わらなかったのに。
一晩寝たら、綺麗度、増しましたとさ。
不思議だ…。
これが浄化の力か。
かと言って、私がスピリチュアルな人になるわけでもなく。
何だか知んねーけど綺麗になって、ま、良かった、という感想。
こーゆー世界にハマっちゃう人はハマっちゃうんだろーな。しかし、何かに偏るのが好きでないんでね、私。
何事も、過ぎたるは及ばざるが如しだよ。
さらに素敵になった指輪は、増々私の、気に入った。
後輩には飲み物でも奢ってやろう。