繊細なセンサー ~凄いマッサージ屋の話~
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新高円寺にフェニックス整体という名のマッサージ屋がある。最高の名前だ。死にかけの身体も蘇る。
もう5年くらい、かなり不真面目な頻度だけど通っている。たぶん台風くらいの頻度。
名前もアレだが施術もすごく変で、うつぶせになった患者の身体の二か所を同時に人差し指でトンと、そうだな、アボカドや梨の食べごろを調べるくらいの強さで、押す、というか、揉む、というか。
この身体の二か所のセレクトもかなり謎で、手首と太もも、だったり、くるぶしと尻、だったり、なんかよくわかんないところとなんかよくわかんないところだったりする。全然気持ち良くないところもある。痛くは全くない。
まさしくアボカドや梨のように、「調べられてるなー」と思う。梨に対して「気持ち良くしよう」とか「痛めつけてやろう」とかは全然思わないように、何かのサービス精神とかパフォーマンスっぽさは全く感じない、が、劇的にコリがとれる。
何より素晴らしいのは、コリ返しが無いこと。パフォーマンス的な、バキバキとかゴリゴリとかやるマッサージ屋は、その時は気持ち良いけど後から痛くなるのだ。私はそういうマッサージを「その場限りの快楽系」と呼んでいる(し、そっちに行く時もある)。(東京のどこの駅前にもひとつはあるだろう、中国系の、どっかの業者が一括で作ってるんだろうなーという似たり寄ったりの看板の60分3000円の安いところが、新高円寺駅にもあるのだ)。
マッサージと言えば、伝説的に読まれている佐々木ののかさんのnote「五体満足なのに、不自由な身体」でも、セックス以外のコミュニケーションとしてマッサージに活路を見出し、エロマッサージ店で働く描写があった。
また、社会学者の岸政彦さんも、「断片的なものの社会学」で、「インタビューは他人という名の海の中に潜ることであるし、その海から上がった後は猛烈に寂しくなる」というようなことを書いており、インタビュー後に習慣的に寄るマッサージ店があるそうだ。
私も昔はよく「人肌恋しい時はマッサージに行く」「あー男の人はこういう時に風俗に行くのかもなーって時にマッサージに行く」とよく言っていた。
(ちなみに私は性的な欲求を満たすためにマッサージ屋に行ったわけではないし、性的なマッサージ店に行ったわけでもない。フェニックス整体は、おじさんひとりがやってる店だけど、別におじさんに性的に興味があるわけでもない。佐々木ののかさんが働いたのはエロマッサージ店だったみたいだけど、岸さんが通うのは性的ではないマッサージ店のはずだ。)
しかしこれらも、1年半ほど前から、自分で自分を愛する方法を知ってからはパッタリ行かなくなった。
要はヨガとか瞑想とか、自分の身体に自分で注力する方法を知ったのだ。
ところが、この二か月くらい、ちょっとおかしな感じに凝って、「自分ではどうしようも無いから、プロの手を借りるしかない……」と思うに至った。コリの強さとしては、この店に通い始めた5年前つまり大学職員として真面目に働いていた時より数段軽いのだが、今回は、なんか、異質なのだ。いつもの肩コリとは異なり、背骨が本来ゆるやかなS字を描いているとしてそのカーブの膨らんだ二点が痛い。自分の背骨が硬直して、まるでレゴブロックの人形みたいなセルフイメージになってる(首と手足以外稼働しない)。
……みたいなことをマッサージ師のおじさんに喋ってたら、
「要は頭に気が行ってるんですよ」と言われた。
そして、頭ばかり揉まれる。
そうだ、このマッサージ店の変なポイントとして「頭ばかり揉む」というのもあった。多分施術時間の半分くらいは頭揉んでる。あんまり気持ち良くない。が、効果は確実にある。
毎回、ベッドから降りて肩をまわした瞬間に「なんで肩を全然触らないのに肩コリがとれるんだ?!」と驚愕するのだが、
「要は、ヨガしても運動しても頭のコリが溜まっちゃってるからダメ。これは心理的なもの、精神的なもの」
「頭のコリをとるには、頭で頭の中のことばかり考えるのをやめること」
とのことで、マインドフルネスとか瞑想の話について、少し会話をした。
■
最近の私は、小説を書くことに悩んでおり、「小説は、何を書いても良く、一番自由な聖域であるはずの場所なのに、なんでこんなにがんじがらめになっているんだろう」と苦しく思いつつも悩むのをやめられず、頭を固くし、そして身体も硬くしていた。
「こう書くべき」「こういうものが求められている」に縛られて、外側から固められ、まるで外骨格がバキバキの昆虫みたくなっていた。でもだからと言って内側はふつうの人間で、ふにゃふにゃなのだ、カニみたいに。
そう言えば、5年前に通い始めて3回目くらいの頃、施術が終わったおじさんがふう、といった感じで「やっと人間になってきた」と呟いたのだった。
それ以前の私の身体は「ロボットみたいだった」そうだ。
そういえば仮面ライダーは昆虫を模してデザインされたサイボーグという設定だったな。
マッサージ師のおじさんとは今までほとんど喋ったことがなかった。でも私は小野美由紀さんのライティングスクールの今月のお題「私のかたち」をきいて、久々にこの店に来たいと思ったため、いつもより積極的に喋った。
自分のかたちをしりたい、しかし自分のかたちを知るのには、自分ひとりじゃ限界がある、他人に教えてもらいたい! と強く思う。
ヨガも意味ないすよ、ヨガのインストラクターも来たけど頭はバキバキに凝ってたよ、僕はマインドフルネスを毎晩寝床で一時間やってるけどこれが一番いいんですよ、なんて話を聞いたけど、おじさんも昔はヨガをやっていたそうで、要はマインドフルネスである必然性は無く「身体に意識を向けられれば何でも良い」ってことらしい。なんだ、じゃあヨガでもいいんじゃん。ヨガだって本質はポーズにあるわけじゃなくて、「身体に意識を向けることにあるじゃん、
とかなんとか、頭を揉まれながら理屈をめぐらせて会話をしている今の私ってあんまり良くないんじゃ? これじゃ頭休まらないのでは? でもなー私、黙ると寝ちゃうんだよな、マインドフルネスも家でやると一瞬で寝ちゃって10分と持たないし。とりあえず、まあ、ひとまず、頭を巡るおじさんの指の繊細さに意識を向けることにしよう。繊細さのセンサー、センスないなー、君は天才さ、千差万別、先天性の先見性の中で見て、見て、きて見て触って、微細な仔細を触って、逆らって、流れにならうと差がなくなるよ、差がなくていいの? さがっちゃうの? 逆上がりできなかった。サレンダーできあがった。スレンダーはジレンマ、滑んな、素敵な無個性、スペルマはスプラッタ。私は繊細のなせる技。ほら君、君、君の形は? ひっきりなしに仕切り、ぎしぎし、焦り、歯ぎしり、ギリ、義理、きりきり舞いの、ギリッギリの君の形がキリが悪いよ四捨五入しよ死者の支配者、君は死体か? それじゃしがない。しかたない? とか言って語らない君の、しかし、君、君、君の中にさ言葉の川が、ガワ取ったら中にはお前の、具が、具体が、具合悪くなっちゃった? 食らいなよ臭い中身を。お前の、俺の、およその、おおよその、そこここに、散らばる、ようこそ。おにぎりの本質は海苔か? 米か? 具か? 天むすとか具が外に出てるおにぎりあるじゃないですか。エビの尻尾とか。あと最近「ほとんど具だけおにぎり」っていうの見たんですよ、駅ナカのお店で。から揚げに米とか海苔が申し訳程度にまとわりついておにぎりのぎりぎり体裁を保ってる、って感じで、でもまあ、から揚げがほぼ丸出しなんですよ。見た目的に結構ヤバいんですよ。具が、身体の中にあるものが、頭の中にあるものが、バーンと丸出しになったら死ぬけど、書いて出したら死なない。あーそう言えば背骨のここの骨がすごい飛び出してて痛いんですよ。あーそれは猫背なせいでしょ。頭のコリがとれたらその痛みも収まりますよ。
おじさんはいわゆる整体師ぽい感じじゃなくて、一応それっぽい白衣は着てるけど、「整体師でーす」っていうハツラツさ、とか、なんか、シャキッ! として、清潔感! みたいな感じでは全然無い。喋り方もモソモソしてるし、覇気も無い。
やっぱり整体師的には、シャキッ! ハツラツ! な姿の方が説得力があるしなんとなくその外面の説得力の無さが遠因で私はフェニックス整体から一時期遠ざかっていたような気もする、しかし、今は、それがおじさんの形だし、それがおじさんの健康なのだろう、と思う。だって、「僕、余計なこと考えないですもん。考えてもどうにもならないことは考えないですもん」って言ってたもん。
私も天むす型の人間であるし、天むすがフォルムの整い方を気にしたら終わりだろう。
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小野美由紀さんの「”書く私”を育てるクリエイティブ・ライティングスクール」の第一回お題「私のかたち」に向けて書いたものです。
ここから小野さん、受講生同士でフィードバックを行い、リライトするそうです。現時点で書いたものを外にアップすることを推奨されたので、アップしておきます。
書いた感想↓↓
・締め切りを半日破った。小野さんが「締め切りを気にせずに、慌てないで」的なことを言ってくれるので初回から破ってしまったが、自分は締め切りを破ると気が急いてしまうので、次回からは締め切りを守ろうと思う。
・友人から「最近の渋澤さんの文章は、頭の中で思ったことが多い。体験したことを書いた方が面白い」と言われたので、マッサージ屋に行った話を書いてみた。
・岸政彦さん、高石宏輔さんの文章がすごくすきだが、彼らは小説とエッセイの区切りがあまりない。「私もエッセイと小説の中間ぽいものを書きたいな—」なんて思ってたら、謎のモノが出来上がった。
・こういう実験は、前にも1,2回やったことがある。 https://note.mu/rayshibusawa/n/nc051e91c7b42 https://note.mu/rayshibusawa/n/nf31cb58be0d4
・お題があると肩肘張ったりしてしまうなーー。
・小野さんや受講生など、途中で投げ出さず最後まで優しく読んでくれるだろう人を対象に書いたので、いつもより息の長い文章になった。逆にフックがあまりないかなー? いつものnoteはもっと短期決戦で臨むし文章量も3分の2くらいだ。
・「誰に向けて書くか」「noteで沢山読まれるように書くのか」あるいは「エッセイコンテストに出すのか」などの目標設定が無いと書きにくい。次回からは自分で設定しようかな。
・なんとなく、現時点での目標として、
・「noteで広く読まれたい」かつ「noteでよくあるタイプの量産型エッセイは書きたくない」
・自分で新しいジャンルのエッセイ?小説?を作るしかないのでは。
・ハガキ職人を土壌にネタツイッタラーが生まれたように、カリスマnoterとかそろそろ出てもいいと思う。現時点のnoteは「元から別分野で有名だった人」ばっかで、つまんない。私がなったるでー
みたいな目標はある。
・全力を出し切った感はあんましない。「もう一越え!」という粘りを見せずに終わった。締め切りを気にして焦ってしまった。まあ、でも、うん、よくやった。楽しかった。
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★渋澤怜のTwitter→ https://twitter.com/RayShibusawa
★「ライヴが出来る小説家」渋澤怜のライヴ原稿&動画 https://note.mu/rayshibusawa/m/m2a3e7b11ec6b
★『なんで東大卒なのにフリーター? 〜チャットレディ、水商売、出会い系サクラ…渋澤怜アルバイト遍歴とこれまでの人生~』
https://note.mu/rayshibusawa/n/nb6ca37670da8?magazine_key=mf858e39e18e9
★おすすめエッセイ https://note.mu/rayshibusawa/m/mb0d4bde3bf84
★おすすめ創作群 https://note.mu/rayshibusawa/m/m70e04479475e
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