さらば 遠心力
25時の電話で思いを伝えあった
あのときの私たちに
信じられるだろうか
爛れた20時の朝食に笑いあった
あの日の私たちに
伝わるだろうか
あのころ私たちを隔てていた
物理的な距離は
無意味なマイルだったのに
いま
近くにいたはずの私たちの心は
月まで届くほどの場所で
さみしい岐路に立っている
写真で届いたオリオンの光を
なによりあたたかく感じた夜
同じ星をどこかで見上げあっていただけで
幸せだった時間
触れあった指先よりも
寄り添った気持ちの方が
温度をもって体を巡ると知った日
一人で眠る夜よりも
目覚めて一人でいる方が
深くさみしいと知った朝
会いたいから
会いたいと言えないんだと
電話越しに飲み込んだ言葉
どこが
分かれ道だったんだろう
触れた体温は変わらないのに
もう何も伝わらないのは
なぜなんだろう
視線は熱を帯びると知ってしまった私には
もはやあなたの視線が熱を失っているとわかるから
あなたがどんなに努めて笑ってくれても
もう何も誤魔化せなくて
伝わらない熱に悲しくなるばかりで
一緒に見上げた
同じ月が
同じオリオンが
もう二度と
ふたりにとって同じ意味を持つことはないのだと
そればかりが浮き立って
あのころの私には
信じられるだろうか
あの人に向かう
自分の心が
体の中から
消え失せる日がくるなんて
あの人からもらった好きの言葉が
全部うそになる日がくるなんて
あのころ私たちは
あのころ、私は