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詩集:自家中読

14
生活の中から生まれた言葉を縫い止めた刺繍。つれづれ。記録。
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#自由詩

もしもし、ほんね

もしもし、ほんね

うん
あー、元気
(胃が痛くて毎日薬飲んでる)

特に変わりないよ
(消えたいと思う日もあるよ)

ちょっと…そうだね、落ち着いたら
うん、また行けたらと思ってる
(行けない。顔を見たら糸が切れそうで)

え?うん、子どもたち?
元気だよ、全然、もう背だって追い越されそう
(独り立ちまで指折してる)

そうだねー、仕事忙しいみたい
なかなか、休みも疲れてるみたいだし
(知らない、もう業務連絡以外し

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さらば 遠心力

さらば 遠心力

25時の電話で思いを伝えあった
あのときの私たちに
信じられるだろうか

爛れた20時の朝食に笑いあった
あの日の私たちに
伝わるだろうか

あのころ私たちを隔てていた
物理的な距離は
無意味なマイルだったのに
いま
近くにいたはずの私たちの心は
月まで届くほどの場所で
さみしい岐路に立っている

写真で届いたオリオンの光を
なによりあたたかく感じた夜
同じ星をどこかで見上げあっていただけで
幸せ

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せつぞくしのタンゴ

せつぞくしのタンゴ

何度も
思い出してしまう
他愛ないやり取りだったのに

お守りのように
見つめてしまう
無機質な着信の文字を

近づけない距離だから
むやみに考えてしまう
でも
届かない手だから
むしろ安心してしまう

なのに
ガラス越しの横顔が
電話越しの声が
業務連絡の文字が
私を揺らすのは事実で
細胞の振るえを起こすのも事実だ
そして
この思いに先がないことも
紛れもない事実

だけど
行くあてのない思いだ

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テキスト、トリミング-八月終わり-

テキスト、トリミング-八月終わり-

やまのみどり
揺れる、稲
川から藻のにおい、かすか
山ぎわは白い黄色なライン

仰ぐ空は
山吹から薄紅
とうめいな紫、水色から深い青

そして群青と藍

抜ける風の中に夕げの香り

夕日に向かう単線の汽車
少し重たげに

視界の全てにかかる
ノスタルジックのオーバーレイ

帰るからす
三つ、四つ

音叉

音叉

わたしたちの会話は
心のふるえを
空気のふるえに変えて
おたがいの心に届けてる

あの日
あのとき

ほんのわずかな心のふるえを
ていねいに拾ってくれたあなたに

今度は空気をいっぱいふるわせて
ありがとうを伝えたい