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「青い脂」のレビューを文体模写で書いてみた
2/8 24時締め切りだった、「シミルボン」というサイトが主催していたブックレビューコンテスト向けに書いた文章です。他サイト掲載オッケーとのことだったので載せておきます。
※3/29追記 なんと、大賞受賞してしまいました!!
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Twitter文学賞は文学賞か? まあいい。
極東の小さき書評家・ユミ・トヨザキのあげた鶴ボイスにエクストリーム本好きが投じたたった1票のかけらのNツイート、たった465票、それの上澄みの35票を掬い取ったのがお前の「青い脂」だった。2013年のこの国にとっての外様翻訳のトップにお前は選ばれたのだよ、電子介在による選ばれし民によって。愛しきお前、ソローキンよ。
お前は言うのか、「そんな母数じゃゼロ=センスだ」と? ナン・センス。
本屋大賞に顕著であるべき、「そこそこ本好きの薄い関心の総体の無難な成果」こそ唾棄すべきは当然。
芥川賞さえこの国では古典回帰という名の老外体重が若者を押し潰している。
「このミス」のありようは大勢の3位が一位の総体となる湿り気のある事態を雪崩こます、それに反して、Twitterに巣食うエクストリーム本好きのドモホルンリンクルした1票の滴りが穿つのだ。Twitter文学賞よ。純真かつ高潔な王である俺はそこに未来を見ている。
そろそろ俺によるプラス=プラス=エフェクトが欲しい頃かな、ソローキン。
あるいは、「あらすじ」とやらを?
残念ながら、まだ結果は不透明なのだよ。だって、俺は「青い脂」を読み切っていないのだから。いや、読み切っても不透明な自信がある。中国語が大いにトッピングされた未来のロシア語をさらに日本語訳だなんて、肉まんと融合したピロシキを包んだ饅頭を咀嚼するようなものだと、お前も知っているだろう? 俺からお前に一言言えるのは、『とんでもない美味』。それだけだよ、すてきなソローキン。
人類の無意識とM集合知の集うAmazonレビューには変態やら男色やらヒトラーがスターリンの娘を侵すやらエロやらグロやらパロディやら歴史を冒涜やら式が並ぶが、『青い脂』はそもそもそれ以前に、そう、物語以前に拘泥すべきだ。肉まんと融合したピロシキを包んだ饅頭の「具」に拘泥すべきか? 否、拘泥すべきは「皮」だ。
未来に作られた文豪クローン、トルストイ4号やらドストエフスキー2号やらナボコフ7号の文体模写をまさしく「具」に据えているとしたら、それこそ神秘は真皮に、「皮」と、自らW言及するものだろう?
—私の記述を比較的正確に言わせてもらうと、ソローキン、違うのだ。極東の小さな王に過ぎない俺が掬い取れる味は『皮』に終始するのだ。
俺はお前の国の具を知らない。ピロシキが孕むのがどんな血滴る肉なのか、皆目全滅道(ノーウェイ)だ。
ドストエフスキー2号が官能小説を書いたとて『罪と罰』を骨折り挫折したわが身には再度の骨折しか意味しない。(なぜお前の国の人物名は「スキー」に終結する? 記憶にN負担を要する)。したがってわが身を愛する俺は文体模写シーンは全て割愛させていただいたよ。
しかしたちどころに、お前は俺を愛してくれると信じている、ソローキン。
中国語が大いにトッピングされた未来のロシア語をさらに日本語訳した小説を、ロシアの文豪を露知らぬ極東の小人間が受け取ることこそに水浸しの神秘を注ぐだろう?
逆のことを考えてみよう。未来のアメリカに支配され英語がシームレスに混じった日本語を使って芥川や太宰や川端の文豪クローンが文体模写する小説がキリル文字となり、オホーツクを越えて愛されたなら、きっと俺はその海ごと飲み干しながら歓喜の呻きをあげるだろう。
たとえ相関率が四十二パーセント以下だとしても。
虐げられた手足のまま踊る新しいお前、ソローキンよ。『青い脂』の具の味が、それでもチラリとめくれて快楽にむせぶたび、俺は、想起するのだ。そもそも言語なんて知らない赤子だった俺自身を。
全ての言葉はジャーゴンだった。だから、一語の意味を知るごとにニヤリとした。全ての赤子にとって、言語を知ることは、猥雑なプラス=プラス=エフェクトだったに相違ない、そうだろう?
ソローキン、愛しいお前は、全ての赤子が生まれながらに平らかに保持していたジャーゴンを知る歓喜を、ピストンさせるために『青い脂』を押し出したのか? きっとそうと信じる。
強い筆圧とともに。レイ
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ありがとうございます。
「文学賞受賞作」が対象のブックレビュー、ということで、普通なら芥川とか直木賞とかで書くべきところを、「青い脂」のレビューが書きたいがために無理矢理Twitter文学賞を持ち上げています。「Twitter文学賞だって文学賞だろ!?」という書き出しから始まるのはそういうことです。
※3/29追記 ・・・とか↑↑では言っちゃってましたがまさかの大賞受賞しちゃいました。つっぱしったところが評価されたようです! 選者さんには
《文学賞のこと》を語りながら、
取り上げる受賞作との関係性にも踏み込み、その作品を読んでみようかと、
いっそう強く思わせてくれたものを、優先して選んでみました。
これに付いていけない読者のことは、
はなから相手にしていないぜ、
という構えに見えながら、
でも本気で作品をすすめてくれていることが
たしかに胸に入ってくる、
ひりひりする皮肉と諧謔に、ほんともう、脱帽です。
というお褒めの言葉をいただきました。選評こちらから読んでみてね
そして「青い脂」はマジで素晴らしい本。kindleで試し読みできるからまずは冒頭数ページだけでも読んでくれ! 私もまだ読み切ってないけどね!!!笑笑笑
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